様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
31 / 44
溶けていく冬

しおりを挟む
 冬。
 冬は、凍える息。
 紡ぎだす言葉と共に舞う白い冬。
 冬は、空から来る雪。
 君の肩に落ちて、ゆっくりと溶けていく白い冬。
 僕はそんな冬たちが好きだった。

 空の雲間のほんのわずかな隙間で、星が瞬いている。
 イルミネーションで煌びやかに彩られたショーウィンドウ。店から漏れ聞こえてくるクリスマスの歌に耳を傾けながら、僕は夕方の通りを歩いていた。
 大きなガラス越しに店を覗き込んでいる人を見かけて足を止めた。
 顔の三分の一を隠すほどのマフラーをしているけれど、それが誰だかわかった。
 自分の近くで立ち止まった人物に気がついたのか、麻耶が顔を上げて僕を見た。
 僕は慌てて視線をそらせて麻耶の後ろを通り過ぎた。
 少し歩いて振り返ると、麻耶は僕を見ていた。
 二度も目が合ったのにそのままやり過ごしてしまうのはどうかと思い、向きを変えて麻耶のところに行った。
「久しぶり」
「うん」
 麻耶はそっけなく返事をした。
「クリスマスのプレゼント?」
「そう」
「彼氏に?」
「まさか。いるわけないでしょ」
「ふーん」
「弟に。たまには姉貴らしいところを見せないとと思って」
「そうなんだ」
 そう言って僕は店の中で華やかに光を放つイルミネーションの中に並ぶ商品を見た。
「そうだ、一緒に見てくれない?」
「ええ?」
「男の子が欲しい物って、男の人に選んでもらった方がいいかなと思って」
「そうか。ここで会ってしまったのも運の尽き。少しだけ付き合うか」
「祐樹君と話をすること、もう二度とないかもしれないもんね」
 そう話しながら店に入る麻耶の後を追って、僕もジングルベルの曲が流れる店に入った。

 助言を求めるようなことを言っておきながら、たいして助言も求められずに弟へのプレゼントは決まり、綺麗にラッピングされた荷物を手にした麻耶と店を出た。
 いつ降り出したのか、雪が舞っていた。
「まだバレーボールやってる?」
「うん。祐樹君は野球、やめちゃったんだよね?」
「やめた。ほかのことを頑張ってみようと思って」
「勉強ができるから、そっちを頑張るんだ」
「うん、まあ」
 それきり話すこともなくて、僕たちは無言で歩いた。
 市内を流れる大きな川にかかる橋を渡ると、麻耶とは別の道を行くことになる。
 店の途切れた橋の上は、それまでの雰囲気をがらりと変えて、舞い落ちてくるふわふわとした雪が幻想的に見えた。
 そんな雪の一片が麻耶の肩に落ちて、ゆっくりと溶けていった。
「何かついてる?」
 僕の視線に気がついて麻耶が言った。
「いや。雪が降ってきたけど、寒くない?」
「寒い。早く帰らないと」
 麻耶はそう言ったけれど、歩く速度は変わらなかった。
 橋を渡りきったところで僕たちは立ち止まった。
「それじゃ」
「うん。ありがとう」
 俯き加減でそう言った麻耶の顔を見つめた。
「今度」
「ん?」
 視線を上げた麻耶が僕を見た。
「また一緒に帰ってくれる?」
 麻耶は少し考えてから頷いた。
 麻耶に連絡先を教えてもらってから僕たちは別れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私達のお正月

詩織
恋愛
出会いは元旦だった。 初詣に友達といってる時、貴方に出会った。 そして、私は貴方に恋をした

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

処理中です...