僕はパラポンパラ星人

原口源太郎

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 最後に残っていた部員が出ていくのを見て、私も帰るために立ち上がった。
 その時、後ろに手を組んだ一人の男子学生が音楽室に入ってきた。
「センパイ」
 中西というその一年生が少しはにかんだように笑顔を見せて私に言った。
「何?」
 私はいぶかしげに中西を見た。
 音楽室に最後まで残って一人になったタイミングを見計らって中西がやってくるのはこれが初めてじゃない。
 中西は特別な存在だった。
 楽器の演奏が群を抜いているだけでなく、私たちとは比べ物にならないほどの知識や音感、感性を持っている。それは両親が音楽家で、自身も幼い頃から音楽漬けで育ってきた環境による賜物だ。
 次期吹奏楽部長になる私や上級生は指導する先生が不在の時は、代わりに全体やそれぞれのパートの指導をする役になる。だけど中西は私達どころか、指導の先生よりも遥かに上を行く耳や感性をそなえている。普段の中西はただ黙々と自分のパートを演奏していて、特別私たちの指導に対して口を挟むようなことはない。
 しかしごく稀に私が一人でいる時を見計らって、その日の指導で間違いがあった時にそれを正しに来る。
 それは私の考えていることと中西の指摘と違うということだが、ほぼ百パーセント中西の言うことの方が正しいので、私は次の日の練習の時にそれを訂正する。ただ、そのまま前日に言ったことと違うことを言うのは癪に障るので(それが中西の指摘だと部員たちは薄々感づいている)遠回しに何日かかけて訂正する。
 そんなんだから、私は私にとって天才的音楽家といえる中西のことが嫌いだった。
 今日はどんな間違いを犯したのだろう。そう頭を巡らしながら中西を見る。
 中西は私の前まで来るとぺこりと頭を下げた。
「?」
 そんな態度見せたこと、今までになかったぞ。
 中西は頭を下げたまま、背中に隠し持っていた小さな花束を差し出した。
 ん? これは大昔にテレビで見たことがある。
「僕と付き合ってください」
 そう言って中西は頭を下げたままでいる。
 はいと言って花束を受け取ればカップル成立。
 中西もそんな古い番組を知っているのか。
「ちょっと待って。何言ってんの」
 私は戸惑って、差し出された花束を押し返すように手を上げた。
「駄目ですか?」
 顔を上げて中西が私を見る。
「駄目とか、そんなんじゃなくて、いきなりそんなこと言われても」
「じゃ、考えておいてください」
 そう言って中西は花束を持ったまま、くるりと背を向けて部屋を出ていった。
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