31 / 92
グルドフ旅行記・4 怪しい奴らの正体を暴け!
謎の老人
しおりを挟む
グルドフは疲れていた。
朝も暗いうちから魔物を追いかけ、山の中を駆け回ったから無理もない。幸いにも、ふもとの村には日が高いうちに着けそうだった。
早く宿に入ってゆっくりと休みたかった。
「そのオオカミ野郎に言葉が通じたから良かったけど、もし人間の言葉がわかる魔物がいなかったらどうするつもりだったのさ」
道すがら、山で姑息な手を使って襲いかかってきた魔物たちのことをグルドフが話し終えると、ポポンが尋ねた。
「体格のいい魔物を二、三体痛めつけてやるつもりでした。そうすれば怖くなって人間に手出しできなくなるでしょう」
グルドフたちは山を下りていった。道はだんだん緩やかになり、やがて緑の木々の森の中に入っていった。
マットアン王国は比較的温暖な気候で、土地も肥えているところが多いので、ジング王国やアザム王国に比べ、高原でも緑が多い土地柄だった。
「人間の言葉がわかるということは、以前人間の住む近くにいたのかもしれないね。そのオオカミ男は」
「どうでしょう。最近は人間の言葉を話す魔物もいますから」
「もしかしたら、魔物たちはそなたのことを知っていたのかもしれないぞ」
「いやあ、いくら私が有名人だからって、魔物たちまで知ってはいないでしょう」
「そりゃ、そうだね」
二人は妙なことに納得して、森の中の道を歩いていった。
ふもとの村、ミナルテが見えてきた。
村に入ったすぐのところに大きなレンタルショップがあった。ジング王国のソラテ村のショップと提携をしていて、どちらかの村で借りたものを別の村の店で返却してもよい決まりとなっていた。
「こちらの店も流行っているようだね」
ポポンは店内を見まわしながら言った。
大きな店の中の品揃えは豊富だった。
グルドフとポポンは借りたものを、店の大きなカウンターの上に並べていった。
「勇者のお方ですか」
店員が預かり証の写しを見ながら言った。
「いや、ここに『元』と書いてあります」
グフドムが書類の職業欄を指さしながら言った。
その時、こそこそと姿を隠すようにして店から出ていく若者にグルドフは気が付いた。
「ああ、元勇者様ですね」
店員が言った。
ポポンが何か言いたそうにグルドフの背中を突いた。
一点一点レンタル品を確認していったので、思ったより時間がかかった。村に着いたときはまだ日が高かったのに、レンタルショップを出た時はすでに太陽は高い山に近付いていた。
グルドフはレンタルショップで、その村に一軒しかない宿の場所を聞いた。村の反対側だったが、小さい村なのでそう時間はかからなさそうだった。
グルドフとポポンは寂しい村のメイン通りを歩いた。
「書類の職業欄に元勇者と書く者がいるとはね」
ポポンが皮肉を込めて言った。
「そんなつもりじゃなかったのです。つい昔の癖で勇者と書いてしまって。黒く塗りつぶして訂正するのもなんだと思って、『勇者』の頭に『元』を書き加えたのです。ただスペースがあまりなくて、小さな文字で『元』と書いたので、お店の人は勇者と勘違いしたのでしょう」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「今度からちゃんと無職と書きます。ここですかな」
グルドフは店員から聞いた交差点を見つけ、右に曲がって歩いた。
「付けている者がいますな」
グルドフはそう言い、二人は近くの物陰に身を潜めた。
しかし、しばらく待ったが、付けていると思われる人物は現れなかった。
「おかしいですね」
グルドフは物陰から顔を出し、辺りを見まわした。
そして先ほど曲がった通りの角まで行き、そっと建物の陰からメイン通りを見ようとした。
「うわっ!」
「わっ!」
グルドフが驚いて後ろに飛び退いた。
通りの向こうから、こちらを覗き込もうとしていた小柄な老人も向こうに飛び退き、尻餅をついていた。
「どなた様です?」
グルドフは老人が立ち上がるのを待って尋ねた。
老人は腰に剣と木刀を携えている。
「私はイナハと申す者です。怪しい者ではありませぬ」
「人の後ろをこそこそ付けてくることは怪しいことだと思いますが」
「おぬしは勇者だとお聞きした」
「勇者ではありません。昔は勇者でしたが」
「そうでありますか」
そう言うと突然、老人は腰の木刀を抜き、グルドフの頭上に振り下ろした。
グルドフは咄嗟にかわしながら剣を抜いた。
老人がすかさず木刀をもう一度振り下ろした時、グルドフは剣でその木刀をスパッと切り落とした。
「お見事ですな」
老人はそう言い、切られた木刀の片割れを拾った。
「済まぬが、お名前を伺ってもよろしいか?」
「私はグルドフと申します」
「おお、ゲルグ王国の?」
「はい」
「そうでありましたか。失礼をいたしました。勇者と名乗るからには、どれほどの腕前なのかと思いまして。グルドフ殿と知っておれば試すこともなかったのでありますが」
「私は試されたのですか。なぜこのようなことを?」
「グルドフ殿と知って、ぜひお頼み申したいことがござります。どこか人のいないところで話をしたいのでありますが」
「では、今日泊まる宿の部屋でお話を伺いましょう」
グルドフとポポンは、イナハと名乗った老人と共に歩き出した。
