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泥棒少女
泥棒少女
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人が行き交う通りで、僕は誰かにぶつかった。リュックからスマホを取り出そうと中を見ている時だった。
歩道にリュックが落ち、中の物が散らばった。
目の前に立つ制服姿の女子が、驚いた顔で僕を見ていた。
「すみません」
そう言って制服女子は道に落とした自分のスマホを拾った。きっとスマホを見ながら歩いていて僕に気付かずにぶつかったのだろう。僕もリュックの中を見ていたから前に注意を払っていなかった。
スマホを操作して壊れていないのを確かめると、女子はそこにしゃがみこんで、道に散らばったものを拾い集めている僕の手伝いをしてくれた。
「ごめんなさい」
女子がチラリと僕を見て言った。
「いいよ。僕も悪かった」
道に落ちていたものを全てリュックの中に放り込んで、僕たちは立ち上がった。
女子は小さく頭を下げて去っていった。
僕はその場に立ち、リュックの中を見た。
あれ?
僕はリュックを下におろし、もう一度中の物を確認した。
そして歩道の上に何か残っていないか注意深く見まわした。
探し物はなかった。
急いで女子が去っていった方へ走って姿を捜したけれど、どこにも見当たらなかった。
次の日の学校の帰りに僕は昨日の女子に会えないかと、ぶつかった場所の近くに立って道行く人を眺めた。彼女の着ていた制服は見たことがある。そう遠くじゃないところにある高校の制服だ。
もしあの女子の通学路がここならまた同じ頃に通るだろうと考えた。けれど違ったようだ。二日そこに一時間ほど立って待ったけれど彼女には会えずに、結局諦めた。
普段はもっと遅い時間にそこを通るのだろうか? それとも何か特別の事情があって、たまたまその日にそこを歩いていただけだったのだろうか?
どうすればあの女子に会えるだろう。
そして僕はひとつの結論を出した。勇気がいることだけど、やるしかない。
僕は授業が終わると急いで教室を飛び出した。いつもは徒歩通学だけど、今日は兄貴が使っていた埃にまみれた自転車を引っ張り出してきて乗ってきていた。
自転車に飛び乗り、思いっきりペダルをこぐ。
向かう先はあの女子が着ていた制服の高校だ。
校門近くに自転車を止め、身を潜めるようにして帰宅していく人たちを眺めた。
気が付いた人が、変な物を見るような目つきで僕に視線を注ぐ。
何、構やしない。
そしてついに見つけた。彼女だ。友達らしい子と歩いてくる。
僕は勇気を出してそちらに歩いていった。
「あの」
僕の横を通り過ぎようとした彼女に声をかけた。
足を止めて振り向いた彼女が僕を見る。
ふと顔つきが変わった。あの時の僕だと気が付いたようだ。
「これ」
僕はポケットから小さな袋を取り出して彼女の方へ差し出した。
怪訝そうな顔で袋を受け取ると、中の物を取り出した。
しゃれたイヤリングだった。
「あ、あの時」
彼女が僕の顔を見て言った。
「僕のリュックに入ってた。もうひとつあるかと思って探したけど、なかった」
「もうひとつは私が持っています。これを渡すためにわざわざ・・・・?」
僕は頷いた。
「ありがとう。とても大切にしていたものだったから。よかった」
僕は彼女の安心したような顔を見て嬉しくなった。
それから僕たちは彼女の友達も含めて、しばらく無言でその場に佇んでいた。
「あの、もしよかったら」
僕は再び勇気を出して言った。
彼女が僕を見る。
「連絡先を教えてください」
言ってから僕は顔がかーっと熱くなるのを感じた。
彼女はしばらく考えて、一緒にいた友人を見る。
「いいよ」
彼女はスマホを取り出しながら言った。
僕はやっと捕まえた。
僕の心を盗んでいった泥棒を。
歩道にリュックが落ち、中の物が散らばった。
目の前に立つ制服姿の女子が、驚いた顔で僕を見ていた。
「すみません」
そう言って制服女子は道に落とした自分のスマホを拾った。きっとスマホを見ながら歩いていて僕に気付かずにぶつかったのだろう。僕もリュックの中を見ていたから前に注意を払っていなかった。
スマホを操作して壊れていないのを確かめると、女子はそこにしゃがみこんで、道に散らばったものを拾い集めている僕の手伝いをしてくれた。
「ごめんなさい」
女子がチラリと僕を見て言った。
「いいよ。僕も悪かった」
道に落ちていたものを全てリュックの中に放り込んで、僕たちは立ち上がった。
女子は小さく頭を下げて去っていった。
僕はその場に立ち、リュックの中を見た。
あれ?
僕はリュックを下におろし、もう一度中の物を確認した。
そして歩道の上に何か残っていないか注意深く見まわした。
探し物はなかった。
急いで女子が去っていった方へ走って姿を捜したけれど、どこにも見当たらなかった。
次の日の学校の帰りに僕は昨日の女子に会えないかと、ぶつかった場所の近くに立って道行く人を眺めた。彼女の着ていた制服は見たことがある。そう遠くじゃないところにある高校の制服だ。
もしあの女子の通学路がここならまた同じ頃に通るだろうと考えた。けれど違ったようだ。二日そこに一時間ほど立って待ったけれど彼女には会えずに、結局諦めた。
普段はもっと遅い時間にそこを通るのだろうか? それとも何か特別の事情があって、たまたまその日にそこを歩いていただけだったのだろうか?
どうすればあの女子に会えるだろう。
そして僕はひとつの結論を出した。勇気がいることだけど、やるしかない。
僕は授業が終わると急いで教室を飛び出した。いつもは徒歩通学だけど、今日は兄貴が使っていた埃にまみれた自転車を引っ張り出してきて乗ってきていた。
自転車に飛び乗り、思いっきりペダルをこぐ。
向かう先はあの女子が着ていた制服の高校だ。
校門近くに自転車を止め、身を潜めるようにして帰宅していく人たちを眺めた。
気が付いた人が、変な物を見るような目つきで僕に視線を注ぐ。
何、構やしない。
そしてついに見つけた。彼女だ。友達らしい子と歩いてくる。
僕は勇気を出してそちらに歩いていった。
「あの」
僕の横を通り過ぎようとした彼女に声をかけた。
足を止めて振り向いた彼女が僕を見る。
ふと顔つきが変わった。あの時の僕だと気が付いたようだ。
「これ」
僕はポケットから小さな袋を取り出して彼女の方へ差し出した。
怪訝そうな顔で袋を受け取ると、中の物を取り出した。
しゃれたイヤリングだった。
「あ、あの時」
彼女が僕の顔を見て言った。
「僕のリュックに入ってた。もうひとつあるかと思って探したけど、なかった」
「もうひとつは私が持っています。これを渡すためにわざわざ・・・・?」
僕は頷いた。
「ありがとう。とても大切にしていたものだったから。よかった」
僕は彼女の安心したような顔を見て嬉しくなった。
それから僕たちは彼女の友達も含めて、しばらく無言でその場に佇んでいた。
「あの、もしよかったら」
僕は再び勇気を出して言った。
彼女が僕を見る。
「連絡先を教えてください」
言ってから僕は顔がかーっと熱くなるのを感じた。
彼女はしばらく考えて、一緒にいた友人を見る。
「いいよ」
彼女はスマホを取り出しながら言った。
僕はやっと捕まえた。
僕の心を盗んでいった泥棒を。
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