スーパースター

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
6 / 18

しおりを挟む
 休みが終わり、大学の授業が始まった。昨年はリモートで講義を受けるとか、色々と面倒なことがあったけれど、今年はどうなるのだろう?
 語学の講義を終えて、俺は日向子と教室を出た。
「一緒にオリンピックを見に行く?」
 日向子が悪戯っぽく微笑みながら言った。
「え?」
「冗談よ。でも、友達がオリンピックに出るんでしょ?」
「うん。多分」
「一緒に陸上をやっていたんでしょ?」
「そうだよ」
「何をやっていたの?」
「俺? 言わなかったっけ?」
「いくら訊いても教えてくれなかったじゃない」
「そうだった? それじゃ、内緒」
「えー」
 日向子は不満そうな表情で口を尖らせた。
 俺は隠すつもりはなかったが、大した記録も残せなかった高跳びのことは言い出しにくかった。大学に入ってからはバーを跳んだことは一度もない。
「高跳びだよ。走り高跳び」
「へー」
 日向子は俺の顔を覗きこんだ。
「何だよ」
「何で大学でやらないの?」
「俺は神谷と違って、ただの凡人だからね」
「そっか。うふふふ」
 日向子は顔を伏せて笑った。
「何だ、その不気味な笑いは」
「北村君が高跳びをしている姿を想像して」
「どうせ間抜けな姿だよ」
「んーん。もしかしたら、すごく格好良かったんじゃないかと思って」
「バーカ」
 俺は高校時代の終わりごろ、受験勉強に明け暮れながら、グランドを眺めてはあのバーをもう一度跳んでみたいと思っていた。だけど大学に入ってからも競技を続けるつもりはなかった。三年の時のインターハイで、俺の跳べなかったバーを他の学校の一年生や二年生が跳び越えていくのを見るのは辛かった。
 次の講義を日向子に任せて、俺は大学のキャンパスを後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

天使の隣

鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……? みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...