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カメラをしまうと、おやつにすることにしました。鉱山でおやつを取る事は前からの予定です。この部屋に酸素が十分に残っていれば、北極の植物を見た後にここに戻り、お母さんの作ってくれたお弁当を食べることも予定に入っています。それもこの冒険の楽しみのひとつなのです。
大きな椅子に座り、右腕の小型パネルを操作すると、ヘルメットの中の口元にストローのようなホースが伸びてきました。それをくわえると、爽やかな味のゼリーが口の中に送り込まれてきました。
長い距離を歩いてきたわけではありませんから、体は疲れていません。おやつを済ませて立ち上がると、作業場のガラーンとした室内を見まわしました。前に来た時にはたくさんの機械や道具、検査器具が所狭しと置いてあったのに、今はほとんど残っていません。部屋の中を忙しそうに動き回っていたロボットもいません。その先の大きな機械がある作業場や坑道へと続く扉は、ロックされていて動かないとお父さんが言っていました。
それ以上、見るべき物がなくなったので、タクマは作業場から外に出ました。いよいよ本日の冒険の最大の目的、北極の植物をこの目で見るために鉱山の上に立つ見晴らし台に上るのです。
早速タクマは山を登り始めました。山と言っても、岩や小石を積み上げたような三十メートルほどの小さな山です。足場が悪いので、ゆっくりと時間をかけて慎重に登っていきます。
時々、面白い形をした石を拾い上げて調べます。地面にある時は変わった形だなと思って拾い上げてみても、よく観察してみるとそれほどでもなかったりします。調べ終わった石を放り投げ、また登っていきます。
すぐに山頂へと着きました。そこからでも北極にある輝く氷や、わずかばかりの緑を見ることができるはずです。しかしタクマはできるだけそちらを見ないようにして、鉄パイプを組んだ簡単な見晴らし台を上っていきました。北極を見るのは一番いい場所に着いてからのお楽しみというわけです。
五メートルほどの高さの見晴らし台の上に立つと、背負ったリュックサックを降ろし、中からカメラを取り出しました。まずはこの目で北を見ます。
丸い地平線の正面で何か光っています。あれが、太陽の光を反射している北極の氷でしょう。
北極と南極にはこの星のわずかばかりの水分を集めた小さな氷原があります。その氷原を囲むようにしてこの宇宙で一番固い植物と言われるアイアンプラントが自生しているのです。濃い緑色の葉は、人間の力では形を変えることができません。成長が遅く、一人の人間が年老いて死ぬまでの間に、その植物は葉を一枚つけるだけと言われています。
肉眼ではその緑色を確認することはできませんでした。
タクマは手にしたカメラの電源を入れて、レンズを北極へと向けます。モニターが白く光る物を映し出しました。
倍率を上げていきます。画面の中で遠くの景色がどんどん近づいてきます。最大の倍率になった時、北極のキラキラと輝く氷が見えました。その手前にもやもやとした緑色の物も見えます。アイアンプラントに違いありません。初めて自分の目で(と言ってもカメラのモニターを通してですが)この星に自生する植物を見ることができたのです。タクマはその様子を録画し、ついでに展望台の上の自分の姿も撮りました。今回の冒険の証です。
冒険のクライマックスを無事に終えて、タクマはカメラをリュックサックにしまいました。あとはお昼ご飯を食べて、家族の待つドームに帰るのです。しかし、タクマの頭の中には一つの誘惑が芽生えていました。
大きな椅子に座り、右腕の小型パネルを操作すると、ヘルメットの中の口元にストローのようなホースが伸びてきました。それをくわえると、爽やかな味のゼリーが口の中に送り込まれてきました。
長い距離を歩いてきたわけではありませんから、体は疲れていません。おやつを済ませて立ち上がると、作業場のガラーンとした室内を見まわしました。前に来た時にはたくさんの機械や道具、検査器具が所狭しと置いてあったのに、今はほとんど残っていません。部屋の中を忙しそうに動き回っていたロボットもいません。その先の大きな機械がある作業場や坑道へと続く扉は、ロックされていて動かないとお父さんが言っていました。
それ以上、見るべき物がなくなったので、タクマは作業場から外に出ました。いよいよ本日の冒険の最大の目的、北極の植物をこの目で見るために鉱山の上に立つ見晴らし台に上るのです。
早速タクマは山を登り始めました。山と言っても、岩や小石を積み上げたような三十メートルほどの小さな山です。足場が悪いので、ゆっくりと時間をかけて慎重に登っていきます。
時々、面白い形をした石を拾い上げて調べます。地面にある時は変わった形だなと思って拾い上げてみても、よく観察してみるとそれほどでもなかったりします。調べ終わった石を放り投げ、また登っていきます。
すぐに山頂へと着きました。そこからでも北極にある輝く氷や、わずかばかりの緑を見ることができるはずです。しかしタクマはできるだけそちらを見ないようにして、鉄パイプを組んだ簡単な見晴らし台を上っていきました。北極を見るのは一番いい場所に着いてからのお楽しみというわけです。
五メートルほどの高さの見晴らし台の上に立つと、背負ったリュックサックを降ろし、中からカメラを取り出しました。まずはこの目で北を見ます。
丸い地平線の正面で何か光っています。あれが、太陽の光を反射している北極の氷でしょう。
北極と南極にはこの星のわずかばかりの水分を集めた小さな氷原があります。その氷原を囲むようにしてこの宇宙で一番固い植物と言われるアイアンプラントが自生しているのです。濃い緑色の葉は、人間の力では形を変えることができません。成長が遅く、一人の人間が年老いて死ぬまでの間に、その植物は葉を一枚つけるだけと言われています。
肉眼ではその緑色を確認することはできませんでした。
タクマは手にしたカメラの電源を入れて、レンズを北極へと向けます。モニターが白く光る物を映し出しました。
倍率を上げていきます。画面の中で遠くの景色がどんどん近づいてきます。最大の倍率になった時、北極のキラキラと輝く氷が見えました。その手前にもやもやとした緑色の物も見えます。アイアンプラントに違いありません。初めて自分の目で(と言ってもカメラのモニターを通してですが)この星に自生する植物を見ることができたのです。タクマはその様子を録画し、ついでに展望台の上の自分の姿も撮りました。今回の冒険の証です。
冒険のクライマックスを無事に終えて、タクマはカメラをリュックサックにしまいました。あとはお昼ご飯を食べて、家族の待つドームに帰るのです。しかし、タクマの頭の中には一つの誘惑が芽生えていました。
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