殺し屋たちのレクイエム

原口源太郎

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 ハルカがビルから出てきてとぼとぼと歩きだす。
 一瞬その体が光に包まれる。
 大音響とともにビルの壁が吹き飛び、ハルカは爆風にあおられて地面に倒れた。
 砂煙を上げてビルが倒壊する。多くの人が悲鳴を上げながら逃げ惑った。

 高校の校舎の壁にもたれて裕樹と将太が立っている。二人は浮かない顔をして校庭を走り回る生徒たちを見ていた。
 少し離れたところをハルカが他の生徒とにこやかに話をしながら歩いていく。
 裕樹と将太はその姿にちらりと目をやった。
「あいつも変わったな」
 裕樹がぽつりと言った。
「誰?」
「ハルカだよ。別人みたいだ」
「うん。そうだな」
「アキラが行方不明になった頃からじゃないか?」
「アキラが今のハルカを見たら惚れてたぜ」
「かもね。美人だって言ってたから」
 寂しそうに二人は空を眺めた。

 夕暮れの街をハルカが制服姿で歩いている。
 その後ろにスッと人が立った。
「ハルカ」
「アキラ?」
 ハルカが驚いたように振り向く。
「敵のアジトを見つけた。乗り込む」
「え?」
「これでサヨナラだ」
「ハヤトも一緒に?」
「いや、ハヤトは・・・・それじゃ」
 アキラの姿がスッと遠のく。
「待って」
 アキラは人波の中に紛れていった。

 空に星が瞬き、細くて闇に消え入りそうな三日月も見えている。
 古いアパートの一室にアキラの暮らす部屋があった。六畳一間に台所とバストイレ。部屋の片隅に錆びたパイプベッドと机。
 アキラは孤児だった。
 記憶にないくらい幼いときに孤児院から引き取って育ててくれたのが森本ヒカルだった。中学までは一緒に暮らしていた。高校生になってからアパートで独り暮らしを始めた。
 それはハヤトも一緒だった。同い年のハヤトも中学を卒業すると森本の元を離れ、ヒカルとは違う場所で独り暮らしをしていた。
 アキラは入念な準備をしてきた。一人で敵のアジトに乗り込むつもりだった。
 明かりを薄暗くした部屋で支度を整える。特殊繊維で作られたズボンとシャツ。ナイフを足元に忍ばせ、小型のオートマチック銃を肩にかけて固定したホルダーに入れる。上着を着て鞄を持った。その中にも拳銃が入っている。
 アキラはほとんど物のない質素な部屋を見まわした。そして明かりを消し、部屋を出ていった。

 人も車も絶えた道を、明かりを避けるようにしてアキラは歩いた。
 そこは多くの工場が立ち並ぶ地域だった。夜も機械を動かし、明かりの漏れている建物もちらほらとある。しかし大半の工場は建物の外に明かりが灯るだけで、中は暗かった。
 塀に囲まれた敷地内にいくつもの建物が立ち並ぶ、その地域では大きな工場がある。その中の一つの建物が目指す場所だった。
 監視カメラの映す場所はあらかじめ調べてある。その死角になる場所の塀を乗り越えて中に入った。身を低くして歩き、建物の陰に身を潜める。
 裏口へまわり、鞄から機械を出して電源を入れた。ネットに繋がるセキュリティーを解除するためのものだ。
 操作を終えると、機械をそのままにして立ち上がった。入り口の横にカードを差し込むとドアが開いた。
 鞄に入れてきた拳銃を構え、用心しながら建物の中に入った。
 非常灯の灯る廊下を進む。
 一階は普通の工場の事務所として使用されている。二階からは表向きは試作室や資材室、在庫置き場となっているが、実際には殺人者の養成機関がある。
 アキラは階段を上った。
 一階と同じように非常灯の灯る廊下を進む。
 二階に爆弾を仕掛け、人がいる昼間に爆発させる計画だった。爆弾は発見されないようにしなければならない。
 アキラは手前の部屋のドアを開けるためにカードを手にした。
 その時に明かりが灯った。一発の銃弾がアキラの足を貫く。
 アキラが倒れた時、廊下の向こうとこちら側から何人もの拳銃を構えた男たちが現れた。
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