スーパースター

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
8 / 18

しおりを挟む
 俺は日向子とコーヒーでも飲みに行こうかと思って、大学に戻った。
 講義が終わり、人でごった返す廊下に日向子が出てきた時、俺は声をかけ損なった。日向子は廊下の壁にへばり付いている俺に気付かず、顔いっぱいに笑みを浮かべて人ごみの中に消えていった。日向子の隣を歩いていたのは川口の野郎だ。
 元々俺と日向子は特別の間柄ではない。恋人同士なんて言えない。
 一年生の時、少人数で受ける語学の授業で一緒になり、たまたま俺の座る場所の隣に日向子が座ったことから親しくなった。日向子は綺麗だったから、俺にこれっぽっちの下心もなかったといえば嘘になる。実を言うと、初めての授業で隣に座った日向子を見た時から、俺は参っていたのかもしれない。ただ、それから三年近く過ぎようとしているのに、未だに状況はあまり変わっていない。日向子とは今以上の関係になりたいと思っているのに、何もできない自分のことが本当に情けなく思えるし、逆に日向子みたいな美人を他の奴らが放っておくのも不思議な気がしていた。
 そんな訳だから、日向子は俺の親しい友人の一人なだけだし、他の男と親しげに話をしていようと、あるいは他の誰かとどこかに行こうと、俺がどうのこうのと言える立場じゃない。
 俺はむしゃくしゃする気分と、深く落ち込んでいきそうな気分になり、そんな感情に支配される自分に腹を立ててその場を離れた。
「おい、北村」
 名前を呼ばれて俺は声の主を捜した。
 俺の数少ない友人の一人、中沢だった。
「よう」
「珍しいな。この講義を受けに来たのか?」
「もちろん。単位、危ねえし」
 俺は適当にごまかした。
「ふーん。それにしても元気ねえな。女に振られたような顔して。講義がよっぽど退屈だったか?」
 中沢が明るく言う。いつも鋭い男だ。
「これから何かある? 彼女とデートとか」
「何も無い。彼女なんていねえし」
「あれ? そう? ま、いいや。暇なら玉突きに行こう。原も来るし」
「原? 原とお前じゃ、面白くない」
 原も数少ない俺の友人の一人だ。
「いいだろ。本当言うと、原は彼女と何かもめてるみたいで、来られるかどうかわからねえって言うんだ」
「ふーん、じゃ行くか」
 俺たちは近くのビリヤード場に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

★駅伝むすめバンビ

鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……? みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!

処理中です...