グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・7 かわいい同行者

少女の正体

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「セーラとは幼馴染であり、親友です」
 姫様が言った。
「それではあなた様がセーラさんを私たちの冒険に同行させるようにしたのですか?」
「私からお姫様に言いました」
 セーラが言った。
「セーラさんも冒険が好きだったのですか。あまりそのようには見えませんでしたが」
「今回、冒険に同行してみて、とても冒険が好きになりました」
 セーラは目を輝かせて言った。
「実はこの度、グルドフ様たちがこの町に来た時に、父が冒険を頼みたいと申しているのを聞きました。どのような冒険か尋ねたところ、ドーアンへ行方不明の子供たちを捜しに行ってもらうつもりだとのことでした。それくらいの冒険なら、私たちも連れていってくれないかしらとセーラと二人で話をしました。もちろん本気で言っていたわけではないのですが」
「私はいつもお姫様が言っていることを、その時に思い出しました。勇者様が王様に冒険の報告をするのを聞いていても、いつどこで何をして、次にいつどこで何をしての繰り返しで、勇者様が何を考えてそのような行動をとったのかがわからない。もっと勇者様の内面を知りたいと言っていました。その時、私は思ったのです。グルドフ様と一緒に行動すれば、勇者様はいつも何を考え、どのような心でいるかわかるのではないかと。それを知り、お姫様にお伝えできれば、お姫様はきっと喜ぶと思ったのです」
 セーラが姫様のあとに続いて言った。
「しかし何と無謀なことを」
 グルドフが言った。
「伝説の勇者グルドフ様なら、セーラを危険な目に合わせることはないと確信していたのです」
「しかし姫様、冒険に危険はつきものですぞ。二度とこのような真似はなさいませんように」
「これが最初で最後です」
 姫様がきっぱりと言った。そしてさらに続ける。
「私にとっても、セーラにとっても。私はお話に聞いていると思いますが、隣国へ嫁ぐことが決まっています。次にこの国の勇者様が冒険を終えて王様に報告するためにここへ来ても、私は色々と準備があり、今までのようにお話を聞けるかわかりません。また、隣国に行きましたら、夫のため、国のために尽くすつもりですので、もう冒険とか勇者様といったことは口には出さないつもりです。それからセーラは私に代わってこの城に入ることが決まっています」
「ん?」
 グルドフとポポンは怪訝そうな顔をした。
「セーラは私にとって幼馴染であり、親友でありますが、私の兄にとってもセーラは幼馴染であり、恋人でもあるのです」
「ああ、それでは宿屋の娘さんで、王子様の婚約者というのは、セーラさん、あなたなのですか」
「はい」
 セーラが答えた。
「婚約者としてまだ正式に決まったわけではありません。正式に決まってしまえば、セーラも私同様自由に城や町の外に出ていけなくなります。だからセーラにとっても、今回のことは最初で最後のチャンスだったのです」
 姫様は語り終えると、セーラを見た。
「私たちは毎日のように顔を合わせてきましたが、お姫様が遠い地へ行ってしまえば、なかなか会うことはできなくなってしまいます。せめてその前に、お姫様が一番喜ぶことをしてあげたい。そう思ったのです」
「そうですか。頑張りましたな」
 グルドフがしみじみと言った。
 セーラの目にうっすらと涙がにじんでくる。
「セーラがどこでグルドフ様たちに行き会うのが一番いいのか、そしてどうすれば冒険などしたことのない人間を一緒に連れていってもらえるのか。二人で色々と考えました。まるで冒険に出かけているようで、とても楽しい時間でした。それに伝説の勇者グルドフ様とはどのような人なのか、一緒に旅をするポポン様もどのような人なのか。二人で色々と想像しました」
「それは、それは。見てくれは私もポポン殿も、想像の人物より実物のほうが残念でありましたでしょう」
「いえ、それは・・・・」
「でも、グルドフ様もポポン様も、私たちの想像より遥かに勇敢で、心優しくて、立派でした」
 セーラが姫様をフォローして言った。
「さあ、私たちのことはもうよいでしょう。早く冒険のお話を」
 姫様がワクワクした表情でうながした。
「そうですな」
「まずは今回の冒険のことからお伺いしたいのですが・・・・」
 話は深夜まで続いた。
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