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グルドフ旅行記・10 靴職人レンダルの非日常な出来事
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レンダルは上機嫌だった。
マゼルの町を囲む城壁が小さく見えている。
帰ってから妻のミーナやソンシュに配達先での出来事を話してやりたくてうずうずしていた。
ひたすら毎日、自分の家でこつこつと靴を作る。他には滅多にいないのではないかと思うほど自分は地味な人間だと思っていた。ところがどうだ。外に出てみると、自分のことを一目見たいと集まってくる人々がいる。自分のことを見ただけで失神してしまう人さえいるのだ。それほどの人物と思われているなどとは少しも知らなかった。自分がどれほど偉大な人間かを早くミーナやソンシュたちに教えてやりたかった。
近づいていくと、町の入口の城門付近に大勢の人がいるのに気が付いた。それだけではない。城壁の上にも人々が列をなしている。
すると、シュルシュルと音がして、町の上でパーンと花火が弾けた。
それは何かを知らせる合図のようだった。
偉大なる私、レンダルの帰りを知らせる花火だ。
やがて城門の前に立ち並ぶ人々の中に城の人間もいることに気が付いた。正装の兵士の姿も見える。マゼル城の城主であり、この地を治める領主でもあるアレクサンダン・マットアンの姿も人々の中心にあった。
領主様自らこの私を迎えに出てきて下さるなんて。
レンダルは感激に胸が熱くなった。
旅の疲れも吹っ飛んで領主の元へ走った。
「領主様」
レンダルは領主の前に来ると跪き、頭を下げた。
「おや、レンダル」
「ただ今戻りました」
レンダルは声を震わせて言った。
「出かけていたのかね」
「わざわざ領主様直々に・・・・」
そこまで言いかけて、レンダルは何かおかしいと気が付いた。
顔を上げてみると、領主は期待に満ちた目でレンダルが駆けてきた方向を見ている。
ゆっくりとした足取りで、レンダルと一緒にウォースターからやってきた二人の男が近づいてきた。
「グルドフ殿、ポポン殿、よう参られた。無理を言って申し訳なかった」
そう言ってアレクサンダンはグルドフたちを迎えた。
グルドフとポポンは領主の前で膝を付き、挨拶の言葉を述べた。
「さ、こちらへ。ドーアンの村の事件のことや、ルク・マットアンの息子のことなど、聞きたいことは山ほどある。楽しみにしておった」
アレクサンダンは自らグルドフとポポンを促して歩き始めた。
グルドフは脇に立つレンダルの前に歩み寄った。
「レンダルさん、それでは。私どもはこれで失礼します」
そう言ってグルドフは頭を下げた。
「あ、はい。ありがとうございました」
レンダルも慌てて頭を下げる。
しかしその頭の中は何が何だかわからずに混乱していた。
レンダルは家に帰ると、自分のことはそっちのけでミーナに今日の奇妙な出来事を話した。
「あらら。あなたも大変な方と一緒になったのね」
ミーナは訳知り顔で言った。
「どういうことなんだ?」
「今日になって領主様が大事なお客様をお迎えするという噂が広まったの。普通、大事なお客様がお見えになるときは町に御触れが出て、皆それなりの準備をするでしょ? でも今度のお客様は派手なことがお嫌いだからって、内密にお迎えするはずだったみたい。だけどどこからか情報が洩れて、皆どんなお客様がお見えになるのかと興味津々で、見に行く人が多かったのね」
「それであの人だかりか。で、グルドフという人はどんな人物なのか聞いたかね?」
「はい。ゲルグ王国の勇者だったお方で、お連れは魔法使いだったお方」
「勇者?」
「世界一と言われたほどの剣の腕前だったそうよ」
「へえ」
レンダルは黄と黒の縞模様の魔物と戦うのに苦労していたようなグルドフの姿を思い浮かべた。
「勇者を引退した後も剣術の修行のために旅をしているのですって」
「それでなぜこの町へ来たんだ?」
「領主様が呼んだから。この国へやってきて、幾つかの困った出来事をパパパッと解決しちゃって、国王様やマドゥの領主様から感謝されたのですって。もうゲルグ王国に帰ってしまうので、まだグルドフさんに会っていないここの領主様がやきもちを焼いて、ぜひマゼルにも寄ってくれって頼んだみたい」
「やきもち? へえ。そんなに凄い人だったのか。全然そんな風には見えなかったなあ」
「本当に凄い人っていうのは、そういうものなのよ。・・・・あなたみたいにね」
そう言ってミーナはレンダルを見て微笑んだ。
「そうか。私は危うく天狗になってしまうところだったよ」
レンダルも笑った。
マゼルの町を囲む城壁が小さく見えている。
帰ってから妻のミーナやソンシュに配達先での出来事を話してやりたくてうずうずしていた。
ひたすら毎日、自分の家でこつこつと靴を作る。他には滅多にいないのではないかと思うほど自分は地味な人間だと思っていた。ところがどうだ。外に出てみると、自分のことを一目見たいと集まってくる人々がいる。自分のことを見ただけで失神してしまう人さえいるのだ。それほどの人物と思われているなどとは少しも知らなかった。自分がどれほど偉大な人間かを早くミーナやソンシュたちに教えてやりたかった。
近づいていくと、町の入口の城門付近に大勢の人がいるのに気が付いた。それだけではない。城壁の上にも人々が列をなしている。
すると、シュルシュルと音がして、町の上でパーンと花火が弾けた。
それは何かを知らせる合図のようだった。
偉大なる私、レンダルの帰りを知らせる花火だ。
やがて城門の前に立ち並ぶ人々の中に城の人間もいることに気が付いた。正装の兵士の姿も見える。マゼル城の城主であり、この地を治める領主でもあるアレクサンダン・マットアンの姿も人々の中心にあった。
領主様自らこの私を迎えに出てきて下さるなんて。
レンダルは感激に胸が熱くなった。
旅の疲れも吹っ飛んで領主の元へ走った。
「領主様」
レンダルは領主の前に来ると跪き、頭を下げた。
「おや、レンダル」
「ただ今戻りました」
レンダルは声を震わせて言った。
「出かけていたのかね」
「わざわざ領主様直々に・・・・」
そこまで言いかけて、レンダルは何かおかしいと気が付いた。
顔を上げてみると、領主は期待に満ちた目でレンダルが駆けてきた方向を見ている。
ゆっくりとした足取りで、レンダルと一緒にウォースターからやってきた二人の男が近づいてきた。
「グルドフ殿、ポポン殿、よう参られた。無理を言って申し訳なかった」
そう言ってアレクサンダンはグルドフたちを迎えた。
グルドフとポポンは領主の前で膝を付き、挨拶の言葉を述べた。
「さ、こちらへ。ドーアンの村の事件のことや、ルク・マットアンの息子のことなど、聞きたいことは山ほどある。楽しみにしておった」
アレクサンダンは自らグルドフとポポンを促して歩き始めた。
グルドフは脇に立つレンダルの前に歩み寄った。
「レンダルさん、それでは。私どもはこれで失礼します」
そう言ってグルドフは頭を下げた。
「あ、はい。ありがとうございました」
レンダルも慌てて頭を下げる。
しかしその頭の中は何が何だかわからずに混乱していた。
レンダルは家に帰ると、自分のことはそっちのけでミーナに今日の奇妙な出来事を話した。
「あらら。あなたも大変な方と一緒になったのね」
ミーナは訳知り顔で言った。
「どういうことなんだ?」
「今日になって領主様が大事なお客様をお迎えするという噂が広まったの。普通、大事なお客様がお見えになるときは町に御触れが出て、皆それなりの準備をするでしょ? でも今度のお客様は派手なことがお嫌いだからって、内密にお迎えするはずだったみたい。だけどどこからか情報が洩れて、皆どんなお客様がお見えになるのかと興味津々で、見に行く人が多かったのね」
「それであの人だかりか。で、グルドフという人はどんな人物なのか聞いたかね?」
「はい。ゲルグ王国の勇者だったお方で、お連れは魔法使いだったお方」
「勇者?」
「世界一と言われたほどの剣の腕前だったそうよ」
「へえ」
レンダルは黄と黒の縞模様の魔物と戦うのに苦労していたようなグルドフの姿を思い浮かべた。
「勇者を引退した後も剣術の修行のために旅をしているのですって」
「それでなぜこの町へ来たんだ?」
「領主様が呼んだから。この国へやってきて、幾つかの困った出来事をパパパッと解決しちゃって、国王様やマドゥの領主様から感謝されたのですって。もうゲルグ王国に帰ってしまうので、まだグルドフさんに会っていないここの領主様がやきもちを焼いて、ぜひマゼルにも寄ってくれって頼んだみたい」
「やきもち? へえ。そんなに凄い人だったのか。全然そんな風には見えなかったなあ」
「本当に凄い人っていうのは、そういうものなのよ。・・・・あなたみたいにね」
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レンダルも笑った。
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