殺し屋たちのレクイエム

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
5 / 8

しおりを挟む
 拳銃を構える屈強な男たちの後ろから、小柄なスーツ姿の男が現れた。
「君は荒木君かね? それとも鈴木君かね?」
 アキラはその問いに答えず、黙って男を見つめた。
「まあいい。すぐに吐かせてやる」
 小柄な男が合図すると、二人の男が進み出てアキラの両腕を取った。
「おまえは痛めつけ甲斐がありそうだ」
 男はいやらしい笑みを浮かべてアキラの顔を見た。

 そこは普通の事務所といった感じの部屋だった。事務机が並び、机の上にはパソコンが置かれている。部屋の壁際には書類棚と複合機。
 アキラは事務机の前で両手両足を縛られ、椅子に座って項垂れていた。顔には赤黒いあざを作り、口から血を流している。
「大した銃だな。君らの組織は密輸に関してもいいルートを持っていたようだ」
 アキラの拳銃を弄ぶ小柄の男が言った。男の背後にたくましい体つきの男が三人控えている。
「君たちが我々の組織のことを探っているのは知っていたよ。そろそろ来ることだと思っていた。君たちだけは見逃してやろうと思っていたのが仇になってしまったようだ」
 そう言ってアキラのすぐ近くに顔を近づける。
「仲間はどこにいる?」
「知らん」
 アキラは即答した。
「知らないわけがない」
 そう言うと男はアキラの顔の前で拳を固める。これから殴るぞという合図だ。
 そして身を低くするとアキラの腹に拳を打ち込んだ。
 アキラは椅子から放り出されて床に転がる。椅子が床に倒れる大きな音がオフィスの中に響いた。
 恍惚の表情を浮かべた男がアキラを見下ろす。
「君を廃人にしたくはないんだが、そういつまでも待っていられるほど気が長くないんでね。明日からは薬を使わせてもらうよ。それまでに気が変わるのを期待している」
 男がそう言い、部屋を出ていった。三人の男も後に従う。
 アキラは手足を縛られたまま、床の上で苦痛にうめき声をあげた。
 ドアが開き、二人の人間が部屋に入ってきた。似た顔の少年と少女だった。アキラよりも幼い顔立ちをしている。
 少年が拳銃をアキラに向け、少女が手と足を縛る紐をほどいた。
 二人は双子のトモとユウだった。
「僕たちを甘く見ないでください。あなたと同じように幼いころから訓練を積んできたんですから」
 アキラはよろよろと立ち上がった。
「行きましょう」
 少女のユウが先頭を行き、アキラがその後に続いく。トモはアキラの背中に銃口を向けたまま歩いた。

 朝の光がカーテンを通して狭い部屋の中にやってくる。
 アキラは簡易ベッドの上で目を覚ました。腫れる顔を手で確認しながら起き上がると、部屋の中を注意深く見て回った。ドアにはカギがかけられている。
 ドアの外に人の気配がして、アキラはベッドに腰かけた。
 ドアが開き、食事の乗った盆を持ったユウが部屋に入ってきた。ドアを開けたのはトモだ。昨日と同じように銃口をアキラに向けたままでいる。
「しばらくの間、僕たちがあなたの監視をします」
 トモが言った。
「わかったよ。よろしく」
「これ。インスタントコーヒーとコンビニのサンドイッチだけど」
 ユウがそう言いながら机に盆を置いた。
「食事の前にトイレに行きますか?」
 トモが尋ねた。
「いや、まだいい」
「もしトイレに行くか、他に用があるのなら、そこの監視カメラに言ってください。必ず誰かが見ていますし、音声も拾えますから」
「わかった」
 トモとユウは部屋を出ていった。
 アキラはコーヒーを一口すすった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

回胴式優義記

煙爺
大衆娯楽
パチスロに助けられ 裏切られ 翻弄されて 夢だった店のオープンを2週間後に控えて居た男 神崎 中 は不思議な現象に遭遇する それは… パチスロを通じて人と出会い 別れ 生きていく 元おっさんの生き様を是非ご覧下さい 要注意 このお話はパチスロ4号機の知識が無いとあまり楽しめない内容となっております ご注意下さい 推奨年齢30歳以上 ※こちらの小説は小説家になろう様でも投稿しています ※フィクションです

濁渦 -ダクカ-

北丘 淳士
大衆娯楽
政治的正しさ、差別のない社会を形成したステラトリス。 そこに生まれた一人の少女フーリエ。 小さい頃に読んだ本から本当の多様性を模索する彼女の青春時代は社会の影響を受け、どこに舵を切っていくのか。 歪みつつある現代と世の中のクリエーターへ送る抒情詩。

ピアノの家のふたりの姉妹

九重智
ライト文芸
【ふたりの親愛はピアノの連弾のように奏でられた。いざもう一人の弾き手を失うと、幸福の音色も、物足りない、隙間だらけのわびしさばかり残ってしまう。】 ピアノの響く家には、ふたりの姉妹がいた。仲睦ましい姉妹は互いに深い親愛を抱えていたが、姉の雪子の変化により、ふたりの関係は徐々に変わっていく。 (縦書き読み推奨です)

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...