様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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バレンタインの贈り物

バレンタインの贈り物

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 今年のチョコレートは五つだ。そのうち本命らしきものは三つ。あとの二つは隣の席の子と、部活のマネージャーからの義理チョコ。
 問題なのは立派な三つのチョコレートだ。

 去年のバレンタインデーにもらった本命チョコは二つだった。
 二つとも同じクラスの女の子の手作りチョコレートで、そのうちの一つは僕が秘かに想いを寄せている詩織からのものだった。
 一か月後のお返しをどうするか、僕は大いに悩んだ。詩織には自分の想いを伝えたい。もう一人の女の子には、それとなく『ごめんなさい』の意思を伝えなければならない。直接、言葉や文章にする勇気がなくて、結局、お小遣いを奮発したものを詩織に渡し、別の子にはそれなりのものを送った。
 今年、その子からチョコレートのプレゼントはなかった。

 詩織とはよく目が合う。それはお互い意識しているからだと思う。だけど僕も詩織もとてもシャイな性格だから、すぐに目をそらしてしまう。
 それは昨年のバレンタインデーにチョコレートをもらう前も、もらった後も変わらなかった。

 そして一年が過ぎ、僕はまた詩織からチョコレートをもらった。
 あとの二つのうち、すごく高そうな高級チョコレートは隣のクラスの女の子からだった。その子が金銭感覚のずれているお金持ちでない限り、それは義理チョコじゃない。
 もう一つの手作りチョコは、下級生の女の子からだった。これもチョコレート作りが大好きな子でない限り、義理チョコとはいえないだろう。
 事実、二人とも義理チョコをプレゼントされるような関係はなかったから、本命としてのチョコレートに間違いない。
 その二つのチョコのお返しをどうするか、また悩まなければならない。
 それからもう一つ。詩織のチョコレート。
 義理チョコよりは立派だけど、お隣のクラスの高級チョコレートの数分の一くらいの価格と思われる、微妙な立場のチョコレートだ。
 そして詩織が渡してくれたチョコレートの入った袋の中には、もう一つのものが入っていた。

 それは一冊の本。
 タイトルは『私だけを見て』
 むむむ。微妙。というか、考えようによっては、ストレートなタイトル。
 内容は青春恋愛ものの小説で、なかなか面白かったけれど、だから何? といった感じだった。小説の中の世界観と現実の僕たちの世界観が全く違うから、僕や詩織をその小説の中に当て込むことはできない。
 詩織はその本に何かメッセージを込めたつもりなのだろうけれど、僕としてはどのように応えてやればいいのかわからなかった。
 隣のクラスの女の子のチョコレートには、はっきりと「あなたのことが好きです」と書いたカードが付けてあったし、下級生の女の子のチョコレートにも、そんなにストレートじゃないけれど、思いを綴ったメッセージが添えられていた。
 だけど詩織のはチョコレートと本だけ。
 詩織も僕と同じで、好きだとかあなたのことが気になっているとか、そんな言葉を直接書いて渡すことが照れくさくてできないのはわかる。
 でもね・・・・

 数日あれこれ考えて、隣のクラスと下級生の女子には、お返しの品に一言、好きな人がいるというメッセージを添えて渡すことにした。相手を傷つけてしまうかもしれないけれど、あやふやにしておくより、はっきりしたほうがいいと思った。
 詩織には。
 去年は自分の想いを告げるメッセージを入れるべきか散々に迷って、結局、伝える勇気がなくて、品物だけを渡した。
 今年こそはと思うけれど、またいざとなったら尻込みしてしまうのかな。

 それからも詩織とは他の人の十倍くらいの頻度で目が合ったけれど、やっぱりお互いにすぐに目をそらしていた。
 でも、ある日の昼休みに目が合った時、詩織は睨むようにして僕をじっと見た。僕も引き込まれるように詩織を見た。
 詩織は小さなものを取り上げると、自分の目の前でひらひらと振ってみせた。
 僕は何をしているのだろうかと思った。
 そしてわかった。

 学校が終わると、僕は急いで家に帰った。
 自分の部屋に入ると、バレンタインの日に詩織からもらった本を取り出した。
 学校で詩織がひらひらさせたものは栞だった。
『私だけを見て』。詩織=栞。
 そういうことだったのか。
 本に挟まれた栞の端に、小さな文字が書いてある。
『好きです。付き合ってくれませんか?』
 反対側の端にも。
『お返事ください。詩織』
 これが詩織にできる精一杯のメッセージだったのだろう。
 僕はもう、自分の想いをはっきり詩織に伝えなければいけないと思った。
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