22 / 100
グルドフ旅行記・2 お宝を盗んだ犯人は
張り込み・1
しおりを挟む
翌日、グルドフとポポンは村人たちが畑へ出かけていくのを見送ってから宿を出た。
誰もいない広場の中央に祠があり、昨日グルドフが言ったように新しい木の箱が安置されている。その前の祭壇にはちゃんとお供え物も進ぜてあった。
グルドフとポポンは近くの家の許可を取り、庭先の物陰から祠を見張ることにした。
「それで何が来るのを待つんだい?」
ポポンが小声で訊いた。
「多分、カラスとかトンビとか、その類じゃないかと思うのですが」
「いつ頃、現れると思う?」
「さあ、それは。今日現れるか、明日現れるか、あるいは一週間後になるか」
「そんなにここにいるつもり?」
ポポンは驚いたように言った。
「いえ、明日までここに張り込んで、駄目なら諦めましょう」
「そういえば、昨日そなたは村人が犯人ではないと言っておったけど、本当にそうかな?」
「どういうことです?」
「昨夜、ちょっと考えてみたんだが、もし村人が村のお宝を盗んだとしよう。そうしたら、盗人は自分が疑われないために何をする?」
「うーん、アリバイ工作とか、偽装工作とか?」
「お宝の箱が村の外で見つかったということが、偽装工作とは考えられないかね?」
「外部の人間がお宝を盗んだと思わせるための?」
「そう。魔物だって、人間の住む町や村の近くには滅多に来ないから、村の畑から三、四百メートル離れたとしても、魔物と遭遇することは極めて稀だ。そこまでお宝の箱を持っていって置いてくることくらいはできるだろう。しかも人の通る街道のすぐ近くに箱が落ちていたということは、いかにもここにあるから見つけてくれという感じじゃないかね?」
「うーむ。確かに村人の中に盗人がいて、外部の人間の仕業に見せかけようとするのなら、そのようなことをしたかもしれませんね。しかし、箱の中のお宝が何かを、誰も知らなかったのですよ。ならば箱の中身だけを持っていけばいい。あるいは石ころか何かを、代わりに箱の中に入れておけばいいのではないですか? それならば誰も村のお宝がなくなったり、すり替えられたということに気が付かないでしょう」
「箱の中身が何かを誰も知らない、ということを盗人が知らなかったら?」
「ん?」
「盗人は箱の中身が何かを知っていた。そして自分と同じように箱の中身を知っている者が他にもいると思っていた。だから箱の中身が違っていれば盗まれたことがすぐに公になると思った。それで外部の者の犯行に見せかける必要があった」
「ほう、なかなかの名探偵ぶりですな、ポポン殿」
グルドフは感心したようにポポンを見て、小声で言った。
「そなたはどう思う?」
「うーん、ちょっと考えてみます・・・・。お宝が盗まれたのは昨日の午前中でしたよね。畑に働きに出る者が多いといっても、村に残っている者もいるはずです。祠からお宝の箱を持ち出すところを誰かに見られるリスクがあります。これだけ小さな村ですから、見られればどこの誰かはすぐにわかってしまうでしょう」
「そうか・・・・」
「同じことが、今の偽装工作についても言えます。一人でこそこそと村の外に出ていくのを誰かに見られれば、あいつは何をしているのだろうと、絶対に誰かに憶えられてしまいます。そんな危険を冒してまで偽装工作をする必要があるのでしょうか」
「そうだね。やっぱり村人が盗人なんてことはないか」
「まあ、突き詰めて考えれば、偽のお宝の箱を用意しておいて、本物の箱とすり替え、人目につかない夜のうちに本物の箱をあの場所に置いておくとか、色々と考えられるでしょう。けれどそんなことを考え始めればきりがありません。私はここの人の好い村人たちを疑いたくはないのです」
「そうだね」
「もちろん、この張り込みが無駄に終わり、村人が盗人かもしれないというような手掛かりが出てくるかもしれません。もしそうなったら、もはや私たちの出る幕ではありません。村人たちの手にゆだねるべきでしょう」
「そうだね。そなたの予想が当たっていることを祈ろう」
