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グルドフ旅行記・7 かわいい同行者
王様の頼みごと
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グルドフはゲルグ王国の勇者となった時から、鼻の下の髭を伸ばし始めた。それほど背が高くなく、丸い童顔だったので、少しでも実年齢よりも上に見られたい、貫録をつけたいと、若気の至りで思いついたことだった。
その後、数年と経たないうちにグルドフは世界最強の勇者と言われるようになり、鼻の下に蓄えたちょび髭は、グルドフのトレードマークとなった。
勇者を引退した今、もはやちょび髭はグルドフにとって目や鼻や口と同じように、顔の一部となっていた。
そのちょび髭に白いものがちらほらと混じり始めたように、剣の速さもキレも若い時より少しばかり落ちていたが、それでもグルドフと剣を交えたら、まともに勝負できる者はほとんどいないという技は健在だった。
ポイの町を出発したグルドフとポポンはスーズの町に行き、イワンの小さな道場を訪ねた。そこで激しい稽古をし、一泊したのち、ミレファルコという町に行き、さらに一泊した。その翌日の午後、目指すマットアンの町に着いた。
マットアンの町はマットアン王国最大の町で、多くの建物が立ち並び、多くの人々で活気に満ちていた。
グルドフとポポンは着いたその足でターロウの道場に行った。
「これは、これは。よういらした」
高名な武道家ターロウは、笑顔でグルドフとポポンを迎えた。
「到着が予定よりかなり遅れてしまい、申し訳ありません」
「いえ、気にすることはござりません。さ、どうぞ中へ」
グルドフとポポンはターロウの案内で広い道場に入った。
「これはまた、立派なものでありますな」
道場の中では老若男女、大勢の者が組稽古をしている。
「どうぞ、こちらに」
道場を見せたあと、ターロウは小さな客間にグルドフとポポンを招き入れた。
「ターロウ殿、実はマットアン王に会いに来てほしいと言われていまして。明日もう一日だけお邪魔させてもらい、翌日は王様のところに行かなければなりません」
「王様に? 何か用でも?」
「きっと何か頼まれるかと思います」
「それなら明日、すぐに王様のところに行きなされ。私のところには王様の御用が済んでから、ゆっくり参ればよろしい」
ターロウは諭すように言った。
「しかし・・・・」
私は他国の者だし、もう勇者でもないのだし、ターロウと稽古をすることをずっと楽しみにしてきたのに、と言いたかったが、グルドフはぐっと言葉を飲み込んだ。
冒険者たるもの、王様の命令は何にも代えがたい大事なものということは心得ている。ターロウにしてみても、それは当たり前のことなのだ。
「わかりました。それでは明日の朝、王様のところに行ってきます」
グルドフは言った。
「そうしなされ。わしはいつでも大歓迎するし、来たら何日でもここにいてよいであるから」
それからグルドフたちは日がどっぷり暮れるまでターロウと話をして、道場をあとにした。
翌日、グルドフとポポンはできるだけ服装をきれいに整え、王様のところに行った。
「マドゥ殿の用件はすっかり片付いたかの?」
グルドフたちのあいさつの後、マットアンの王様は尋ねた。
「はい」
「息子と妻はマドゥに戻るのか?」
「はい、戻ります」
グルドフは答えた。
「それはよかった。それでは次に、私たちにそなたの力を貸してほしい」
「はい」
「今、我が国の勇者たちは壮大な冒険の旅に出て、諸国を巡り歩いておる。この町に帰ってくるのは数カ月後になるであろう。しかし、さらに勇者に頼みたい案件が幾つかできてしまったのだ。その中の一つ、急を要すると思われる冒険に我が国の勇者の代わりに行ってもらいたい」
「私は構いませんが、他国の勇者だった私が、この国の勇者様を差し置いて、勇者様が行くはずだった冒険に出てもよろしいのでありますか?」
「それは構わん。我が国の勇者はそんなことでひがむような度量の狭い男ではない。むしろ自分の仕事が一つ片付いたと喜ぶであろう。そなたも気にすることはない」
「わかりました」
「それではアザム国の元勇者グルドフに冒険を言い渡す。西のダーズハル王国との国境近くにドーアンという村がある。そこで最近、二人の赤子と言っていい幼い子が魔物にさらわれた。もう生きておらぬかもしれぬが、はっきりそうとも言えぬので、元勇者グルドフにその子らの捜索を頼みたい。そしてどのような魔物が何のために子供をさらったのか、調べられるのなら、そこまで調べてきてほしい。よろしいか?」
「はい。分かりました」
「ドーアンには兵士一個小隊を派遣してある。詳しいことは隊長のマーレイに話を聞くがよい」
「はい」
「この度の冒険に必要であれば、魔法使いや武道家らを一緒に同行させるが、いかがか?」
