6 / 26
第一章
6
しおりを挟む
原口源左衛門と雪乃は江戸を迂回し、母方の親戚筋に当たる遠江掛浜藩の藩士を頼って東海道を下った。
掛浜藩で仕官の口を捜したが、仕官を望む剣術自慢の浪人は数多く、源左衛門はその剣の腕を披露する場を得ることなく掛浜での仕官の道を諦めた。
源左衛門は頼っていった掛浜藩士に、尾張で道場を営む剣術家を紹介された。
尾張で源左衛門の剣術は大いに称賛され、仕官の道は近いとの言葉を貰った。
そうしているうちに仕官の声の掛かることなく一年が経った。米形から持ってきた金はほとんど尽きかけていた。しびれを切らした源左衛門が道場主を通じて何度目かの仕官の催促をしたところ、数年待つことになるだろうとの返事が返ってきた。源左衛門の人格が評価されていずれは仕官できるという話であったが、剣術については何の評価もされていなかったことも源左衛門は気に入らなかった。
尾張で剣術を教えている道場主は、どうしても剣術家として仕官の道を目指すのなら、文武両道、質実剛健の厳しい藩政を敷いている美濃赤吹藩を訪ねてみればどうかと言い、昔、稽古をつけていたという赤吹藩の目付け役の大村という男に紹介状を書いてくれた。
源左衛門の刀は、米形の名工、二代目米形光兼の作である。
当代随一と言われ、米形城下に居を構える二代目光兼は、藩主に刀を献上したことがある。藩主である上杉宗勝はその刀を痛く気に入り、さらに三振り作らせた。そして源左衛門が御前試合で三年連続優勝を果たすと、その褒美としてそのうちの一振りを与えた。源左衛門が木村の腕を折る一年前の事である。
源左衛門は刀の手入れをし、輝いて浮かび上がる刃文を見るたびに、たとえ赤吹藩で仕官が叶わず武士を辞めたとしても、この刀だけは一生大切に持っていたいと思うのであった。
源左衛門は尾張を出て赤吹の城下町に向かった。
掛浜藩で仕官の口を捜したが、仕官を望む剣術自慢の浪人は数多く、源左衛門はその剣の腕を披露する場を得ることなく掛浜での仕官の道を諦めた。
源左衛門は頼っていった掛浜藩士に、尾張で道場を営む剣術家を紹介された。
尾張で源左衛門の剣術は大いに称賛され、仕官の道は近いとの言葉を貰った。
そうしているうちに仕官の声の掛かることなく一年が経った。米形から持ってきた金はほとんど尽きかけていた。しびれを切らした源左衛門が道場主を通じて何度目かの仕官の催促をしたところ、数年待つことになるだろうとの返事が返ってきた。源左衛門の人格が評価されていずれは仕官できるという話であったが、剣術については何の評価もされていなかったことも源左衛門は気に入らなかった。
尾張で剣術を教えている道場主は、どうしても剣術家として仕官の道を目指すのなら、文武両道、質実剛健の厳しい藩政を敷いている美濃赤吹藩を訪ねてみればどうかと言い、昔、稽古をつけていたという赤吹藩の目付け役の大村という男に紹介状を書いてくれた。
源左衛門の刀は、米形の名工、二代目米形光兼の作である。
当代随一と言われ、米形城下に居を構える二代目光兼は、藩主に刀を献上したことがある。藩主である上杉宗勝はその刀を痛く気に入り、さらに三振り作らせた。そして源左衛門が御前試合で三年連続優勝を果たすと、その褒美としてそのうちの一振りを与えた。源左衛門が木村の腕を折る一年前の事である。
源左衛門は刀の手入れをし、輝いて浮かび上がる刃文を見るたびに、たとえ赤吹藩で仕官が叶わず武士を辞めたとしても、この刀だけは一生大切に持っていたいと思うのであった。
源左衛門は尾張を出て赤吹の城下町に向かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ジィジ宮・バァバァ宮
士鯨 海遊
歴史・時代
道志川沿いに青根という神奈川県相模原市の集落があるのだが、そこにはジィジ宮とバァバァ宮という変わった名前の祠がある。この名前の由来には青根に伝わる悲しいお話があったのだった。
臆病宗瑞
もず りょう
歴史・時代
興国寺城主として大国今川家の駿河侵攻の先鋒をつとめる伊勢新九郎盛時は、優れた軍才の持ち主でありながら、人並外れて慎重な性格であった。彼は近在の寺の老僧秀実としばしば碁を愉しんだが、肝心なところで決め手となる一手を躊躇い、負けを重ねていた。その寺に小間使いとして働く楓という少女がいた。少女は盛時に仄かな憧れを抱き、盛時もまた可憐な少女を好もしく思っていたが、その性格が災いして最後の一歩を踏み出せずにいた。そんな折、堀越公方の「若御所」こと足利茶々丸が楓に目をつけて…。後に戦国の梟雄と呼ばれる北条早雲が、未だ北条早雲となる前の、秘められた悲恋の物語。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
壬生狼の戦姫
天羽ヒフミ
歴史・時代
──曰く、新撰組には「壬生狼の戦姫」と言われるほどの強い女性がいたと言う。
土方歳三には最期まで想いを告げられなかった許嫁がいた。名を君菊。幼馴染であり、歳三の良き理解者であった。だが彼女は喧嘩がとんでもなく強く美しい女性だった。そんな彼女にはある秘密があって──?
激動の時代、誠を貫いた新撰組の歴史と土方歳三の愛と人生、そして君菊の人生を描いたおはなし。
参考・引用文献
土方歳三 新撰組の組織者<増補新版>新撰組結成150年
図説 新撰組 横田淳
新撰組・池田屋事件顛末記 冨成博
蛙の半兵衛泣き笑い
藍染 迅
歴史・時代
長屋住まいの浪人川津半兵衛は普段は気の弱いお人よし。大工、左官にも喧嘩に負けるが、何故か人に慕われる。
ある日隣の幼女おきせが、不意に姿を消した。どうやら人買いにさらわれたらしい。
夜に入って降り出した雨。半兵衛は単身人買い一味が潜む荒れ寺へと乗り込む。
褌裸に菅の笠。腰に差したるは鮫革柄の小太刀一振り。
雨が降ったら誰にも負けぬ。古流剣術蛟流が飛沫を巻き上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる