お家に帰る

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
1 / 9

しおりを挟む
 閑散とした昼の住宅街では、太陽の光を浴びた大きな庭木が塀を越えて通りにまで枝を伸ばしている。人通りもなく、遠くで幹線道路を車が行きかっているのが見えるだけだ。
 古びた車が路地を曲がって現れ、道の脇に止まる。中にはサングラスをかけた男たち三人。運転席の男は口ひげを蓄え、助手席の男は面長の顔、後ろの席は丸顔の男だ。
 口髭の男がポケットから写真を出して面長の男に渡した。
「間違えるな」
 口髭の男が面長の男に言った。
「ああ」
 面長の男は写真をちらりと見て、丸顔の男にも見せる。
 写真に写っているのは小学校三年生の男の子。名前は山口源太郎。

 賑やかに騒ぎながら小学生たちが次々と校門から出てくる。その中に山口源太郎がいる。源太郎は数人の少年たちに囲まれている。少年たちは大柄な体の慎一、のっぽの翼、ちびのアツシ。
「太郎君、今日はしっかり勉強できたかね」
 慎一がからかうように言う。
「太郎じゃない。源太郎だってば」
「源太郎、やっぱり太郎だ」
「太郎ちゃん、太郎ちゃん」
 アツシがさらにからかうように言った。
「やめろよ」
 源太郎が迷惑そうに言う。
「よーし、みんなで、太郎ちゃーん」
「太郎ちゃーん」
「太郎ちゃーん」
「うるさい!」
 慎一たちは太郎ちゃーん、太郎ちゃーんと言いながら走り去っていく。
「畜生、バカにしやがって」
 源太郎は俯いて歩き出す。
「山口源太郎君」
 後ろから名前を呼ばれて振り向くと、同じクラスの未菜、桃、知世がいた。三人とも髪を伸ばしている。
「何だよ」
 源太郎は不機嫌そうに言った。
「またいじめられてたの?」
「違うよ」
「だらしないの」
 源太郎に話をするのは未菜だ。
「うるさい」
 源太郎は走り出した。
 唇を尖らせて未菜は源太郎を見送る。

 三人の小学生が何か騒ぎながら古びた車の横を通り過ぎていった。
 車の中で口髭の男がハッとした顔になる。
「来た」
 源太郎が一人でとぼとぼと歩いてくる。
 口髭の男はキイを回し、エンジンをかける。
 ドアを開けたまま面長男と丸顔男が車を出て源太郎を捕まえると、無理やり車の中へと押し込む。
 キッと小さくタイヤを鳴らして車は走り去る。

 源太郎を乗せた車が走り去るのを未菜たちが見ていた。
「源太郎君・・・・」
 桃が不安そうにつぶやく。
「どうしたんだろう」
 知世もつぶやく。
「さらわれたのよ。誰かに知らせなきゃ」
 未菜は毅然とした表情で言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全5章 読者への挑戦付き、謎解き推理小説 「密室の謎と奇妙な時計」

葉羽
ミステリー
神藤葉羽(しんどう はね)は、ある日、推理小説を読みふけっているところへ幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からのメッセージを受け取る。彩由美は、学校の友人から奇妙な事件の噂を聞きつけたらしく、葉羽に相談を持ちかける。 学校の裏手にある古い洋館で起こった謎の死亡事件——被害者は密室の中で発見され、すべての窓と扉は内側から施錠されていた。現場の証拠や死亡時刻は明確だが、決定的なアリバイを持つ人物が疑われている。葉羽は彩由美と共に事件に首を突っ込むが、そこには不可解な「時計」の存在が絡んでいた。

