グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・5 オオカミ親分の憂鬱

ない頭を絞って考えろ

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 勇者が立ち去った後、オオカミ親分をはじめとする魔物たちは洞窟の奥で顔を寄せ合い、これから何をしなければならないかを真剣に考えていた。
 勇者を襲おうとした時の何倍も頭を絞り、必死に考えた。ぐずぐずしていて、他の魔物が峠を旅する人間に襲いかかりでもしたら大変なことになる。あの恐ろしいちょび髭の勇者が乗り込んできて、たちまちみんな成敗されてしまう。
(勇者の言う通り、この峠を通る人間に魔物が手出ししないようにするか、それともここを捨てて別の場所へ逃げるか、どちらかだ)
 オオカミ親分が子分たちの前で口火を切った。
(おら、ここにいてえ)
(俺もだ。どこもひどかったが、ここはまるで楽園みてえだ。俺は逃げねえ)
(俺はどっちでもいいが)
(おいらもこの場所を離れたくはねえだ)
 ここにいたいという魔物のほうが断然多かった。オオカミ親分にしても、あちこち渡り歩いてきたが、この場所は居心地がよかった。
(よし、俺はここに残る。去りたい奴は引き止めねえ)
 オオカミ親分が言った。
(おらも残る)
(俺も)
(おいらも)
(みんなが残るなら俺も)
 だれ一物、出ていくという魔物はいなかった。
(では、決まった。それではこれからどうするかだが・・・・)

 長々と話し合いが行われ、やっと話がまとまった。
(よし、フラケン、ゾンビ郎を連れてソラテ側の峠の入り口を見張ってろ。人間が来たら、こっそり後をつけて魔物に襲われないようにするんだ)
(へい)
 ツギハギだらけの大男が、オオカミ親分の指示に頷いた。
(マイクと鬼之助はミナルテ側の道だ)
(了解した)
 中身のない西洋の鉄の鎧だけの魔物が礼儀正しく返事をした。
(ドラ太とドラ夫はソラテ村で旅人の動向を探れ。旅人が他にも峠に来るようなら、ここに応援を呼びに来い)
(あいよ)
 小さなコウモリ型の魔物、ドラ太が威勢良く返事をした。
(ドランとドラミはミナルテの村だ)
(あい)
 同じくコウモリ型が返事をした。
(フーランと鬼座衛門はこの洞窟で待機しろ。コウモリたちから要請があったら、旅人の援護に向かえ)
(へい)
 フラケンの弟のフーランが返事をした。
(では、さっさと行け)
 役目を与えられた魔物たちは、それぞれの持ち場へと向かった。
(あとはキング・ナイトの一味と、ひとつ目一家をどうするかだ)
 オオカミ親分は残った魔物たちを見まわして言った。

 この辺り一帯の山脈にある大きな魔物たちの集団といえば、ジング王国寄りに暮らすオオカミ親分たちと、マットアン王国寄りに暮らすキング・ナイト一味、その中間で東の山に暮らすひとつ目親分の一家がある。
 少数派の集団はまだ沢山あるが、取りあえず最初に抑えておかなければならないのは、キング・ナイト一味と、ひとつ目一家だ。
 オオカミ親分たちのグループは元々、人の目と魔物たちの目を逃れるようにしてこの山へと移り住んできたので、人を襲うということはほとんどしてこなかった。しかしキング・ナイト一味は、別に人の目も魔物の目も気にしていないから、普通に弱そうな旅人を見つけると襲いかかって金品を奪った。だが、キング・ナイト一味は親分がそうであるように、紳士的で殺人のような手荒な真似はしない。
 一方、ひとつ目一家となると、あまり人間に興味がないらしく、襲うことも少ないが、親分の気に障るようなときには、容赦なく人間もぶちのめしてしまう。
(話しやすいのはキングのほうだ。訳を話せばわかってくれるだろうよ)
 オオカミ親分が言った。
(大人しく言うことを聞きやすかね?)
 小さなコウモリ型のドラ吉が尋ねた。
(話して駄目なら力ずくで聞かせてやるまでよ。ヤローども、支度しろ!)
 まだたくさん残っていた魔物たちがぞろぞろと洞窟を出ていった。
(ドラ吉、先に行ってキングがいるか見てこい)
 オオカミ親分が命令した。
(あいよ)
 ドラ吉はパタパタと飛び去っていった。 
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