微笑

原口源太郎

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第二章

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 家は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
 家の前には車が何台も停まり、家の中を警察の人間ががさがさと動きまわった。
 居間のソファで雅彦と妙子と有希は心を失っていた。有希は泣き疲れて黙りこくっている。妙子は声を押し殺し、堪えるようにして泣いている。時折、抑えきれない声が雅彦にも聞こえてきた。雅彦は体が疲れ切ったように重く感じ、頭がずきずきと痛んだ。考えることはできた。
 塀の上から家の中を覗きこんでいた少女がこの事件に何か関わりがあるのは確かだ。いつも何か事件があった時にだけ少女は現れる。この家で起こっている惨劇はこれで終わるかどうかわからない。少女に会い、何か手掛かりを掴んで、二度とこんな悲劇を起こさないようにしなければならない。そのために少女を捜し出さなければ。必ず捜し出さなければならない。
 そこで雅彦の思考は中断した。抑えきれなくなった妙子が泣き崩れたからだ。有希も母親を庇うかのように目にいっぱい涙を溜めている。
 雅彦にも激しい悲しみが込み上げてきた。

 翔太は司法解剖で体を切り刻まれた後、焼かれて骨だけになって家に帰ってきた。
 翔太の直接の死因は窒息死だった。首の骨は砕けていた。首を絞められた後、頭と体が逆を向くように捻じ曲げられたらしい。酷い殺され方だった。
 天井の桟に何本ものネジが差し込まれ、そこに翔太は服ごと張り付けにされていた。犯人が意図したことかわからないが、入口に近い所だった。そのため視界に入りにくく、発見が遅れた。何のためにそんな気違いじみたことをしたのかは知る由もなかった。
 翔太の部屋には犯人の手がかりとなる証拠は残っていなかった。指紋、髪の毛、衣服の屑といったものは見つからなかった。犯人がベッドに乗ったらしい痕があり、それなりの体重と身長のある男だと推測された。
 雅彦には信じられなかった。自分が眠っていた同じ階でそんな惨劇が行われていたなど、想像もできなかった。それは妙子や有希にしても同じだった。
 翔太の胃の中からは食べ物に混ざって、睡眠薬が検出された。夕方の料理に混入されていたらしい。雅彦や妙子、有希も同じ料理を食べていたから、皆が知らず知らずのうちに睡眠薬を摂っていたのかもしれない。しかし誰がどうやってそんなことをしたのか、雅彦や妙子にはさっぱりわからなかった。
 雅彦たちは恐怖に陥った。殺人犯が家の中へ自由に出入りしているばかりでなく、食べ物まで管理している。何もかも犯人の思い通りに操ることができる。犯人はよほど頭が良くて大胆で、そして気が狂っているとしか思えない。
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