グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・12 オオカミ親分の涙

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 オオカミ親分はその昔、ロウ次郎と名乗り、喧嘩に明け暮れながらあちこちを彷徨う一匹狼だった。その時にドラゴンのタツと出会った。
 タツはいきなり空から舞い降りてきた。そして仲間になれと言った。
(仲間? 何の仲間だ?)
 初めて見る巨大なドラゴンを目の前にして、ロウ次郎はひるんだが、できるだけそんな様子を見せずに尋ねた。
(ダバインという人間が世界を支配しようとしている。私はその者に協力する。お前の噂は聞いた。今、強い魔物を集めている。お前も仲間になれ)
(は? 何バカなことを言ってやがる。人間に協力だ? あほらしい。それに世界を支配するだとか、そんなものに俺は興味がねえ)
(では命令する。仲間になれ)
(嫌だね)
 そう言ってロウ次郎はタツの前から去ろうとした。
 その背後にいきなり炎が迫り、背中の毛をちりちりと焦がした。
(何しやがる!)
 ロウ次郎は振り返るなり身構えた。
(私の命令を断るとはいい度胸だ。だが、うんと言うまで帰さん)
(おもしれえ、やろうってのか?)
 そう言うなりロウ次郎はタツに跳びかかろうとした。
 だがタツの口から炎が噴き出される方が早かった。
 ロウ次郎はすんでのところで炎をかわした。
(この野郎)
 ロウ次郎はなんとかタツに一撃を加えようとした。しかし次から次へと迫りくる炎を避けるだけで精一杯だった。
 腕の毛がちりちりと焼かれ、足の毛がちりちりと焼かれ、尻尾の先がちりちりと焼かれた。
 そうしているうちにロウ次郎は気が付いた。
 タツは俺を殺すつもりはない。傷つける気もない。俺を少しだけちりちりと焼いて楽しんでやがる。こっちは本気なのに。
 そう気が付いた途端、ロウ次郎は脱兎のごとく逃げ出した。
 まともにやり合って勝てる相手じゃねえ。
 ところが、すぐに目の前にタツが現れた。
 ロウ次郎は慌てて向きを変えて逃げる。
 またバサバサと翼の音がしてタツがロウ次郎の前に降り立った。巨体のわりに素早い。
(分かった。俺の負けだ。おめえの言うとおりにするぜ)
 そうしてロウ次郎はタツの仲間になり、ダバインという人間の勇者のことも知った。
 タツは強くて頭がよかった。ドラゴンでは竜王に次ぐ存在だと聞いたことがあった。まさにその通りだった。タツは最強の魔物と言えた。
 だが、ダバインという勇者は化け物だった。タツよりも強くて頭がよかった。
 一部の人間は生まれてすぐに戦うことの訓練を始め、毎日繰り返すことによって勇者になるという。人間が身体的なハンデを乗り越えて魔物よりも強くなるのはそんな理由だと知った。
 ロウ次郎はタツやダバインから戦い方のイロハや人間の言葉を学んだ。
 やがてタツ様、ダバイン様と呼ぶようになり、忠誠を誓った。

 ダバインは生まれ故郷の国の王様を殺し、自分が王となった。
 王となったダバインは堕落した人間を演じた。そんな自分に協力してくれる魔物や人間を集めるためだった。
 魔物と人間の兵を集めて軍隊を組織し、まずは近隣の国に攻め入り、支配下に置く。そして徐々に支配地域を広げていき、やがては全世界の人間と魔物を支配する。それがダバインの偉大な目的だった。
 タツにはそんな野心はなかったが、ダバインの考える夢のような計画を聞き、その実現に向けてダバインの片腕として協力することに今まで知らなかった喜びを感じた。
 だが、その夢のような計画は実現することなく終わった。
 他国の勇者たちが城に攻め入り、激しい戦いの末、ダバインもタツも討ち死した。
 ロウ次郎はその場面を見る前に、ダバインのような強い勇者たちを見て恐怖にかられて城から逃げ出していた。
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