4 / 8
4
しおりを挟む
ハルカがビルから出てきてとぼとぼと歩きだす。
一瞬その体が光に包まれる。
大音響とともにビルの壁が吹き飛び、ハルカは爆風にあおられて地面に倒れた。
砂煙を上げてビルが倒壊する。多くの人が悲鳴を上げながら逃げ惑った。
高校の校舎の壁にもたれて裕樹と将太が立っている。二人は浮かない顔をして校庭を走り回る生徒たちを見ていた。
少し離れたところをハルカが他の生徒とにこやかに話をしながら歩いていく。
裕樹と将太はその姿にちらりと目をやった。
「あいつも変わったな」
裕樹がぽつりと言った。
「誰?」
「ハルカだよ。別人みたいだ」
「うん。そうだな」
「アキラが行方不明になった頃からじゃないか?」
「アキラが今のハルカを見たら惚れてたぜ」
「かもね。美人だって言ってたから」
寂しそうに二人は空を眺めた。
夕暮れの街をハルカが制服姿で歩いている。
その後ろにスッと人が立った。
「ハルカ」
「アキラ?」
ハルカが驚いたように振り向く。
「敵のアジトを見つけた。乗り込む」
「え?」
「これでサヨナラだ」
「ハヤトも一緒に?」
「いや、ハヤトは・・・・それじゃ」
アキラの姿がスッと遠のく。
「待って」
アキラは人波の中に紛れていった。
空に星が瞬き、細くて闇に消え入りそうな三日月も見えている。
古いアパートの一室にアキラの暮らす部屋があった。六畳一間に台所とバストイレ。部屋の片隅に錆びたパイプベッドと机。
アキラは孤児だった。
記憶にないくらい幼いときに孤児院から引き取って育ててくれたのが森本ヒカルだった。中学までは一緒に暮らしていた。高校生になってからアパートで独り暮らしを始めた。
それはハヤトも一緒だった。同い年のハヤトも中学を卒業すると森本の元を離れ、ヒカルとは違う場所で独り暮らしをしていた。
アキラは入念な準備をしてきた。一人で敵のアジトに乗り込むつもりだった。
明かりを薄暗くした部屋で支度を整える。特殊繊維で作られたズボンとシャツ。ナイフを足元に忍ばせ、小型のオートマチック銃を肩にかけて固定したホルダーに入れる。上着を着て鞄を持った。その中にも拳銃が入っている。
アキラはほとんど物のない質素な部屋を見まわした。そして明かりを消し、部屋を出ていった。
人も車も絶えた道を、明かりを避けるようにしてアキラは歩いた。
そこは多くの工場が立ち並ぶ地域だった。夜も機械を動かし、明かりの漏れている建物もちらほらとある。しかし大半の工場は建物の外に明かりが灯るだけで、中は暗かった。
塀に囲まれた敷地内にいくつもの建物が立ち並ぶ、その地域では大きな工場がある。その中の一つの建物が目指す場所だった。
監視カメラの映す場所はあらかじめ調べてある。その死角になる場所の塀を乗り越えて中に入った。身を低くして歩き、建物の陰に身を潜める。
裏口へまわり、鞄から機械を出して電源を入れた。ネットに繋がるセキュリティーを解除するためのものだ。
操作を終えると、機械をそのままにして立ち上がった。入り口の横にカードを差し込むとドアが開いた。
鞄に入れてきた拳銃を構え、用心しながら建物の中に入った。
非常灯の灯る廊下を進む。
一階は普通の工場の事務所として使用されている。二階からは表向きは試作室や資材室、在庫置き場となっているが、実際には殺人者の養成機関がある。
アキラは階段を上った。
一階と同じように非常灯の灯る廊下を進む。
二階に爆弾を仕掛け、人がいる昼間に爆発させる計画だった。爆弾は発見されないようにしなければならない。
アキラは手前の部屋のドアを開けるためにカードを手にした。
その時に明かりが灯った。一発の銃弾がアキラの足を貫く。
アキラが倒れた時、廊下の向こうとこちら側から何人もの拳銃を構えた男たちが現れた。
一瞬その体が光に包まれる。
大音響とともにビルの壁が吹き飛び、ハルカは爆風にあおられて地面に倒れた。
砂煙を上げてビルが倒壊する。多くの人が悲鳴を上げながら逃げ惑った。
高校の校舎の壁にもたれて裕樹と将太が立っている。二人は浮かない顔をして校庭を走り回る生徒たちを見ていた。
少し離れたところをハルカが他の生徒とにこやかに話をしながら歩いていく。
裕樹と将太はその姿にちらりと目をやった。
「あいつも変わったな」
裕樹がぽつりと言った。
「誰?」
「ハルカだよ。別人みたいだ」
「うん。そうだな」
「アキラが行方不明になった頃からじゃないか?」
「アキラが今のハルカを見たら惚れてたぜ」
「かもね。美人だって言ってたから」
寂しそうに二人は空を眺めた。
夕暮れの街をハルカが制服姿で歩いている。
その後ろにスッと人が立った。
「ハルカ」
「アキラ?」
ハルカが驚いたように振り向く。
「敵のアジトを見つけた。乗り込む」
「え?」
「これでサヨナラだ」
「ハヤトも一緒に?」
「いや、ハヤトは・・・・それじゃ」
アキラの姿がスッと遠のく。
「待って」
