グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・10 靴職人レンダルの非日常な出来事

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 翌朝、フィルとアンドロは町の地図を広げて、客の家を確認して出かけた。
 腰に剣を差し、いかにも旅をする柄の悪い男といういで立ちを強調した姿で目的の家のドアをノックした。
「はい?」
 家の主人が顔を出した。
「こんにちは」
 フィルがいかつい顔で無気味に微笑んで言った。
「こんにちは」
 主人は二人の姿を見て怯えた様子で言った。
「靴屋を誘拐した。無事に開放してほしければ金を出せ」
「靴屋?」
 主人の男は怪訝そうに尋ねる。
「靴職人のレンダルだよ! 早く金を持ってこい!」
 急にフィルが凄んで言った。
「ひっ」
 男は驚いて慌ててドアを閉めようとしたが、フィルは足でドアを押さえつけていた。
「か、金なら払います。丁度今日、届けられるはずの靴の代金を用意していましたので」
「早く持ってこい! 妙な真似をしやがったらレンダルの命はねえぞ!」
「は、は、はい」
 男は怯えて奥に引っ込み、すぐに金を持って戻ってきた。
「それっぽっちか。靴の代金じゃねえんだぞ! レンダルの命の代金だ。家の中の有り金集めて持ってこい!」
「は、はは、はい。失礼しました」
 男は震えながら再び家の中に引っ込んだ。

「おや、先客がいるようですね」
 家の外の道の方から声がした。
「ちょっと待っていましょうかね」
「そうですね。長くならないといいのですが」
 フィルとアンドロは外から聞こえてくる声に、顔を見合わせた。マズい時に来客だ。しかも一人や二人ではないらしい。
 二人はそっと後退り、こそこそと家の前に立ち並ぶ人たちから逃れるようにその場を離れようとした。
「あっ」
 思わずフィルが声を出し、二人は慌てて走り出した。
「どうした?」
 フィルの後を追うアンドロが怒鳴るように言った。
「靴屋だ。生きていやがった」
 走りながらフィルが後ろを振り返ると、大勢の男女がこちらを見ていて、その中にレンダルの顔もあった。
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