ポポンが言った。
誰もいない広場の中央に祠があり、昨日グルドフが言ったように新しい木の箱が安置されている。その前の祭壇にはちゃんとお供え物も進ぜてあった。
グルドフとポポンは近くの家の許可を取り、庭先の物陰から祠を見張ることにした。
「それで何が来るのを待つんだい?」
ポポンが小声で訊いた。
「多分、カラスとかトンビとか、その類じゃないかと思うのですが」
「いつ頃、現れると思う?」
「さあ、それは。今日現れるか、明日現れるか、あるいは一週間後になるか」
「そんなにここにいるつもり?」
ポポンは驚いたように言った。
「いえ、明日までここに張り込んで、駄目なら諦めましょう」
「そういえば、昨日そなたは村人が犯人ではないと言っておったけど、本当にそうかな?」
「どういうことです?」
「昨夜、ちょっと考えてみたんだが、もし村人が村のお宝を盗んだとしよう。そうしたら、盗人は自分が疑われないために何をする?」
「うーん、アリバイ工作とか、偽装工作とか?」
「お宝の箱が村の外で見つかったということが、偽装工作とは考えられないかね?」
「外部の人間がお宝を盗んだと思わせるための?」
「そう。魔物だって、人間の住む町や村の近くには滅多に来ないから、村の畑から三、四百メートル離れたとしても、魔物と遭遇することは極めて稀だ。そこまでお宝の箱を持っていって置いてくることくらいはできるだろう。しかも人の通る街道のすぐ近くに箱が落ちていたということは、いかにもここにあるから見つけてくれという感じじゃないかね?」
「うーむ。確かに村人の中に盗人がいて、外部の人間の仕業に見せかけようとするのなら、そのようなことをしたかもしれませんね。しかし、箱の中のお宝が何かを、誰も知らなかったのですよ。ならば箱の中身だけを持っていけばいい。あるいは石ころか何かを、代わりに箱の中に入れておけばいいのではないですか? それならば誰も村のお宝がなくなったり、すり替えられたということに気が付かないでしょう」
「箱の中身が何かを誰も知らない、ということを盗人が知らなかったら?」
「ん?」
「盗人は箱の中身が何かを知っていた。そして自分と同じように箱の中身を知っている者が他にもいると思っていた。だから箱の中身が違っていれば盗まれたことがすぐに公になると思った。それで外部の者の犯行に見せかける必要があった」
「ほう、なかなかの名探偵ぶりですな、ポポン殿」
グルドフは感心したようにポポンを見て、小声で言った。
「そなたはどう思う?」
「うーん、ちょっと考えてみます・・・・。お宝が盗まれたのは昨日の午前中でしたよね。畑に働きに出る者が多いといっても、村に残っている者もいるはずです。祠からお宝の箱を持ち出すところを誰かに見られるリスクがあります。これだけ小さな村ですから、見られればどこの誰かはすぐにわかってしまうでしょう」
「そうか・・・・」
「同じことが、今の偽装工作についても言えます。一人でこそこそと村の外に出ていくのを誰かに見られれば、あいつは何をしているのだろうと、絶対に誰かに憶えられてしまいます。そんな危険を冒してまで偽装工作をする必要があるのでしょうか」
「そうだね。やっぱり村人が盗人なんてことはないか」
「まあ、突き詰めて考えれば、偽のお宝の箱を用意しておいて、本物の箱とすり替え、人目につかない夜のうちに本物の箱をあの場所に置いておくとか、色々と考えられるでしょう。けれどそんなことを考え始めればきりがありません。私はここの人の好い村人たちを疑いたくはないのです」
「そうだね」
「もちろん、この張り込みが無駄に終わり、村人が盗人かもしれないというような手掛かりが出てくるかもしれません。もしそうなったら、もはや私たちの出る幕ではありません。村人たちの手にゆだねるべきでしょう」
「そうだね。そなたの予想が当たっていることを祈ろう」
ポポンが言った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる