グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・2 お宝を盗んだ犯人は

張り込み・1

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 翌日、グルドフとポポンは村人たちが畑へ出かけていくのを見送ってから宿を出た。
 誰もいない広場の中央に祠があり、昨日グルドフが言ったように新しい木の箱が安置されている。その前の祭壇にはちゃんとお供え物も進ぜてあった。
 グルドフとポポンは近くの家の許可を取り、庭先の物陰から祠を見張ることにした。
「それで何が来るのを待つんだい?」
 ポポンが小声で訊いた。
「多分、カラスとかトンビとか、その類じゃないかと思うのですが」
「いつ頃、現れると思う?」
「さあ、それは。今日現れるか、明日現れるか、あるいは一週間後になるか」
「そんなにここにいるつもり?」
 ポポンは驚いたように言った。
「いえ、明日までここに張り込んで、駄目なら諦めましょう」
「そういえば、昨日そなたは村人が犯人ではないと言っておったけど、本当にそうかな?」
「どういうことです?」
「昨夜、ちょっと考えてみたんだが、もし村人が村のお宝を盗んだとしよう。そうしたら、盗人は自分が疑われないために何をする?」
「うーん、アリバイ工作とか、偽装工作とか?」
「お宝の箱が村の外で見つかったということが、偽装工作とは考えられないかね?」
「外部の人間がお宝を盗んだと思わせるための?」
「そう。魔物だって、人間の住む町や村の近くには滅多に来ないから、村の畑から三、四百メートル離れたとしても、魔物と遭遇することは極めて稀だ。そこまでお宝の箱を持っていって置いてくることくらいはできるだろう。しかも人の通る街道のすぐ近くに箱が落ちていたということは、いかにもここにあるから見つけてくれという感じじゃないかね?」
「うーむ。確かに村人の中に盗人がいて、外部の人間の仕業に見せかけようとするのなら、そのようなことをしたかもしれませんね。しかし、箱の中のお宝が何かを、誰も知らなかったのですよ。ならば箱の中身だけを持っていけばいい。あるいは石ころか何かを、代わりに箱の中に入れておけばいいのではないですか? それならば誰も村のお宝がなくなったり、すり替えられたということに気が付かないでしょう」
「箱の中身が何かを誰も知らない、ということを盗人が知らなかったら?」
「ん?」
「盗人は箱の中身が何かを知っていた。そして自分と同じように箱の中身を知っている者が他にもいると思っていた。だから箱の中身が違っていれば盗まれたことがすぐに公になると思った。それで外部の者の犯行に見せかける必要があった」
「ほう、なかなかの名探偵ぶりですな、ポポン殿」
 グルドフは感心したようにポポンを見て、小声で言った。
「そなたはどう思う?」
「うーん、ちょっと考えてみます・・・・。お宝が盗まれたのは昨日の午前中でしたよね。畑に働きに出る者が多いといっても、村に残っている者もいるはずです。祠からお宝の箱を持ち出すところを誰かに見られるリスクがあります。これだけ小さな村ですから、見られればどこの誰かはすぐにわかってしまうでしょう」
「そうか・・・・」
「同じことが、今の偽装工作についても言えます。一人でこそこそと村の外に出ていくのを誰かに見られれば、あいつは何をしているのだろうと、絶対に誰かに憶えられてしまいます。そんな危険を冒してまで偽装工作をする必要があるのでしょうか」
「そうだね。やっぱり村人が盗人なんてことはないか」
「まあ、突き詰めて考えれば、偽のお宝の箱を用意しておいて、本物の箱とすり替え、人目につかない夜のうちに本物の箱をあの場所に置いておくとか、色々と考えられるでしょう。けれどそんなことを考え始めればきりがありません。私はここの人の好い村人たちを疑いたくはないのです」
「そうだね」
「もちろん、この張り込みが無駄に終わり、村人が盗人かもしれないというような手掛かりが出てくるかもしれません。もしそうなったら、もはや私たちの出る幕ではありません。村人たちの手にゆだねるべきでしょう」
「そうだね。そなたの予想が当たっていることを祈ろう」
 ポポンが言った。
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