殺し屋たちのレクイエム

原口源太郎

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 夕暮れの街に、沈みゆく太陽が黄金色の光を当てている。
 ハルカは仕事帰りの人々が歩く中を歩いていた。
「ハルカ」
 名前を呼ばれた。それがアキラの声だと気づき、何気ない様子で声のした方へと歩く。
 近くにいたアキラは先を歩いていく。ハルカは距離を置いたまま後を追った。
 ハルカはアキラの声から、何か異常事態だと感じていた。
 アキラが雑居ビルの中へと消える。
 ハルカもそれに続いた。
 階段を上った踊り場でアキラが待っていた。
「どうしたの?」
「ビルの前に怪しい奴らがいる。何かがあったかもしれない」
「警察?」
「いや、違う。普通の人を装っているけど、明らかに特殊な訓練を受けた人間だ」
「なら、早くいかないと。教官には連絡を取ってみたの?」
「いや。下手に連絡を取らない方がいい」
「行きましょう」
「早まったことはするなよ。様子を見るんだ」
 二人は時間を置いて雑居ビルから出ると、別々にいつも行くビルへと歩いた。すぐ近くだ。
 遠くにビルの入り口が見える場所に身を潜めて様子をうかがう。
「ビルの西側、背広姿で誰かを待っているように見えるやつ、それとビルの東側でジーパンを履いてるやつだ」
 人通りの少ない裏通りとはいえ、この時間は帰宅途中のサラリーマンや学生たちが歩いている。その中に二人の男は溶け込んでいるようだった。
 やがてビルの中から数人の男たちが出てきた。手に手に荷物を持っている。
 その男たちが立ち去ると、ビルの両側に立っていた二人の男の姿も消えていた。
「行こう」
 アキラが言い、二人は通学用のリュックを背負い、学生服とセーラー服姿のまま、用心しながらビルに向かった。
 ビルに入り、ドアロックを解除しようとしたがドアは開いていた。
「やばいかもしれない」
 アキラがただならぬ気配を察して言った。
 ゆっくりと鋼鉄製のドアを開ける。
 入ったすぐのところに爆弾が仕掛けてあった。液晶の画面が時を刻んでいる。
「まだ爆発まで一時間近くある」
 アキラが言った。
 爆弾からは何本かのコードが廊下の向こうへと伸びている。何カ所にも爆弾を仕掛けてあり、同時に爆発するようになっているのだろう。
「アキラ」
 ハルカが怯えたような声を出した。
 エレベーターの前に何か転がっている。
 それは人だった。
 近くに行くと倒れた男の周りに血だまりができていた。男は組織の人間だった。頭を撃ち抜かれて事切れている。
 二人は階段を使い、上の階に上った。
 そこにも数人の男が倒れていた。皆死んでいる。
 開かれたドアから中を見ると、森本が倒れていた。
 ハルカが駆け寄る。
「ヒカルさん」
 胸を撃ち抜かれた森本が目を開ける。
「他の組織ができたとは聞いていたが・・・・」
 苦しそうに話す森本の口から血が流れだした。
「おまえたちの存在までは知られていなかったらしい」
「ヒカルさん、もう話さなくていい」
 アキラが森本の傷を見ながら言った。
「俺のことはいい。もう助からん」
「どうした!」
 部屋に飛び込んできたのはハヤトだった。手に拳銃を持っている。
「わからん」
 アキラが答える。
「組織は壊滅した。お前たちは手を汚すべきでない・・・・普通の人間として生きろ・・・・」
 森本が再び大量の血を吐き出した。
「ヒカルさん!」
 森本は目を見開いたまま息絶えた。
「どうしてだ? 日本にある組織はここだけじゃなかったのか? このやり方は普通の人間の仕業じゃない」
「ああ」
 ハルカが床に力なく座り込む。
「ハヤト、敵を討とう」
「うん」
 ハヤトは当たり前のように返事をした。
「やめて。今教官が普通の人間として生きろって言ったのに」
「そんなの関係ない」
 アキラは目に涙をためているハルカに言った。
「それなら私も」
「おまえこそ普通の人間として生きろ。俺とハヤトでやる」
 二人は部屋を出ていった。
 ハルカはその場で頭を垂れて涙を流した。
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