様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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雑踏の中のうるんだ瞳

雑踏の中のうるんだ瞳 2(ハッピーになりそうな結末)

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 高校の教室で、彼女は窓際の列の、僕の二つ前の席にいる。
 時々、日差しを浴びて光る彼女の髪を、僕はいつもうっとりと眺めた。
 
 彼女は昔から男子生徒の注目の的だ。
 誰もが憧れる存在。
 この学校のマドンナ。マドンナなんて凄く古臭い言い方かもしれないけれど、その他のどんな言葉より彼女にぴったりのような気がした。
 僕は彼女と二人で街を歩いたり、ベンチに座っておしゃべりする姿を想像して、眠れなくなるくらいだった。
 家で勉強をしていても、ふと彼女の姿が浮かんでくると、もう問題集に集中できなくなってしまう。
 そんな日々が積み重なって、僕の体の中は彼女への想いでいっぱいになった。
 はち切れそうな想いに耐えきれなくなった僕は、思い切って彼女に打ち明けることにした。

 冴えないただの一男子生徒の僕の告白に、彼女は驚き、戸惑ったようだった。
 少し考えさせてほしいと言って彼女は去っていった。
 僕は後悔した。後悔しないつもりだったし、結果もどうなるかってことくらい予想はついていた。
 ただ自分の想いを彼女に知ってもらいたいという気持ちだけだった・・・・はずだ。
 だけど彼女の沈んだ顔とを見た時、やっぱり打ち明けるべきじゃなかったと悟った。
 明日からどんな顔をして彼女を見ればいいのだろう。
 今まで通り。
 それが一番だろう。彼女に告白したことはナシということにして、今まで通りにしているのが一番だ。
 ただ、果たしてそれができるだろうか。

 彼女に告白した二日後に、僕の上履きに紙切れが入っていた。
 それは彼女からのもので、お付き合いOKの返事の後に連絡先が書いてあった。
 天地逆転!
 僕は天にも昇る気持ちになった。
 それから僕は彼女と付き合うようになった。
 みんなが憧れる彼女が、僕の恋人になった。
 高校二年の夏の出来事だった。

 彼女と付き合いだして一年が経った。
 彼女は僕にとってあまりにも大きな存在だった。
 僕が彼女と付き合っていることは秘密にしてきたけれど、やがて学校中に知れ渡ることになった。
 誰もがその話を聞くと驚いたし、不釣り合いな僕らを好奇の目で見た。
 彼女と付き合うようになって有頂天になっていた僕は、やがて周りの目に気が付いて委縮するようになってしまった。
 彼女も男の人と付き合うのは初めてで、僕の告白に戸惑い、恐る恐る付き合いを決めて、やがて本当に僕のことを好きになってくれた。
 だけど僕は、あまりにも素敵すぎる彼女が、本気で僕を好きになっていることに気が付いて、逆に僕は何をどうしていいのかわからなくなってしまった。
 そしてついに僕は彼女に別れを告げた。
 何日も前から様子の違う僕に気付いていて、彼女もそのことを予想していたのかもしれない。
 彼女は何も言わなかった。
 ただ、少しうるんだ綺麗な目で僕を見ているだけだった。

 僕たちは高校を卒業して別々の大学に進学した。
 あれ以来、彼女とは連絡を取っていない。どこの大学に行ったかは知っているけれど、どんな生活を送っているのかまでは知らない。
 一度、混雑する駅で彼女の姿を見たことがあった。
 遠くからだったけれど、そんなちっぽけな姿でも、ハッとするほどきれいに見えた。
 その数カ月後にまた駅で彼女の姿を見かけた。
 偶然その時、彼女もまた僕のほうを見た。
 彼女は僕だと気が付いたかどうかわからない。
 でも彼女はじっと僕のほうを見つめたあとで、急に手で顔を覆い、僕とは反対の方向へ走るように去っていった。
 僕は別れを告げた時に見た彼女のうるんだ美しい瞳を、また見たような気がした。

 その次の日に、もう一度会いたいと彼女から連絡があった。
 僕は彼女に会った。
 久しぶりに見る彼女はやっぱり綺麗だった。少し化粧をしているのだろうか。なんだかまぶしくて、まともに顔を見られなかった。
 彼女は今でも僕のことを愛していると言った。もし僕が彼女のことを嫌いになっていないのなら、また時々会ってほしいと言った。
 そう言われることを予想して、僕は彼女と会う前に色々と考えてきた。
 僕だってまだ彼女のことが好きだ。だけど、一年前に彼女を傷つけてしまった僕に、まだ好きですなんて言える資格があるのだろうか。
 二年前に彼女のことでいっぱいだった僕。今の彼女はその時の僕のように、体の中いっぱいに僕への想いを抱えているのだろうか。
 僕は少しだけど、大人になった。周りの目を気にして潰れてしまうなんてへまはもう犯さない。
 それに僕はまだまだ成長できる。
 僕は思っていることを、素直に彼女に話した。

 僕たちの新たな日々が始まった。

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