19 / 32
19
しおりを挟む
「由紀はどこだ」
「女か? 悪いようにはしない」
「俺があんたを斬ってもか?」
「バカなことを言う。だがこれは一対一の勝負だ。万が一、俺が斬られたとしてもこの者たちには手を出させん。女も返す。それは約束する」
「ならば斬る」
勇治は間合いを詰める。じりじりと詰めていく。ゆっくりと時が流れる。
「チェ――ぃ!」
森下が動いた。
キン!
上からの打ち込みを咄嗟に刀で払う。
すぐに二太刀目が斜め横から振り下ろされる。
勇治は瞬時に身をかわしながら刀を出して受ける。
キン!
何かが勇治の頬を掠めた。
本能的に後ろへと飛び退く。
森下はそこから動かない。切先を下げ、口元に歪んだ笑いを浮かべる。
勇治の刀は三分の一ほどの刃を残して先がなくなっていた。
「はっはっはー。安物だな。受け方も悪い。まともに力で受けようとするとすぐに折れるぞ」
勇治は折れた刀で構えた。
「今さらそんなことを言っても無駄か。サキ、正秀を持ってこい!」
森下が叫んだ。
「え?」
社殿の前に立つ女が動揺する。
「急げ!」
後ろを見ずに森下が言う。
「はい」
女は社殿の後ろに走った。
すぐに姿を現し、綺麗な拵の刀を森下に渡す。
森下はそれを無造作に勇治の方へ放り投げた。
「抜け」
勇治は鞘を止める太い紐をほどき、刀を抜いた。刃は妖艶なまでの輝きを放っている。
「行くぞ行くぞ」
森下が間合いを詰める。
勇治は構えた。
森下が来る。
シュン!
剣が空を斬る。
勇治はぎりぎりでかわした。それが精一杯であった。
森下は次々と打ち込んでくる。
キン! キン! キン!
勇治は振り払うように受ける。
鋭い音が森の中に響く。
勇治は徐々に下がった。反撃する余裕はない。受けるので精一杯である。
森下は楽しんでいる。顔にその心の動きが現れている。勇治はそれが癪に障った。鼻を明かしてやりたいが、それどころではない。受け損なえば死が待っている。
不意に勇治は前に出て、振り下ろされた刀をがっちりと受け止めた。刀を合わせたままぐいぐい通していく。
森下は二、三歩さがったが、体に力を入れ、ぐっと踏ん張った。
二人はその場で刀を押し合う。すでに幾つも刃こぼれした刃がぎりぎりと鳴く。
勇治は押す力を左にやった。
刀が離れると同時に二人も刀を振りながら後ろに飛び退く。
服の腹のところが切られていた。森下も同じように切れている。
勝ち目はないな。
勇治は思う。剣の腕、日本刀の使い方、気力、体力の充実、全てにおいて相手が上である。こうなったら逃げるか、負けを認めて謝るか、奇策で戦うかである。
逃げ出す余裕はない。周りを囲んでいる人間は全て敵である。謝ることはプライドが許さない。謝って素直に解放してくれる相手でもない。
「女か? 悪いようにはしない」
「俺があんたを斬ってもか?」
「バカなことを言う。だがこれは一対一の勝負だ。万が一、俺が斬られたとしてもこの者たちには手を出させん。女も返す。それは約束する」
「ならば斬る」
勇治は間合いを詰める。じりじりと詰めていく。ゆっくりと時が流れる。
「チェ――ぃ!」
森下が動いた。
キン!
上からの打ち込みを咄嗟に刀で払う。
すぐに二太刀目が斜め横から振り下ろされる。
勇治は瞬時に身をかわしながら刀を出して受ける。
キン!
何かが勇治の頬を掠めた。
本能的に後ろへと飛び退く。
森下はそこから動かない。切先を下げ、口元に歪んだ笑いを浮かべる。
勇治の刀は三分の一ほどの刃を残して先がなくなっていた。
「はっはっはー。安物だな。受け方も悪い。まともに力で受けようとするとすぐに折れるぞ」
勇治は折れた刀で構えた。
「今さらそんなことを言っても無駄か。サキ、正秀を持ってこい!」
森下が叫んだ。
「え?」
社殿の前に立つ女が動揺する。
「急げ!」
後ろを見ずに森下が言う。
「はい」
女は社殿の後ろに走った。
すぐに姿を現し、綺麗な拵の刀を森下に渡す。
森下はそれを無造作に勇治の方へ放り投げた。
「抜け」
勇治は鞘を止める太い紐をほどき、刀を抜いた。刃は妖艶なまでの輝きを放っている。
「行くぞ行くぞ」
森下が間合いを詰める。
勇治は構えた。
森下が来る。
シュン!
剣が空を斬る。
勇治はぎりぎりでかわした。それが精一杯であった。
森下は次々と打ち込んでくる。
キン! キン! キン!
勇治は振り払うように受ける。
鋭い音が森の中に響く。
勇治は徐々に下がった。反撃する余裕はない。受けるので精一杯である。
森下は楽しんでいる。顔にその心の動きが現れている。勇治はそれが癪に障った。鼻を明かしてやりたいが、それどころではない。受け損なえば死が待っている。
不意に勇治は前に出て、振り下ろされた刀をがっちりと受け止めた。刀を合わせたままぐいぐい通していく。
森下は二、三歩さがったが、体に力を入れ、ぐっと踏ん張った。
二人はその場で刀を押し合う。すでに幾つも刃こぼれした刃がぎりぎりと鳴く。
勇治は押す力を左にやった。
刀が離れると同時に二人も刀を振りながら後ろに飛び退く。
服の腹のところが切られていた。森下も同じように切れている。
勝ち目はないな。
勇治は思う。剣の腕、日本刀の使い方、気力、体力の充実、全てにおいて相手が上である。こうなったら逃げるか、負けを認めて謝るか、奇策で戦うかである。
逃げ出す余裕はない。周りを囲んでいる人間は全て敵である。謝ることはプライドが許さない。謝って素直に解放してくれる相手でもない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる