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北極をこの目で見てカメラに納めたら、家に無線で連絡をする約束をお父さんとしていました。しかし家に連絡をしてしまったら、もう帰らなければなりません。
タクマは迷いました。そしてリュックサックから無線を取り出すことなく、見晴らし台を下りたのです。
タクマの立つ鉱山の先にもっと大きな丘が見え、その頂に建物が建っているのです。そこに登れば北極はもっと近くに見え、もしかしたら肉眼で植物の緑を見ることもできるかもしれません。その誘惑に逆らうことができませんでした。
見晴らし台から下りると、タクマは来た道と反対側の丘の斜面を下り始めました。
そちら側の斜面は登ってきた斜面より急で、岩も拳くらいの大きさのものがゴロゴロしています。地下から掘り上げた土砂をこちら側に捨てていたのでしょう。
タクマは慎重に足を踏み出していたのですが、慣れない石ころだらけの斜面です。丸い石を踏み、足を滑らせてしまいました。
あっと思った時にはすでに遅く、体のバランスを崩していました。
ごつごつした岩のある斜面を滑り、転がり落ちます。
ガツンとしたショックがあり、体は止まりました。
目を開くと、真っ黒い空が見えました。星が瞬いています。
滑り落ちたのはほんの十数メートルだと思います。しかし体のあちこちは岩に打ち付けられた痛みがあります。特に左腕は痺れたように力が入りません。それでも無理矢理上体を起こすと、まずやらなければならないことを冷静に行いました。
痺れる左手を持ち上げ、右腕の操作パネルを操作します。
ヘルメットのガラス面にパパパッと文字が映し出されます。それを見てタクマは一安心しました。
それは宇宙服、酸素ボンベなど生命維持装置の状態を知らせてくれるものです。映し出された文字は全てに異常がないことを示していました。
タクマは立ち上がると、これからの冒険をどうしようかと迷いました。先に進むべきか、ドームに帰るべきか。お父さんやお母さんは心配しているかもしれません。でもこの場所に来ることなど二度とないでしょう。このような冒険をすることすら二度とないと思います。今しかできないことをやりたい。そう考えたのです。
タクマは丘を目指して歩き始めました。
幸い、建物のある丘まで一時間とかからずに着けそうです。建物までの距離を測定してみると、ドームから鉱山までの距離と同じくらいです。
歩き始めて十分くらいしたでしょうか。突然、ヘルメットのガラスに赤いランプが反射しました。
タクマは心臓を叩かれたようにドキッとしました。
それは宇宙服の異常を知らせているのです。
背負ったリュックサックを降ろし、右腕のパネルを操作します。異常がどこにあるのか探します。ヘルメットのガラスに次々と文字が映し出されます。タクマにとっては難しい言葉もたくさんありますが、何とか理解しようと慎重に読んでいきます。
宇宙服の気圧、酸素濃度、それらをコントロールする装置など、異常はありません。
タクマの頭の中は真っ白になり、思考が止まりました。
「ダメだ、ダメだ。落ち着け」
タクマは声に出して自分に言い聞かせます。こんな時こそ、頭をすっきりさせて落ち着かなければなりません。それはお父さんにいつも言われていることです。慌てた時ほど落ち着けと。
タクマは心を無にしてスー、ハーと三回、深呼吸をしました。
気分が落ち着いてきます。さあ、そこで考えなくてはいけません。多くのことを考える必要はありません。今の状況をはっきりさせるだけでいいのです。
タクマは迷いました。そしてリュックサックから無線を取り出すことなく、見晴らし台を下りたのです。
タクマの立つ鉱山の先にもっと大きな丘が見え、その頂に建物が建っているのです。そこに登れば北極はもっと近くに見え、もしかしたら肉眼で植物の緑を見ることもできるかもしれません。その誘惑に逆らうことができませんでした。
見晴らし台から下りると、タクマは来た道と反対側の丘の斜面を下り始めました。
そちら側の斜面は登ってきた斜面より急で、岩も拳くらいの大きさのものがゴロゴロしています。地下から掘り上げた土砂をこちら側に捨てていたのでしょう。
タクマは慎重に足を踏み出していたのですが、慣れない石ころだらけの斜面です。丸い石を踏み、足を滑らせてしまいました。
あっと思った時にはすでに遅く、体のバランスを崩していました。
ごつごつした岩のある斜面を滑り、転がり落ちます。
ガツンとしたショックがあり、体は止まりました。
目を開くと、真っ黒い空が見えました。星が瞬いています。
滑り落ちたのはほんの十数メートルだと思います。しかし体のあちこちは岩に打ち付けられた痛みがあります。特に左腕は痺れたように力が入りません。それでも無理矢理上体を起こすと、まずやらなければならないことを冷静に行いました。
痺れる左手を持ち上げ、右腕の操作パネルを操作します。
ヘルメットのガラス面にパパパッと文字が映し出されます。それを見てタクマは一安心しました。
それは宇宙服、酸素ボンベなど生命維持装置の状態を知らせてくれるものです。映し出された文字は全てに異常がないことを示していました。
タクマは立ち上がると、これからの冒険をどうしようかと迷いました。先に進むべきか、ドームに帰るべきか。お父さんやお母さんは心配しているかもしれません。でもこの場所に来ることなど二度とないでしょう。このような冒険をすることすら二度とないと思います。今しかできないことをやりたい。そう考えたのです。
タクマは丘を目指して歩き始めました。
幸い、建物のある丘まで一時間とかからずに着けそうです。建物までの距離を測定してみると、ドームから鉱山までの距離と同じくらいです。
歩き始めて十分くらいしたでしょうか。突然、ヘルメットのガラスに赤いランプが反射しました。
タクマは心臓を叩かれたようにドキッとしました。
それは宇宙服の異常を知らせているのです。
背負ったリュックサックを降ろし、右腕のパネルを操作します。異常がどこにあるのか探します。ヘルメットのガラスに次々と文字が映し出されます。タクマにとっては難しい言葉もたくさんありますが、何とか理解しようと慎重に読んでいきます。
宇宙服の気圧、酸素濃度、それらをコントロールする装置など、異常はありません。
タクマの頭の中は真っ白になり、思考が止まりました。
「ダメだ、ダメだ。落ち着け」
タクマは声に出して自分に言い聞かせます。こんな時こそ、頭をすっきりさせて落ち着かなければなりません。それはお父さんにいつも言われていることです。慌てた時ほど落ち着けと。
タクマは心を無にしてスー、ハーと三回、深呼吸をしました。
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