「そうでありますな。強力な魔物を退治するわけではなさそうなので、ポポン殿と二人で十分かと思います」
「ならば二人で。早急に頼む」
「はは」
グルドフは頭を下げてポポンと共に王様の前を離れた。
その後、数年と経たないうちにグルドフは世界最強の勇者と言われるようになり、鼻の下に蓄えたちょび髭は、グルドフのトレードマークとなった。
勇者を引退した今、もはやちょび髭はグルドフにとって目や鼻や口と同じように、顔の一部となっていた。
そのちょび髭に白いものがちらほらと混じり始めたように、剣の速さもキレも若い時より少しばかり落ちていたが、それでもグルドフと剣を交えたら、まともに勝負できる者はほとんどいないという技は健在だった。
ポイの町を出発したグルドフとポポンはスーズの町に行き、イワンの小さな道場を訪ねた。そこで激しい稽古をし、一泊したのち、ミレファルコという町に行き、さらに一泊した。その翌日の午後、目指すマットアンの町に着いた。
マットアンの町はマットアン王国最大の町で、多くの建物が立ち並び、多くの人々で活気に満ちていた。
グルドフとポポンは着いたその足でターロウの道場に行った。
「これは、これは。よういらした」
高名な武道家ターロウは、笑顔でグルドフとポポンを迎えた。
「到着が予定よりかなり遅れてしまい、申し訳ありません」
「いえ、気にすることはござりません。さ、どうぞ中へ」
グルドフとポポンはターロウの案内で広い道場に入った。
「これはまた、立派なものでありますな」
道場の中では老若男女、大勢の者が組稽古をしている。
「どうぞ、こちらに」
道場を見せたあと、ターロウは小さな客間にグルドフとポポンを招き入れた。
「ターロウ殿、実はマットアン王に会いに来てほしいと言われていまして。明日もう一日だけお邪魔させてもらい、翌日は王様のところに行かなければなりません」
「王様に? 何か用でも?」
「きっと何か頼まれるかと思います」
「それなら明日、すぐに王様のところに行きなされ。私のところには王様の御用が済んでから、ゆっくり参ればよろしい」
ターロウは諭すように言った。
「しかし・・・・」
私は他国の者だし、もう勇者でもないのだし、ターロウと稽古をすることをずっと楽しみにしてきたのに、と言いたかったが、グルドフはぐっと言葉を飲み込んだ。
冒険者たるもの、王様の命令は何にも代えがたい大事なものということは心得ている。ターロウにしてみても、それは当たり前のことなのだ。
「わかりました。それでは明日の朝、王様のところに行ってきます」
グルドフは言った。
「そうしなされ。わしはいつでも大歓迎するし、来たら何日でもここにいてよいであるから」
それからグルドフたちは日がどっぷり暮れるまでターロウと話をして、道場をあとにした。
翌日、グルドフとポポンはできるだけ服装をきれいに整え、王様のところに行った。
「マドゥ殿の用件はすっかり片付いたかの?」
グルドフたちのあいさつの後、マットアンの王様は尋ねた。
「はい」
「息子と妻はマドゥに戻るのか?」
「はい、戻ります」
グルドフは答えた。
「それはよかった。それでは次に、私たちにそなたの力を貸してほしい」
「はい」
「今、我が国の勇者たちは壮大な冒険の旅に出て、諸国を巡り歩いておる。この町に帰ってくるのは数カ月後になるであろう。しかし、さらに勇者に頼みたい案件が幾つかできてしまったのだ。その中の一つ、急を要すると思われる冒険に我が国の勇者の代わりに行ってもらいたい」
「私は構いませんが、他国の勇者だった私が、この国の勇者様を差し置いて、勇者様が行くはずだった冒険に出てもよろしいのでありますか?」
「それは構わん。我が国の勇者はそんなことでひがむような度量の狭い男ではない。むしろ自分の仕事が一つ片付いたと喜ぶであろう。そなたも気にすることはない」
「わかりました」
「それではアザム国の元勇者グルドフに冒険を言い渡す。西のダーズハル王国との国境近くにドーアンという村がある。そこで最近、二人の赤子と言っていい幼い子が魔物にさらわれた。もう生きておらぬかもしれぬが、はっきりそうとも言えぬので、元勇者グルドフにその子らの捜索を頼みたい。そしてどのような魔物が何のために子供をさらったのか、調べられるのなら、そこまで調べてきてほしい。よろしいか?」
「はい。分かりました」
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「はい」
「この度の冒険に必要であれば、魔法使いや武道家らを一緒に同行させるが、いかがか?」
「そうでありますな。強力な魔物を退治するわけではなさそうなので、ポポン殿と二人で十分かと思います」
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