様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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俺はモテる

俺はモテる

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 俺はモテる男だ。
 今まで好きだとか、付き合ってほしいと言ってきた何人もの女を泣かせてきた。
 ただ一度、ちょっと気になっていた娘から交際を申し込まれた時だけOKした。
 俺は熱しにくく冷めにくいタイプだったから、初めのうちは何となく付き合っていたのに、一年もすると俺はすっかり彼女に惚れ込んでいた。そんな俺の中で彼女に対する想いが絶好調の時に、突然別れ話を切り出された。
 私にはあなたは素敵すぎるとかいった、よくわからない理由で俺はフラれた。彼女は熱しやすく冷めやすいタイプだったのかもしれない。
 それからの俺は全ての交際の申し込みを断ってきた。といってもほんの数えるほどだけど。

 そんな俺が大学に入るために都会に来た。
 広々として遠い山々が見渡せる田舎の景色は大好きだったが、人と建物ばかりで、喧騒に包まれた暮らしも悪くはないと思った。
 都会で暮らし始めてしばらくすると、また俺と付き合いたいという女が現れた。田舎に比べ都会は人口密度が比べ物にならないほど高かったし、大学も同じような状況だったから、俺に言い寄ってくる女の数も飛躍的に増えた。
 でも、俺は以前にフラれた経験がまだ頭にこびりついていたから、誰とも本気で付き合う気はなかった。

 初めてあいつを見た時、目が離せなかった。そんなに綺麗な女を見たことがなかった。とにかくその時以来、あいつのことが頭から離れられなくなった。
 俺は熱しにくく冷めにくい男のはずだったが、もしかしたら熱しやすく冷めやすい人間になってしまったのかと思った。
 何度目かにあいつが働く店に行った時、俺は思い切って声をかけた。

 あいつとは違う学校だったけど、同じ大学生で、同い年だった。あいつは店でアルバイトをしていた。
 あいつは綺麗なだけじゃなくて、性格も朗らかで、言い寄ってくる男もたくさんいたようだ。けど本気で付き合ったことはほとんど無く、付き合っても長続きしなかったらしい。俺と同じだ。
 それから俺たちは付き合うようになった。

 俺は熱しにくく冷めにくいと同時に、熱しやすく冷めにくくもあったようだ。
 あいつも同じタイプらしかった。
 それからの三年間、俺たちは熱く付き合ってきた。
 周りの奴らが就職活動の話をし始める頃、俺はあいつとこの先どうするかを本気で考えるようになった。
 田舎には両親がいる。やがて俺は両親の事業を継がなければならない。
 あいつにもその話をした。
 何年か都会で働いてから田舎に帰ってもいい。だけど俺はすぐに帰って事業を継ぐ準備をしたかった。
 あいつには大学卒業と同時に俺と一緒に、両親のいる田舎に来てほしいと告げた。
 あいつはしばらく考えさせてほしいと言った。

 生まれた時からずっと都会暮らしで、周りにはいつも人がいた。そして愛らしかった子供の頃から、誰もが振り返るような存在だった。
 そんなあいつが、ちっぽけな田舎の町での暮らしになじめるわけがないと分かってはいた。
 だけど、もしかしたら。
 田舎に帰るための荷造りをしている俺の部屋に来た時、あいつは大きな目いっぱいに涙を溜めていて、頬に流れ落ちようとするのを懸命にこらえているように見えた。
「やっぱりあなたのところには行けない」
 あいつは絞り出すように言った。
 分かっているつもりだったけど、ショックだった。
「うん。しょうがないね。さよならだ」
 俺も泣きたい気持ちでいっぱいだったけど、できるだけそっけなく言った。
「ごめんなさい、さようなら」
 そう言って、あいつは部屋を出ていった。

 俺は集合住宅から離れた岩の上に腰を下ろして、広々とした景色を見渡した。
 ここには林立する高層ビルも、アスファルトに覆われた地面も、急ぎ足で歩く人々の姿もない。
 そんな広い世界を一人で眺めていると、心は穏やかな気持ちに満ちてくる。
 俺は空を見上げた。
 青く輝く地球が見えた。あいつが暮らす美しい地球が。



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