52 / 100
グルドフ旅行記・7 かわいい同行者
王様の頼みごと
しおりを挟む
グルドフはゲルグ王国の勇者となった時から、鼻の下の髭を伸ばし始めた。それほど背が高くなく、丸い童顔だったので、少しでも実年齢よりも上に見られたい、貫録をつけたいと、若気の至りで思いついたことだった。
その後、数年と経たないうちにグルドフは世界最強の勇者と言われるようになり、鼻の下に蓄えたちょび髭は、グルドフのトレードマークとなった。
勇者を引退した今、もはやちょび髭はグルドフにとって目や鼻や口と同じように、顔の一部となっていた。
そのちょび髭に白いものがちらほらと混じり始めたように、剣の速さもキレも若い時より少しばかり落ちていたが、それでもグルドフと剣を交えたら、まともに勝負できる者はほとんどいないという技は健在だった。
ポイの町を出発したグルドフとポポンはスーズの町に行き、イワンの小さな道場を訪ねた。そこで激しい稽古をし、一泊したのち、ミレファルコという町に行き、さらに一泊した。その翌日の午後、目指すマットアンの町に着いた。
マットアンの町はマットアン王国最大の町で、多くの建物が立ち並び、多くの人々で活気に満ちていた。
グルドフとポポンは着いたその足でターロウの道場に行った。
「これは、これは。よういらした」
高名な武道家ターロウは、笑顔でグルドフとポポンを迎えた。
「到着が予定よりかなり遅れてしまい、申し訳ありません」
「いえ、気にすることはござりません。さ、どうぞ中へ」
グルドフとポポンはターロウの案内で広い道場に入った。
「これはまた、立派なものでありますな」
道場の中では老若男女、大勢の者が組稽古をしている。
「どうぞ、こちらに」
道場を見せたあと、ターロウは小さな客間にグルドフとポポンを招き入れた。
「ターロウ殿、実はマットアン王に会いに来てほしいと言われていまして。明日もう一日だけお邪魔させてもらい、翌日は王様のところに行かなければなりません」
「王様に? 何か用でも?」
「きっと何か頼まれるかと思います」
「それなら明日、すぐに王様のところに行きなされ。私のところには王様の御用が済んでから、ゆっくり参ればよろしい」
ターロウは諭すように言った。
「しかし・・・・」
私は他国の者だし、もう勇者でもないのだし、ターロウと稽古をすることをずっと楽しみにしてきたのに、と言いたかったが、グルドフはぐっと言葉を飲み込んだ。
冒険者たるもの、王様の命令は何にも代えがたい大事なものということは心得ている。ターロウにしてみても、それは当たり前のことなのだ。
「わかりました。それでは明日の朝、王様のところに行ってきます」
グルドフは言った。
「そうしなされ。わしはいつでも大歓迎するし、来たら何日でもここにいてよいであるから」
それからグルドフたちは日がどっぷり暮れるまでターロウと話をして、道場をあとにした。
翌日、グルドフとポポンはできるだけ服装をきれいに整え、王様のところに行った。
「マドゥ殿の用件はすっかり片付いたかの?」
グルドフたちのあいさつの後、マットアンの王様は尋ねた。
「はい」
「息子と妻はマドゥに戻るのか?」
「はい、戻ります」
グルドフは答えた。
「それはよかった。それでは次に、私たちにそなたの力を貸してほしい」
「はい」
「今、我が国の勇者たちは壮大な冒険の旅に出て、諸国を巡り歩いておる。この町に帰ってくるのは数カ月後になるであろう。しかし、さらに勇者に頼みたい案件が幾つかできてしまったのだ。その中の一つ、急を要すると思われる冒険に我が国の勇者の代わりに行ってもらいたい」
「私は構いませんが、他国の勇者だった私が、この国の勇者様を差し置いて、勇者様が行くはずだった冒険に出てもよろしいのでありますか?」
「それは構わん。我が国の勇者はそんなことでひがむような度量の狭い男ではない。むしろ自分の仕事が一つ片付いたと喜ぶであろう。そなたも気にすることはない」
「わかりました」
「それではアザム国の元勇者グルドフに冒険を言い渡す。西のダーズハル王国との国境近くにドーアンという村がある。そこで最近、二人の赤子と言っていい幼い子が魔物にさらわれた。もう生きておらぬかもしれぬが、はっきりそうとも言えぬので、元勇者グルドフにその子らの捜索を頼みたい。そしてどのような魔物が何のために子供をさらったのか、調べられるのなら、そこまで調べてきてほしい。よろしいか?」
「はい。分かりました」
「ドーアンには兵士一個小隊を派遣してある。詳しいことは隊長のマーレイに話を聞くがよい」
「はい」
「この度の冒険に必要であれば、魔法使いや武道家らを一緒に同行させるが、いかがか?」
「そうでありますな。強力な魔物を退治するわけではなさそうなので、ポポン殿と二人で十分かと思います」
「ならば二人で。早急に頼む」
「はは」
グルドフは頭を下げてポポンと共に王様の前を離れた。
その後、数年と経たないうちにグルドフは世界最強の勇者と言われるようになり、鼻の下に蓄えたちょび髭は、グルドフのトレードマークとなった。
勇者を引退した今、もはやちょび髭はグルドフにとって目や鼻や口と同じように、顔の一部となっていた。
そのちょび髭に白いものがちらほらと混じり始めたように、剣の速さもキレも若い時より少しばかり落ちていたが、それでもグルドフと剣を交えたら、まともに勝負できる者はほとんどいないという技は健在だった。
ポイの町を出発したグルドフとポポンはスーズの町に行き、イワンの小さな道場を訪ねた。そこで激しい稽古をし、一泊したのち、ミレファルコという町に行き、さらに一泊した。その翌日の午後、目指すマットアンの町に着いた。
マットアンの町はマットアン王国最大の町で、多くの建物が立ち並び、多くの人々で活気に満ちていた。
グルドフとポポンは着いたその足でターロウの道場に行った。
「これは、これは。よういらした」
高名な武道家ターロウは、笑顔でグルドフとポポンを迎えた。
「到着が予定よりかなり遅れてしまい、申し訳ありません」
「いえ、気にすることはござりません。さ、どうぞ中へ」
グルドフとポポンはターロウの案内で広い道場に入った。
「これはまた、立派なものでありますな」
道場の中では老若男女、大勢の者が組稽古をしている。
「どうぞ、こちらに」
道場を見せたあと、ターロウは小さな客間にグルドフとポポンを招き入れた。
「ターロウ殿、実はマットアン王に会いに来てほしいと言われていまして。明日もう一日だけお邪魔させてもらい、翌日は王様のところに行かなければなりません」
「王様に? 何か用でも?」
「きっと何か頼まれるかと思います」
「それなら明日、すぐに王様のところに行きなされ。私のところには王様の御用が済んでから、ゆっくり参ればよろしい」
ターロウは諭すように言った。
「しかし・・・・」
私は他国の者だし、もう勇者でもないのだし、ターロウと稽古をすることをずっと楽しみにしてきたのに、と言いたかったが、グルドフはぐっと言葉を飲み込んだ。
冒険者たるもの、王様の命令は何にも代えがたい大事なものということは心得ている。ターロウにしてみても、それは当たり前のことなのだ。
「わかりました。それでは明日の朝、王様のところに行ってきます」
グルドフは言った。
「そうしなされ。わしはいつでも大歓迎するし、来たら何日でもここにいてよいであるから」
それからグルドフたちは日がどっぷり暮れるまでターロウと話をして、道場をあとにした。
翌日、グルドフとポポンはできるだけ服装をきれいに整え、王様のところに行った。
「マドゥ殿の用件はすっかり片付いたかの?」
グルドフたちのあいさつの後、マットアンの王様は尋ねた。
「はい」
「息子と妻はマドゥに戻るのか?」
「はい、戻ります」
グルドフは答えた。
「それはよかった。それでは次に、私たちにそなたの力を貸してほしい」
「はい」
「今、我が国の勇者たちは壮大な冒険の旅に出て、諸国を巡り歩いておる。この町に帰ってくるのは数カ月後になるであろう。しかし、さらに勇者に頼みたい案件が幾つかできてしまったのだ。その中の一つ、急を要すると思われる冒険に我が国の勇者の代わりに行ってもらいたい」
「私は構いませんが、他国の勇者だった私が、この国の勇者様を差し置いて、勇者様が行くはずだった冒険に出てもよろしいのでありますか?」
「それは構わん。我が国の勇者はそんなことでひがむような度量の狭い男ではない。むしろ自分の仕事が一つ片付いたと喜ぶであろう。そなたも気にすることはない」
「わかりました」
「それではアザム国の元勇者グルドフに冒険を言い渡す。西のダーズハル王国との国境近くにドーアンという村がある。そこで最近、二人の赤子と言っていい幼い子が魔物にさらわれた。もう生きておらぬかもしれぬが、はっきりそうとも言えぬので、元勇者グルドフにその子らの捜索を頼みたい。そしてどのような魔物が何のために子供をさらったのか、調べられるのなら、そこまで調べてきてほしい。よろしいか?」
「はい。分かりました」
「ドーアンには兵士一個小隊を派遣してある。詳しいことは隊長のマーレイに話を聞くがよい」
「はい」
「この度の冒険に必要であれば、魔法使いや武道家らを一緒に同行させるが、いかがか?」
「そうでありますな。強力な魔物を退治するわけではなさそうなので、ポポン殿と二人で十分かと思います」
「ならば二人で。早急に頼む」
「はは」
グルドフは頭を下げてポポンと共に王様の前を離れた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる