グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・9 偽物グルドフ

負けたら言うことを聞く・2

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「いえ、私はそのようなことはしません。そなたがクルドフと名乗って何かをすると、大抵の人はそなたより名前の売れている私のことだと勘違いして、私がしたことだと思われてしまうということです。昨日の食堂でのことがいい例です」
「うぬ。おぬしに迷惑をかけていたとは知らなんだ。それは申し訳なかった。謝る。済まん」
「これからは自分のことを武道家のクルドフと、クのところを強く発音して名乗っていただきたい」
「わかった。これからは武道家のクルドフで、グルドフではないと名乗ろう」
「『で、グルドフではない』の部分は余分ですから、必要ないですな。そなたはこれからも武道家として頑張って修行に励めばいいと思います」
「しかし今のままでは飯が食えん」
「先ほどイワン殿のお弟子さんたちに剣術を教えてやろうと言ったとき、誰一人としてそなたに教えてもらおうという者はいませんでしたな。もちろん初めて見る人にいきなり剣術を教えてもらうということに抵抗がありましょうが、それ以前に、そなたの態度を見ていれば、誰も教えてもらいたいと思わないでしょう。先ほど剣を交えた時にはあれほど相手のことをしっかり見ることができたのに、なぜ普段は相手を注意深く観察して、対応しないのですかな?」
「ん? わしの対応が悪い?」
「少なくとも道場で師範代として人を指導するのに向いているとは言い難いですな」
「うーむ」
「もちろん、イワン殿のように自分のことを弱い弱いと言うのもどうかと思いますが、虚勢を張ったり、威張り散らすよりもよっぽどいい。イワン殿は自分にも他人にも素直だから人が付いてくるのです。そなたはこれからも剣術の修行に励めばよろしいが、それ以上に人との接し方の修行を積みなされ」
「はあ」
「イワン殿、紙とペンを貸してください」
「はい」
 イワンは部屋を出ていった。
「ターロウという武道家を知っていますかな?」
「もちろん知っておる」
「会ったことは?」
「ない。一度勝負してみたいとは思っておったが」
「私が紹介状を書いてあげましょう。それを持ってマットアンに行き、ターロウ殿の元で剣術と精神を学びなさい。そうすれば、良い武道家になれましょう」
 グルドフはイワンからペンと紙を受け取ると、さらさらとターロウに宛てた手紙を書いた。
「これを持ってターロウ殿の道場に行きなさい」
「かたじけない」
 折り畳んだ紙をクルドフに渡すと、グルドフはカバンから財布を取り出した。
「これは当面の旅費です。取っておきなさい」
 グルドフは財布から紙幣を取り出し、クルドフに差し出した。
「いや、しかし」
「そなたがこれからも武術の修行に励むというのなら、返さなくても結構」
「では有り難く頂戴いたします」
「さて。イワン殿、先ほどの稽古の続きをお願いできますかな?」
「こちらこそお願いします」
「お弟子さんたちも、弱い先生より、強い先生の方がいいに決まっていますからな」
「はい」
「済まんが・・・・」
 クルドフが言った。
「何か?」
「済まんが、わしにも稽古をつけてもらえまいか」
 クルドフが控えめに言った。
「もちろん、いいですよ。しかし」
「しかし?」
「先に昨日の食堂に行って、食事の代金を払ってきなされ」
 クルドフはすごい勢いで部屋を飛び出していった。


 グルドフ旅行記・9話 終わり 
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