アキラは人波の中に紛れていった。
空に星が瞬き、細くて闇に消え入りそうな三日月も見えている。
古いアパートの一室にアキラの暮らす部屋があった。六畳一間に台所とバストイレ。部屋の片隅に錆びたパイプベッドと机。
アキラは孤児だった。
記憶にないくらい幼いときに孤児院から引き取って育ててくれたのが森本ヒカルだった。中学までは一緒に暮らしていた。高校生になってからアパートで独り暮らしを始めた。
それはハヤトも一緒だった。同い年のハヤトも中学を卒業すると森本の元を離れ、ヒカルとは違う場所で独り暮らしをしていた。
アキラは入念な準備をしてきた。一人で敵のアジトに乗り込むつもりだった。
明かりを薄暗くした部屋で支度を整える。特殊繊維で作られたズボンとシャツ。ナイフを足元に忍ばせ、小型のオートマチック銃を肩にかけて固定したホルダーに入れる。上着を着て鞄を持った。その中にも拳銃が入っている。
アキラはほとんど物のない質素な部屋を見まわした。そして明かりを消し、部屋を出ていった。
人も車も絶えた道を、明かりを避けるようにしてアキラは歩いた。
そこは多くの工場が立ち並ぶ地域だった。夜も機械を動かし、明かりの漏れている建物もちらほらとある。しかし大半の工場は建物の外に明かりが灯るだけで、中は暗かった。
塀に囲まれた敷地内にいくつもの建物が立ち並ぶ、その地域では大きな工場がある。その中の一つの建物が目指す場所だった。
監視カメラの映す場所はあらかじめ調べてある。その死角になる場所の塀を乗り越えて中に入った。身を低くして歩き、建物の陰に身を潜める。
裏口へまわり、鞄から機械を出して電源を入れた。ネットに繋がるセキュリティーを解除するためのものだ。
操作を終えると、機械をそのままにして立ち上がった。入り口の横にカードを差し込むとドアが開いた。
鞄に入れてきた拳銃を構え、用心しながら建物の中に入った。
非常灯の灯る廊下を進む。
一階は普通の工場の事務所として使用されている。二階からは表向きは試作室や資材室、在庫置き場となっているが、実際には殺人者の養成機関がある。
アキラは階段を上った。
一階と同じように非常灯の灯る廊下を進む。
二階に爆弾を仕掛け、人がいる昼間に爆発させる計画だった。爆弾は発見されないようにしなければならない。
アキラは手前の部屋のドアを開けるためにカードを手にした。
その時に明かりが灯った。一発の銃弾がアキラの足を貫く。
アキラが倒れた時、廊下の向こうとこちら側から何人もの拳銃を構えた男たちが現れた。
1
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

回胴式優義記
煙爺
大衆娯楽
パチスロに助けられ 裏切られ 翻弄されて
夢だった店のオープンを2週間後に控えて居た男
神崎 中 は不思議な現象に遭遇する それは…
パチスロを通じて人と出会い 別れ 生きていく 元おっさんの生き様を是非ご覧下さい
要注意
このお話はパチスロ4号機の知識が無いとあまり楽しめない内容となっております ご注意下さい
推奨年齢30歳以上
※こちらの小説は小説家になろう様でも投稿しています
※フィクションです
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
Serendipty~セレンディピティ~リストラから始まったハーレム生活
のらしろ
大衆娯楽
リストラ後に偶然から幸運を引き当ててハーレムを築いていくお話です。
主人公の本郷秀長はある装置メーカーの保守を担当する部署に務めておりましたが昨今の不景気のより希望退職という名のリストラをされました。
今まで職場で一生懸命に頑張ってきていたと自負していたけど他の職場メンバーからは浮いていたようで、職場の総意という伝家の宝刀を抜かれて退職する羽目になりました。
しかし、今まで一生けん目に働いていたことは事実で、そんな彼を評価していた人も少なからずおり、その一人にライバルメーカーの保守部門の課長から誘われて、ライバルメーカー転職したところから物語は始まります。
転職直後に、課長ともども配置転換を命じられて高級クルーザーの販売部署に回されて初の海外出張で産油国の王子と出会い、物語はどんどん普通でない方向に進んでいきます。
その過程で多くの女性と出会い、ハーレムを築いていくお話です。
ピアノの家のふたりの姉妹
九重智
ライト文芸
【ふたりの親愛はピアノの連弾のように奏でられた。いざもう一人の弾き手を失うと、幸福の音色も、物足りない、隙間だらけのわびしさばかり残ってしまう。】
ピアノの響く家には、ふたりの姉妹がいた。仲睦ましい姉妹は互いに深い親愛を抱えていたが、姉の雪子の変化により、ふたりの関係は徐々に変わっていく。
(縦書き読み推奨です)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる