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グルドフ旅行記・10 靴職人レンダルの非日常な出来事
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レンダルたちが帰ったすぐ後に、また来客があった。
主人はやっと念願かなって手に入れた靴のことを考えて笑い出しそうになるのを隠そうともせずに家のドアを開けた。
外にいたのは先に訪ねてきた二人組の男たちのように腰に剣を携えた、いかつい男だった。
主人の笑顔は一瞬にして消えた。
「私はレンダルさんの護衛をしていたゴロという者です」
腕に包帯を巻いた男が紳士的に名乗った。
「はい?」
この家の主は、もしかしたら先ほどの二人もレンダルの関係者で、脅しのような言葉の数々は靴を届ける際の余興のようなものだったのかもしれないと考えた。
「レンダルさんが靴を届ける前にここにいた二人の男は、どのような用事があってこの家に来たのか、よろしかったら教えてもらえませんか」
「あの方たちもレンダルさんの関係者なのですか?」
「違います」
ゴロと名乗った男は即座に否定した。
「あの方たちはここに来るとすぐにレンダルさんを誘拐したから、無事に解放してほしければ金を出せと言いました。私が靴の代金を持ってきますと、それでは少ないから家中の金を全て出せと言いました。その後すぐにレンダルさんたちが来て、二人の姿はありませんでした」
「そういうことですか。ありがとうございました」
そう言って男は頭を下げてから去っていった。
慌てふためいて走るフィルとアンドロの後を追っている者がいた。もちろん二人はそれに気が付いていない。
アジトにしている隠れ家に入ると、二人はやっと安堵の息を漏らした。
「今日は何て日だ」
ぜーぜーと息を継ぎながらフィルが言った。
「その腹も少しは引っ込んだだろ」
アンドロがフィルの丸いお腹を見て言う。
「変わらねえか」
もう一度アンドロが言った。
「うるせえ」
「しかし靴屋の野郎、ピンピンしていやがったぜ」
「あの魔物から逃げおおせるとはとても思えなかったが」
「それでどうする?」
「うーむ」
フィルが考え込む。それを見ているアンドロは、ほんの一秒も考えようとはしない。
「もう一度、マゼルに戻るところを狙うか」
フィルが言った。
「そうだな。俺もそう考えていたところだ」
「さっきのが二軒目の配達先なら、今日この町を出てマゼルに帰るだろう。もう一軒配達するのなら明日の朝出発だ。いずれにしろ、靴屋は仕事を山ほど抱えているんだ。さっさとマゼルに帰りたがっているだろうよ」
「なら俺たちもさっさとしないと」
「急いで支度をして出かけるぞ」
ウォースターも他の町と同じように、魔物の侵入を防ぐために町の周囲に高い壁を巡らせている。町の外と中を繋ぐ門は東西南北の四カ所にあった。地理的にマゼルは西にあるので、レンダルたちは西の門を通るだろうと当たりを付けてフィルとアンドロはその近くに身を潜めた。
予想通り昼過ぎにレンダルが現れた。一緒にいる警護役らしいのはゴロとトーミスではなく、冴えない中年男とマントを着たじじいだ。
「何だ、今度の護衛はあいつらか? 何なら町を出てすぐに襲っちまおうか。そうすりゃ、町に引き返すにも楽だ」
アンドロがひそひそ声でフィルに言った。
「まあ、待て。一度しくじっているんだ。慎重にやろう。昨日と同じように魔物と戦っている時にお前の得意技でやるんだ」
「わかったよ」
アンドロは少し不満そうに言った。
町を出たレンダルたち三人の姿が豆粒ほどになった頃、フィルとアンドロは身を潜めていた場所から出てきて後を追って歩き出した。
主人はやっと念願かなって手に入れた靴のことを考えて笑い出しそうになるのを隠そうともせずに家のドアを開けた。
外にいたのは先に訪ねてきた二人組の男たちのように腰に剣を携えた、いかつい男だった。
主人の笑顔は一瞬にして消えた。
「私はレンダルさんの護衛をしていたゴロという者です」
腕に包帯を巻いた男が紳士的に名乗った。
「はい?」
この家の主は、もしかしたら先ほどの二人もレンダルの関係者で、脅しのような言葉の数々は靴を届ける際の余興のようなものだったのかもしれないと考えた。
「レンダルさんが靴を届ける前にここにいた二人の男は、どのような用事があってこの家に来たのか、よろしかったら教えてもらえませんか」
「あの方たちもレンダルさんの関係者なのですか?」
「違います」
ゴロと名乗った男は即座に否定した。
「あの方たちはここに来るとすぐにレンダルさんを誘拐したから、無事に解放してほしければ金を出せと言いました。私が靴の代金を持ってきますと、それでは少ないから家中の金を全て出せと言いました。その後すぐにレンダルさんたちが来て、二人の姿はありませんでした」
「そういうことですか。ありがとうございました」
そう言って男は頭を下げてから去っていった。
慌てふためいて走るフィルとアンドロの後を追っている者がいた。もちろん二人はそれに気が付いていない。
アジトにしている隠れ家に入ると、二人はやっと安堵の息を漏らした。
「今日は何て日だ」
ぜーぜーと息を継ぎながらフィルが言った。
「その腹も少しは引っ込んだだろ」
アンドロがフィルの丸いお腹を見て言う。
「変わらねえか」
もう一度アンドロが言った。
「うるせえ」
「しかし靴屋の野郎、ピンピンしていやがったぜ」
「あの魔物から逃げおおせるとはとても思えなかったが」
「それでどうする?」
「うーむ」
フィルが考え込む。それを見ているアンドロは、ほんの一秒も考えようとはしない。
「もう一度、マゼルに戻るところを狙うか」
フィルが言った。
「そうだな。俺もそう考えていたところだ」
「さっきのが二軒目の配達先なら、今日この町を出てマゼルに帰るだろう。もう一軒配達するのなら明日の朝出発だ。いずれにしろ、靴屋は仕事を山ほど抱えているんだ。さっさとマゼルに帰りたがっているだろうよ」
「なら俺たちもさっさとしないと」
「急いで支度をして出かけるぞ」
ウォースターも他の町と同じように、魔物の侵入を防ぐために町の周囲に高い壁を巡らせている。町の外と中を繋ぐ門は東西南北の四カ所にあった。地理的にマゼルは西にあるので、レンダルたちは西の門を通るだろうと当たりを付けてフィルとアンドロはその近くに身を潜めた。
予想通り昼過ぎにレンダルが現れた。一緒にいる警護役らしいのはゴロとトーミスではなく、冴えない中年男とマントを着たじじいだ。
「何だ、今度の護衛はあいつらか? 何なら町を出てすぐに襲っちまおうか。そうすりゃ、町に引き返すにも楽だ」
アンドロがひそひそ声でフィルに言った。
「まあ、待て。一度しくじっているんだ。慎重にやろう。昨日と同じように魔物と戦っている時にお前の得意技でやるんだ」
「わかったよ」
アンドロは少し不満そうに言った。
町を出たレンダルたち三人の姿が豆粒ほどになった頃、フィルとアンドロは身を潜めていた場所から出てきて後を追って歩き出した。
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