春の残骸

葛原そしお
ミステリー
 赤星杏奈。彼女と出会ったのは、私──西塚小夜子──が中学生の時だった。彼女は学年一の秀才、優等生で、誰よりも美しかった。最後に彼女を見たのは十年前、高校一年生の時。それ以来、彼女と会うことはなく、彼女のことを思い出すこともなくなっていった。  しかし偶然地元に帰省した際、彼女の近況を知ることとなる。精神を病み、実家に引きこもっているとのこと。そこで私は見る影もなくなった現在の彼女と再会し、悲惨な状況に身を置く彼女を引き取ることに決める。  共同生活を始めて一ヶ月、落ち着いてきたころ、私は奇妙な夢を見た。それは過去の、中学二年の始業式の夢で、当時の彼女が現れた。私は思わず彼女に告白してしまった。それはただの夢だと思っていたが、本来知らないはずの彼女のアドレスや、身に覚えのない記憶が私の中にあった。  あの夢は私が忘れていた記憶なのか。あるいは夢の中の行動が過去を変え、現実を改変するのか。そしてなぜこんな夢を見るのか、現象が起きたのか。そしてこの現象に、私の死が関わっているらしい。  私はその謎を解くことに興味はない。ただ彼女を、杏奈を救うために、この現象を利用することに決めた。

無限の迷路

葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。

ストーカー

Mr.M
ミステリー
『情けは人のためならず』 僕の名前は八木明人。 三十二歳。 親しい友人はいない。 女性恐怖症で交際相手もいない。 当然、独身。 そんな僕には誰にも言えない秘密があった。 ある時、 その秘密が誰かに知られていることがわかった。 細心の注意を払っていたにもかかわらず、 どうして知られることになったのか。 その人物は僕の行為を一部始終、 どこからか見ていたとしか考えられなかった。 その人物の目的は何なのか。 その人物は僕のストーカーなのか。 ストーカーは僕の身近にいる人物に違いなかった。

交換殺人って難しい

流々(るる)
ミステリー
【第4回ホラー・ミステリー小説大賞 奨励賞】 ブラック上司、パワハラ、闇サイト。『犯人』は誰だ。 積もり積もったストレスのはけ口として訪れていた闇サイト。 そこで甘美な禁断の言葉を投げかけられる。 「交換殺人」 その四文字の魔的な魅力に抗えず、やがて……。 そして、届いた一通の封筒。そこから疑心の渦が巻き起こっていく。 最後に笑うのは? (全三十六話+序章・終章) ※言葉の暴力が表現されています。ご注意ください。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

The story is set in this country

Auguste
ミステリー
連続猟奇的殺人事件、通称Splatter Museum。 世間を震撼させたこの事件から、12年の時が過ぎた。 今日本では、この事件に魅了された犯罪者達が、猟奇的事件を起こしている。 ある日、家のテレビや大型ビジョンが電波ジャックされた。 画面に映る謎の人物が、日本国民に告げた。 「皆様、はじめまして」 「私の名前はアラン・スミシー」 「映画監督です」 「私は映画を撮りたい」 「より過激で、リアリティのある、素晴らしい映画を……」 「舞台はこの日本。キャストはもちろん………」 「あなた達です」 白い布で顔を覆い、?マークが塗られた黒のレザーマスクを口元に付けた謎の人物、アラン・スミシー。 彼の考えたシナリオが、日本国民を狂気に陥れる。 マリーゴールド続編 日本全体を舞台にした、新たなサイコサスペンス。 ここに開幕!

7つの選択

星野 未来
ミステリー
 主人公の女性『美琴(みこと)』は、小さい頃からいくつもの大きな選択をしてきた。1つ目は、小学校6年生の時の選択。それが、彼女の大きな選択の歴史の始まりだった……。  両親が離婚することとなり、父か母、どちらへついて行きたいかの選択を美琴は迫られた。まだ小さかった美琴は、母には経済力がないことを知っていたため、生きて行くために『父』を選んだ。  ここから彼女の人生の分岐、選択の人生が始まった……。  そして、最後の選択をした時、父の代わりに隣にいた男性……。  切なく、辛い彼女の人生がそこにあった。  人生は選択の連続の上に成り立っている……。  これは、全て彼女の決めた道……、彼女が決めた選択だ……。

陰影

赤松康祐
ミステリー
高度経済成長期、小さな町で農業を営み、妻と子供二人と日々を共にする高城慎吾、変化に乏しいその日常に妖しげなベ-ルを纏った都会から移住して来た役場職員の山部俊介、果たしてその正体とは...

処理中です...