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訓練を終えたアキラは制服に着替えた。遅くまで塾で勉強をしていることになっている。ハヤトは私服だ。遅くまで遊び歩いていることになっている。
「昔の殺し屋はよかったな」
「なんで?」
「今ほど科学が発達してなかっただろ。殺人だって単純だった。バンて拳銃で撃って終わり。それとも事故か? 毒薬か? 今じゃ殺されたと思われること自体がNGだろ」
「今はネットで知らない人間を集めて殺しが出来る時代だ。そこらへんをうまく利用していけるかもしれない」
「そのうち俺たちのやろうとしてる仕事も、ろくな訓練も受けてない素人連中に取って代わられてしまうかも」
「いや、逆にそれだからこそ俺たちみたいに痕跡を残さずに殺人ができたり、殺人だと思われない方法で殺しができる人が必要になるかもしれない」
「そうかな」
「きっとそうなる」
「そうだといいけど。せっかく今までつらい訓練を重ねてきたんだ。今更普通のサラリーマンになんてなれないよ。アキラは人を殺したことはあるか?」
「ないに決まってるだろ」
「人を殺したときの気分てどんなもんだろ」
「これから嫌というほど経験していくんだ。今から気にしてても仕方がない」
「そうだな」
「俺はあまり気分のいいもんじゃないと思うけど」
「それじゃ、この先やっていけないぜ」
二人は話しながら部屋を出た。
ビルから一歩外に出れば殺人がどうのこうのといった会話は一切できなくなる。
二人は別々に闇に紛れるように暗がりの通りに出て歩き始めた。
人通りの絶えた通りを、ぽつんと空に浮かぶ月の光が照らしている。
街灯が灯る歩道をアキラは急ぎ足で歩いた。
通りから折れた狭い路地の奥で声がした。ただの酔っぱらいや若い男たちが遊んでいる声ではない。
アキラは急ぎ足に声のした方へ向かった。
人気のないオフィスビルが並ぶ隅で男たちが固まっていた。一人の女を囲んでいるらしい。
本来ならば知らない顔をして通り過ぎるべきなのだが、何かを確認しなければならない気がした。そのような普通の人にはわからない感覚をアキラは持っている。
「こんな遅い時間にこんな場所で何をしてるのかな? まだ高校生だろ?」
男たちに囲まれているのはハルカだ。
アキラは物陰に身を潜めて成り行きを見守った。できれば関わり合いにならない方がいい。
ハルカは無言で男たちの間をすり抜けようとした。
「おっと。待てよ」
男たちは五人。みな体格がよく柄が悪い。まともなやつでないのは見た目でわかる。
二人が辺りを警戒する。残りの三人でハルカを押さえつけてどこかへ連れて行こうとした。
一人の男がもんどり打って倒れた。ハルカが投げ飛ばしたのだ。
「この野郎」
残りの男たちがハルカを捕まえようとする。
ハルカは男たちの手を避け、腹にけりを入れる。
また一人倒れるが、すぐに立ち上がる。
辺りを警戒していた男たちも加わり、ハルカと乱闘になる。
いくらハルカでも屈強な男五人を相手では分が悪かった。
地面に倒れ込んだハルカの上に男が覆いかぶさる。
「気が強え女だ」
腹の上に乗る男がハルカの顔を殴るために腕を上げた。
その手をアキラが掴む。
「なんだてめー」
そう言った男の周りで、四人の男が横たわってうめき声をあげている。
咄嗟に状況を察した男がアキラの手を振り払って立ち上がる。
その腹を蹴りあげた。
男は建物の壁に激突して倒れた。
「どうした。まだ甘いぞ」
アキラはハルカに手を伸ばす。
ハルカはその手を振り払うようにして立ち上がった。
「うるさい。ちょっと油断しただけだ」
「訓練が終了したらそんなこと言ってられないぞ」
ハルカはキッとした表情でアキラを見た。目に涙をためている。
「私、女の子よ。十七の女の子だよ」
「近くまで送ってくよ」
