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溶けていく冬
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冬。
冬は、凍える息。
紡ぎだす言葉と共に舞う白い冬。
冬は、空から来る雪。
君の肩に落ちて、ゆっくりと溶けていく白い冬。
僕はそんな冬たちが好きだった。
空の雲間のほんのわずかな隙間で、星が瞬いている。
イルミネーションで煌びやかに彩られたショーウィンドウ。店から漏れ聞こえてくるクリスマスの歌に耳を傾けながら、僕は夕方の通りを歩いていた。
大きなガラス越しに店を覗き込んでいる人を見かけて足を止めた。
顔の三分の一を隠すほどのマフラーをしているけれど、それが誰だかわかった。
自分の近くで立ち止まった人物に気がついたのか、麻耶が顔を上げて僕を見た。
僕は慌てて視線をそらせて麻耶の後ろを通り過ぎた。
少し歩いて振り返ると、麻耶は僕を見ていた。
二度も目が合ったのにそのままやり過ごしてしまうのはどうかと思い、向きを変えて麻耶のところに行った。
「久しぶり」
「うん」
麻耶はそっけなく返事をした。
「クリスマスのプレゼント?」
「そう」
「彼氏に?」
「まさか。いるわけないでしょ」
「ふーん」
「弟に。たまには姉貴らしいところを見せないとと思って」
「そうなんだ」
そう言って僕は店の中で華やかに光を放つイルミネーションの中に並ぶ商品を見た。
「そうだ、一緒に見てくれない?」
「ええ?」
「男の子が欲しい物って、男の人に選んでもらった方がいいかなと思って」
「そうか。ここで会ってしまったのも運の尽き。少しだけ付き合うか」
「祐樹君と話をすること、もう二度とないかもしれないもんね」
そう話しながら店に入る麻耶の後を追って、僕もジングルベルの曲が流れる店に入った。
助言を求めるようなことを言っておきながら、たいして助言も求められずに弟へのプレゼントは決まり、綺麗にラッピングされた荷物を手にした麻耶と店を出た。
いつ降り出したのか、雪が舞っていた。
「まだバレーボールやってる?」
「うん。祐樹君は野球、やめちゃったんだよね?」
「やめた。ほかのことを頑張ってみようと思って」
「勉強ができるから、そっちを頑張るんだ」
「うん、まあ」
それきり話すこともなくて、僕たちは無言で歩いた。
市内を流れる大きな川にかかる橋を渡ると、麻耶とは別の道を行くことになる。
店の途切れた橋の上は、それまでの雰囲気をがらりと変えて、舞い落ちてくるふわふわとした雪が幻想的に見えた。
そんな雪の一片が麻耶の肩に落ちて、ゆっくりと溶けていった。
「何かついてる?」
僕の視線に気がついて麻耶が言った。
「いや。雪が降ってきたけど、寒くない?」
「寒い。早く帰らないと」
麻耶はそう言ったけれど、歩く速度は変わらなかった。
橋を渡りきったところで僕たちは立ち止まった。
「それじゃ」
「うん。ありがとう」
俯き加減でそう言った麻耶の顔を見つめた。
「今度」
「ん?」
視線を上げた麻耶が僕を見た。
「また一緒に帰ってくれる?」
麻耶は少し考えてから頷いた。
麻耶に連絡先を教えてもらってから僕たちは別れた。
冬は、凍える息。
紡ぎだす言葉と共に舞う白い冬。
冬は、空から来る雪。
君の肩に落ちて、ゆっくりと溶けていく白い冬。
僕はそんな冬たちが好きだった。
空の雲間のほんのわずかな隙間で、星が瞬いている。
イルミネーションで煌びやかに彩られたショーウィンドウ。店から漏れ聞こえてくるクリスマスの歌に耳を傾けながら、僕は夕方の通りを歩いていた。
大きなガラス越しに店を覗き込んでいる人を見かけて足を止めた。
顔の三分の一を隠すほどのマフラーをしているけれど、それが誰だかわかった。
自分の近くで立ち止まった人物に気がついたのか、麻耶が顔を上げて僕を見た。
僕は慌てて視線をそらせて麻耶の後ろを通り過ぎた。
少し歩いて振り返ると、麻耶は僕を見ていた。
二度も目が合ったのにそのままやり過ごしてしまうのはどうかと思い、向きを変えて麻耶のところに行った。
「久しぶり」
「うん」
麻耶はそっけなく返事をした。
「クリスマスのプレゼント?」
「そう」
「彼氏に?」
「まさか。いるわけないでしょ」
「ふーん」
「弟に。たまには姉貴らしいところを見せないとと思って」
「そうなんだ」
そう言って僕は店の中で華やかに光を放つイルミネーションの中に並ぶ商品を見た。
「そうだ、一緒に見てくれない?」
「ええ?」
「男の子が欲しい物って、男の人に選んでもらった方がいいかなと思って」
「そうか。ここで会ってしまったのも運の尽き。少しだけ付き合うか」
「祐樹君と話をすること、もう二度とないかもしれないもんね」
そう話しながら店に入る麻耶の後を追って、僕もジングルベルの曲が流れる店に入った。
助言を求めるようなことを言っておきながら、たいして助言も求められずに弟へのプレゼントは決まり、綺麗にラッピングされた荷物を手にした麻耶と店を出た。
いつ降り出したのか、雪が舞っていた。
「まだバレーボールやってる?」
「うん。祐樹君は野球、やめちゃったんだよね?」
「やめた。ほかのことを頑張ってみようと思って」
「勉強ができるから、そっちを頑張るんだ」
「うん、まあ」
それきり話すこともなくて、僕たちは無言で歩いた。
市内を流れる大きな川にかかる橋を渡ると、麻耶とは別の道を行くことになる。
店の途切れた橋の上は、それまでの雰囲気をがらりと変えて、舞い落ちてくるふわふわとした雪が幻想的に見えた。
そんな雪の一片が麻耶の肩に落ちて、ゆっくりと溶けていった。
「何かついてる?」
僕の視線に気がついて麻耶が言った。
「いや。雪が降ってきたけど、寒くない?」
「寒い。早く帰らないと」
麻耶はそう言ったけれど、歩く速度は変わらなかった。
橋を渡りきったところで僕たちは立ち止まった。
「それじゃ」
「うん。ありがとう」
俯き加減でそう言った麻耶の顔を見つめた。
「今度」
「ん?」
視線を上げた麻耶が僕を見た。
「また一緒に帰ってくれる?」
麻耶は少し考えてから頷いた。
麻耶に連絡先を教えてもらってから僕たちは別れた。
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