上 下
4 / 30
泥棒少女

泥棒少女

しおりを挟む
 人が行き交う通りで、僕は誰かにぶつかった。リュックからスマホを取り出そうと中を見ている時だった。
 歩道にリュックが落ち、中の物が散らばった。
 目の前に立つ制服姿の女子が、驚いた顔で僕を見ていた。
「すみません」
 そう言って制服女子は道に落とした自分のスマホを拾った。きっとスマホを見ながら歩いていて僕に気付かずにぶつかったのだろう。僕もリュックの中を見ていたから前に注意を払っていなかった。
 スマホを操作して壊れていないのを確かめると、女子はそこにしゃがみこんで、道に散らばったものを拾い集めている僕の手伝いをしてくれた。
「ごめんなさい」
 女子がチラリと僕を見て言った。
「いいよ。僕も悪かった」
 道に落ちていたものを全てリュックの中に放り込んで、僕たちは立ち上がった。
 女子は小さく頭を下げて去っていった。
 僕はその場に立ち、リュックの中を見た。
 あれ?
 僕はリュックを下におろし、もう一度中の物を確認した。
 そして歩道の上に何か残っていないか注意深く見まわした。
 探し物はなかった。
 急いで女子が去っていった方へ走って姿を捜したけれど、どこにも見当たらなかった。

 次の日の学校の帰りに僕は昨日の女子に会えないかと、ぶつかった場所の近くに立って道行く人を眺めた。彼女の着ていた制服は見たことがある。そう遠くじゃないところにある高校の制服だ。
 もしあの女子の通学路がここならまた同じ頃に通るだろうと考えた。けれど違ったようだ。二日そこに一時間ほど立って待ったけれど彼女には会えずに、結局諦めた。
 普段はもっと遅い時間にそこを通るのだろうか? それとも何か特別の事情があって、たまたまその日にそこを歩いていただけだったのだろうか?
 どうすればあの女子に会えるだろう。
 そして僕はひとつの結論を出した。勇気がいることだけど、やるしかない。

 僕は授業が終わると急いで教室を飛び出した。いつもは徒歩通学だけど、今日は兄貴が使っていた埃にまみれた自転車を引っ張り出してきて乗ってきていた。
 自転車に飛び乗り、思いっきりペダルをこぐ。
 向かう先はあの女子が着ていた制服の高校だ。

 校門近くに自転車を止め、身を潜めるようにして帰宅していく人たちを眺めた。
 気が付いた人が、変な物を見るような目つきで僕に視線を注ぐ。
 何、構やしない。
 そしてついに見つけた。彼女だ。友達らしい子と歩いてくる。
 僕は勇気を出してそちらに歩いていった。
「あの」
 僕の横を通り過ぎようとした彼女に声をかけた。
 足を止めて振り向いた彼女が僕を見る。
 ふと顔つきが変わった。あの時の僕だと気が付いたようだ。
「これ」
 僕はポケットから小さな袋を取り出して彼女の方へ差し出した。
 怪訝そうな顔で袋を受け取ると、中の物を取り出した。
 しゃれたイヤリングだった。
「あ、あの時」
 彼女が僕の顔を見て言った。
「僕のリュックに入ってた。もうひとつあるかと思って探したけど、なかった」
「もうひとつは私が持っています。これを渡すためにわざわざ・・・・?」
 僕は頷いた。
「ありがとう。とても大切にしていたものだったから。よかった」
 僕は彼女の安心したような顔を見て嬉しくなった。
 それから僕たちは彼女の友達も含めて、しばらく無言でその場に佇んでいた。
「あの、もしよかったら」
 僕は再び勇気を出して言った。
 彼女が僕を見る。
「連絡先を教えてください」
 言ってから僕は顔がかーっと熱くなるのを感じた。
 彼女はしばらく考えて、一緒にいた友人を見る。
「いいよ」
 彼女はスマホを取り出しながら言った。
 僕はやっと捕まえた。
 僕の心を盗んでいった泥棒を。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...