アキラが歩き始め、その背を追うようにハルカも歩き出した。
「昔の殺し屋はよかったな」
「なんで?」
「今ほど科学が発達してなかっただろ。殺人だって単純だった。バンて拳銃で撃って終わり。それとも事故か? 毒薬か? 今じゃ殺されたと思われること自体がNGだろ」
「今はネットで知らない人間を集めて殺しが出来る時代だ。そこらへんをうまく利用していけるかもしれない」
「そのうち俺たちのやろうとしてる仕事も、ろくな訓練も受けてない素人連中に取って代わられてしまうかも」
「いや、逆にそれだからこそ俺たちみたいに痕跡を残さずに殺人ができたり、殺人だと思われない方法で殺しができる人が必要になるかもしれない」
「そうかな」
「きっとそうなる」
「そうだといいけど。せっかく今までつらい訓練を重ねてきたんだ。今更普通のサラリーマンになんてなれないよ。アキラは人を殺したことはあるか?」
「ないに決まってるだろ」
「人を殺したときの気分てどんなもんだろ」
「これから嫌というほど経験していくんだ。今から気にしてても仕方がない」
「そうだな」
「俺はあまり気分のいいもんじゃないと思うけど」
「それじゃ、この先やっていけないぜ」
二人は話しながら部屋を出た。
ビルから一歩外に出れば殺人がどうのこうのといった会話は一切できなくなる。
二人は別々に闇に紛れるように暗がりの通りに出て歩き始めた。
人通りの絶えた通りを、ぽつんと空に浮かぶ月の光が照らしている。
街灯が灯る歩道をアキラは急ぎ足で歩いた。
通りから折れた狭い路地の奥で声がした。ただの酔っぱらいや若い男たちが遊んでいる声ではない。
アキラは急ぎ足に声のした方へ向かった。
人気のないオフィスビルが並ぶ隅で男たちが固まっていた。一人の女を囲んでいるらしい。
本来ならば知らない顔をして通り過ぎるべきなのだが、何かを確認しなければならない気がした。そのような普通の人にはわからない感覚をアキラは持っている。
「こんな遅い時間にこんな場所で何をしてるのかな? まだ高校生だろ?」
男たちに囲まれているのはハルカだ。
アキラは物陰に身を潜めて成り行きを見守った。できれば関わり合いにならない方がいい。
ハルカは無言で男たちの間をすり抜けようとした。
「おっと。待てよ」
男たちは五人。みな体格がよく柄が悪い。まともなやつでないのは見た目でわかる。
二人が辺りを警戒する。残りの三人でハルカを押さえつけてどこかへ連れて行こうとした。
一人の男がもんどり打って倒れた。ハルカが投げ飛ばしたのだ。
「この野郎」
残りの男たちがハルカを捕まえようとする。
ハルカは男たちの手を避け、腹にけりを入れる。
また一人倒れるが、すぐに立ち上がる。
辺りを警戒していた男たちも加わり、ハルカと乱闘になる。
いくらハルカでも屈強な男五人を相手では分が悪かった。
地面に倒れ込んだハルカの上に男が覆いかぶさる。
「気が強え女だ」
腹の上に乗る男がハルカの顔を殴るために腕を上げた。
その手をアキラが掴む。
「なんだてめー」
そう言った男の周りで、四人の男が横たわってうめき声をあげている。
咄嗟に状況を察した男がアキラの手を振り払って立ち上がる。
その腹を蹴りあげた。
男は建物の壁に激突して倒れた。
「どうした。まだ甘いぞ」
アキラはハルカに手を伸ばす。
ハルカはその手を振り払うようにして立ち上がった。
「うるさい。ちょっと油断しただけだ」
「訓練が終了したらそんなこと言ってられないぞ」
ハルカはキッとした表情でアキラを見た。目に涙をためている。
「私、女の子よ。十七の女の子だよ」
「近くまで送ってくよ」
アキラが歩き始め、その背を追うようにハルカも歩き出した。
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