様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
8 / 44
人は見た目じゃわからない

人は見た目じゃわからない

しおりを挟む
「あなたが好きです」
 菜々実に呼び出された喫茶店で、唐突に告げられた。
 長瀬は驚いて、目の前に座る美しい女性を見た。でも眩しすぎて、その目を見ることができなかった。
 長瀬は目の前のコーヒーカップを見つめ、ぐちゃぐちゃになって混乱している頭の中を整理して冷静になろうとした。
「長瀬さん?」
 名前を呼ばれ、長瀬は顔を上げて菜々実の顔をちらりと見た。
「その・・・・今なんて?」
 消え入りそうな声で、再び下を向いたまま長瀬は尋ねた。
「私と付き合ってください。私は自分を隠しておくのが嫌いだから、はっきり言うの。私と付き合ってください」
「でも、なんで僕みたいな男と」
「どうして? あなたは素敵だと思う」
「だって、顔はブサイクだし、デカくて太いし、人付き合いも悪いし」
「あなたはちょっと丸いけれど、身長が高いし、ブラック企業で深夜残業ばかりだけど高収入だし、大学院をクビになったとはいえ、一流大学卒の高学歴だし。一昔前だったらモテモテよ」
「イケメンというのが前提にあると思うけれど」
「私は見た目で人を判断しません。あなたの性格は素晴らしいと思う」
「僕は口下手だし、それで二重人格っていわれることもある」
「二重人格じゃない」
「他人からはそう見えるらしい」
「私から見ればあなたは普段から大人しくて喜怒哀楽に欠けるけれど、それって、裏表がないからでしょ? 私自身が自分の心に嘘をつくことが嫌いだから、あなたも私に似ているところがあると思うの」
「そうかなぁ」
「それで? 私と付き合ってくれますか? くれませんか? 私のことが嫌い?」
「いや、嫌いなんてことは全然ないけれど。僕とじゃあまりにも不釣り合いじゃないかと」
「それは他人の判断でしょ? 私たちが良ければそれでいいじゃない」
「うん。でも、まさか夢みたいだなあ」
 現実を受け入れた長瀬は、安心したようにつぶやいた。

 それからしばらく話をして、喫茶店を出たときには、空はすっかり夜の色に染まっていた。
 長瀬と菜々実は無言で通りを歩いた。二人でただ歩くということでさえ、深い幸せの中にいるように感じた。
 菜々実は人気のない場所へと長瀬を導いていった。何かを期待するかのように。

 一人で暗がりの通りを歩く菜々実は、充実した表情を浮かべていた。
「やっぱりAB型は最高だわ。この味を知っちゃうと、もう他のは飲めないね」
 そうつぶやいて、菜々実は手にしていた本のタイトルを見た。
『血液型による性格判断』
「この本に書いてあること、よく当たるし」
 そう言って菜々実は美しい顔に笑みを浮かべた。
 鋭く尖った犬歯に、まだわずかに血の色が残っていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私達のお正月

詩織
恋愛
出会いは元旦だった。 初詣に友達といってる時、貴方に出会った。 そして、私は貴方に恋をした

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...