グルドフ旅行記

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
88 / 100
グルドフ旅行記・10 靴職人レンダルの非日常な出来事

11

しおりを挟む
 レンダルは自分が作った靴を入れたカバンを背負うと、宿屋の主人に昼前には戻ると告げて出かけた。
 宿の前に十人ほどの人達がいて、レンダルの姿を見るとわっと近寄ってきた。その中に昨日、靴を届けた際に感激のあまり失神してしまった女もいた。
 女はレンダルを見て両手を合わせて拝み始めた。すると周りにいた老若男女も同じように拝み始める。
「ちょ、ちょっと止してください」
 レンダルは慌てて言った。
「申し訳ありません。ご迷惑に思うようでしたらもうしません」
 始めに拝み始めた女が言う。
「別に迷惑というわけではありませんが、私はそんな、拝まれるような人間ではありませんから」
「レンダル様は神様のような立派な靴職人です」
「そう言ってもらえるのはありがたいのですが、拝むのだけはご勘弁を」
「わかりました。もう二度といたしません。ところで、今日はもうお帰りになられるのですか?」
「いえ、もう一軒靴の配達がありますので、それを済ませてからマゼルに戻ります」
「では、お帰りになられるまでの間、御一緒させてください」
 女はもう手を合わせていなかったが、祈るような目でレンダルを見た。女の周りにいる者たちも同じような目でレンダルを見ている。
「わかりました。ご自由にどうぞ」
 そんな訳で、地図を片手に歩くレンダルを先頭に何人もの人間がぞろぞろと通りを歩き、二軒目の配達先に到着した。
 ところが、その家には先客がいた。
「ちょっと待っていましょうかね」
 レンダルの横に立つ女が言った。
「そうですね。長くならないといいのですが」
 レンダルは自分を警護してくれる旅人との出発時間を気にしながら言った。
 しかし待つ間もなく二人のむさくるしい姿の男が出てきて、逃げるように去っていった。
「どうしたのかしら」
 レンダルの隣に立つレンダルが作った靴を履いた女が言った。
「よかった。さっそく参りましょう」
 そう言ってレンダルは家のドアをノックした。
 家の奥から男がやってきた。
「あ、レンダルさん。誘拐されたんじゃなかったのですか?」
「誘拐? 誰が?」
「レンダルさん、あなたが」
「私? 私はここにいます」
「そ、そのようですね。先に来ていた方たちはどうしました?」
「帰られたようです」
「そうですか。さ、どうぞ、お入りになって下さい」
 安心したような男にうながされてレンダルは家の中に入った。後に控えていた者たちもぞろぞろと続く。
 やがて部屋の中央の椅子に座る男に靴を履かせる作業が始まった。
 昨日の女が連れてきたらしい人々が期待と感動の眼差しでレンダルの儀式を見つめる。
 レンダルにとっては何でもない作業だったが、昨日見損ねたレンダルの熱烈な支持者たちにとっては、もう二度と見ることができないと思われる重大な儀式だった。
 偉大なる儀式が終わると、熱烈な支持者たちの中から一人の女がレンダルの前に進み出た。昨日靴を届けた女と同じくらいの年齢の女だった。
「レンダル様、とても感激いたしました。私も靴の注文をお願いしてもよろしゅうございますか?」
 立派な服を着た上品な女だった。
「ええ。構いません。ただ、注文の名簿を持参していませんのではっきりしたことは言えませんが、今のところ百五十名ほどの方からご注文を頂いております。一足の製作に数日を要しますし、王様などから注文が入った場合はそちらを優先しなければなりませんから、早く見積もっても」
「わかりました。結構です。注文はキャンセルさせていただきます」
 女は諦め顔で言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...