朝も暗いうちから魔物を追いかけ、山の中を駆け回ったから無理もない。幸いにも、ふもとの村には日が高いうちに着けそうだった。
早く宿に入ってゆっくりと休みたかった。
「そのオオカミ野郎に言葉が通じたから良かったけど、もし人間の言葉がわかる魔物がいなかったらどうするつもりだったのさ」
道すがら、山で姑息な手を使って襲いかかってきた魔物たちのことをグルドフが話し終えると、ポポンが尋ねた。
「体格のいい魔物を二、三体痛めつけてやるつもりでした。そうすれば怖くなって人間に手出しできなくなるでしょう」
グルドフたちは山を下りていった。道はだんだん緩やかになり、やがて緑の木々の森の中に入っていった。
マットアン王国は比較的温暖な気候で、土地も肥えているところが多いので、ジング王国やアザム王国に比べ、高原でも緑が多い土地柄だった。
「人間の言葉がわかるということは、以前人間の住む近くにいたのかもしれないね。そのオオカミ男は」
「どうでしょう。最近は人間の言葉を話す魔物もいますから」
「もしかしたら、魔物たちはそなたのことを知っていたのかもしれないぞ」
「いやあ、いくら私が有名人だからって、魔物たちまで知ってはいないでしょう」
「そりゃ、そうだね」
二人は妙なことに納得して、森の中の道を歩いていった。
ふもとの村、ミナルテが見えてきた。
村に入ったすぐのところに大きなレンタルショップがあった。ジング王国のソラテ村のショップと提携をしていて、どちらかの村で借りたものを別の村の店で返却してもよい決まりとなっていた。
「こちらの店も流行っているようだね」
ポポンは店内を見まわしながら言った。
大きな店の中の品揃えは豊富だった。
グルドフとポポンは借りたものを、店の大きなカウンターの上に並べていった。
「勇者のお方ですか」
店員が預かり証の写しを見ながら言った。
「いや、ここに『元』と書いてあります」
グフドムが書類の職業欄を指さしながら言った。
その時、こそこそと姿を隠すようにして店から出ていく若者にグルドフは気が付いた。
「ああ、元勇者様ですね」
店員が言った。
ポポンが何か言いたそうにグルドフの背中を突いた。
一点一点レンタル品を確認していったので、思ったより時間がかかった。村に着いたときはまだ日が高かったのに、レンタルショップを出た時はすでに太陽は高い山に近付いていた。
グルドフはレンタルショップで、その村に一軒しかない宿の場所を聞いた。村の反対側だったが、小さい村なのでそう時間はかからなさそうだった。
グルドフとポポンは寂しい村のメイン通りを歩いた。
「書類の職業欄に元勇者と書く者がいるとはね」
ポポンが皮肉を込めて言った。
「そんなつもりじゃなかったのです。つい昔の癖で勇者と書いてしまって。黒く塗りつぶして訂正するのもなんだと思って、『勇者』の頭に『元』を書き加えたのです。ただスペースがあまりなくて、小さな文字で『元』と書いたので、お店の人は勇者と勘違いしたのでしょう」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「今度からちゃんと無職と書きます。ここですかな」
グルドフは店員から聞いた交差点を見つけ、右に曲がって歩いた。
「付けている者がいますな」
グルドフはそう言い、二人は近くの物陰に身を潜めた。
しかし、しばらく待ったが、付けていると思われる人物は現れなかった。
「おかしいですね」
グルドフは物陰から顔を出し、辺りを見まわした。
そして先ほど曲がった通りの角まで行き、そっと建物の陰からメイン通りを見ようとした。
「うわっ!」
「わっ!」
グルドフが驚いて後ろに飛び退いた。
通りの向こうから、こちらを覗き込もうとしていた小柄な老人も向こうに飛び退き、尻餅をついていた。
「どなた様です?」
グルドフは老人が立ち上がるのを待って尋ねた。
老人は腰に剣と木刀を携えている。
「私はイナハと申す者です。怪しい者ではありませぬ」
「人の後ろをこそこそ付けてくることは怪しいことだと思いますが」
「おぬしは勇者だとお聞きした」
「勇者ではありません。昔は勇者でしたが」
「そうでありますか」
そう言うと突然、老人は腰の木刀を抜き、グルドフの頭上に振り下ろした。
グルドフは咄嗟にかわしながら剣を抜いた。
老人がすかさず木刀をもう一度振り下ろした時、グルドフは剣でその木刀をスパッと切り落とした。
「お見事ですな」
老人はそう言い、切られた木刀の片割れを拾った。
「済まぬが、お名前を伺ってもよろしいか?」
「私はグルドフと申します」
「おお、ゲルグ王国の?」
「はい」
「そうでありましたか。失礼をいたしました。勇者と名乗るからには、どれほどの腕前なのかと思いまして。グルドフ殿と知っておれば試すこともなかったのでありますが」
「私は試されたのですか。なぜこのようなことを?」
「グルドフ殿と知って、ぜひお頼み申したいことがござります。どこか人のいないところで話をしたいのでありますが」
「では、今日泊まる宿の部屋でお話を伺いましょう」
グルドフとポポンは、イナハと名乗った老人と共に歩き出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる