様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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溶けていく冬

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 僕は中学生のころ、同じクラスの麻耶のことが好きだった。時々目が合って、はにかむ様子から、麻耶も僕のことが好きなんだろうと思っていた。
 クリスマスの日に、麻耶は僕にプレゼントをくれるかもしれない。バレンタインの日にチョコレートをくれるかもしれない。卒業の日に制服のボタンをせがまれるかもしれない。そんなことを想像していたけれど、そんなことは一度もなくて、僕も自分の想いを伝えることのできないまま中学校を卒業した。
 僕と麻耶は別々の高校に進んだ。麻耶が僕の事を好きだったのかどうかは、わからずじまいだった。

 麻耶は電車通学だった。そして僕の通う高校は駅裏にあった。
 駅からまっすぐに伸びるメイン通り。大きな橋を渡るまでの区間は、僕と麻耶の共通の通学路だった。だけど、クリスマスを数日後に控えたあの日まで、僕は一度も麻耶に会ったことはなかった。
 帰宅部の僕と違って麻耶は部活をやっていたから、そもそも帰る時間帯が違ったし、僕は僕で電車が駅に着いて学生たちが大勢いる中を一緒に歩くのを嫌ったから、麻耶を見たことがないのも当然だったかもしれない。
 僕は夕方を通り越して、夜と呼べる時間に駅に立って待っていた。
 麻耶と連絡先を交換してから二カ月ほどが経っている。
 電車が来て、大勢の人たちが駅から出てきた。その中に麻耶の姿もあった。同じ制服を着た女の子たちと歩いている。
 僕はそこに近づいて声をかけた。
「麻耶」
 麻耶は驚いたように僕を見た。
「ごめん、先に帰ってて」
 麻耶は一緒に歩いていた女子たちに言った。
 女子たちは僕をちらちらと値踏みするように見て行ってしまった。
 一緒に帰ろうと言ったけれど、まだ一度も一緒に帰ったことがなかった。何度か連絡のやり取りはしたけれど、一緒に帰ろうと誘うのが照れくさかった。
 僕と麻耶は無言で並んで歩いた。
「こんなに遅い時間、珍しい、じゃない?」
 しばらくして麻耶が尋ねた。
「予備校に行くことにしたんだ。これからは時々一緒に帰れるかもしれない」
「そう。行きたい学校ができたんだ」
「まだはっきりと決めたわけじゃないんだけど。目標はできた。これからの二年間、頑張って勉強するつもり」
「すごい。もう将来の目標ができたんだ」
「麻耶だってバレー、頑張ってんだろ?」
「私はダメだよ。背が小さいから、レギュラーになるのは厳しい」
 僕は麻耶を見た。
 普通の女子の平均よりは大きいだろう。でも、バレーボールをやっている人たちの中じゃ、小さいほうになってしまうのかな?
 それからまた、僕たちは会話なく歩いた。お互いにおしゃべりな方じゃなかったから、会話は盛り上がらなかった。
 だけど、それでもよかった。僕は再び麻耶に会って、まだ麻耶のことが好きだと再認識して、こうして一緒に歩くだけで幸せに思えた。
 橋を渡ったところで僕たちは短い挨拶をして別れた。
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