山の上高校御馬鹿部

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
9 / 9

しおりを挟む
 そこに銀杏の木の下で美菜と話しをしていたイケメンの男が進み出る。
「僕みたいな人が川本さんと付き合うにはふさわしいってことかな?」
 男がキザったらしく言った。
 山下は手にしていた空き缶をクシャッと握りつぶす。
「でも、たった今僕は川本さんに振られた」
 またギャラリーがおおーとどよめく。
「そりゃそうだよ。僕は川本さんのためにこれほどの大勝負はできない」
 あくまでもキザっぽく両手を上げてお手上げのポーズをしてみせる。
 山下は美菜を見つめる。
 美菜も大きな瞳で山下を見つめる。
 ふと我に返った山下は慌ててポケットから財布を取り出した。
 山下の仕草を見て、海上も慌てて残りのコーラを飲み干そうとする。
「もういいの! こんなことして勝ち負けを競って、勝ったから愛を告白する権利があるなんておかしい。そんなんじゃないと思う」
 そんな美菜の言葉を聞き、山下は手にしていた百円玉をピーンと弾いて空に飛ばす。
「そりゃそうだ。俺と海上が川本さんに交際を申し込んだ。二人とも嫌なら川本さんが断ればいい。俺か海上のどちらかを好きか好きになりそうなら、川本さんがそう返事をすればいい。俺たちが決めることじゃないよな」
「そうだな」
 海上もその言葉に同意した。
「私は昨日から心を決めてる。ごめんなさい」
 そう言って美菜は海上に頭を下げた。
「はいはい。こうなることはわかってたけどよ」
 海上が言う。
「え? 俺は? もしかして、この前の返事は、OK?」
「もう一度正式に話しをしてくれるんじゃなかったの?」
「え?」
 二人の周りには大勢の生徒たちがいる。
「また今度・・・」
「何照れてんだよ」
 海上が茶々を入れる。
「何だよ」
 ぼかすか・・・やり合う気分になれない二人。ポーズだけ。
 そこに女子生徒たちが海上を取り囲む。
「じゃ、海上さんは今フリー?」
「女の子のタイプは?」
「好きな食べ物は?」
 女子の質問攻めにあい、海上は赤くなって鼻の下を伸ばす。
 山下たちの周りにも人が集まってくる。
「川本さん、早まったことしちゃいけないよ」
「俺だって好きだったのに」
 その生徒はおーいおーいと泣き出す。
「俺だってずっと憧れてたのに」
「俺もずっと前から」
「俺だって」
「私もずっと前から・・・」
 男に交じって女子生徒も涙を浮かべて川本を見ている。
 そこにやっと小笠原兄の操るポルシェがやって来た。
「どっちが勝った?」
 急いで車を降りながら小笠原が尋ねる。
「そんなことどうでもいいの!」
 周りのギャラリーたちが大声で合唱する。
 そんな人混みの中から山下が美菜の手を引いてそっと出てくる。
 笑みを浮かべて歩いていく二人。
 大勢いる生徒たちの中の一人に電話がかかってくる。
「もしもし」
「こちら高校前。島村たちが下りてきた。これから合流して駅に向かう。さっきのはやっぱり山下と海上だったらしい。そっちに着いたか?」
「とっくに着いてるよ」
 そう電話で話すのは、先ほど本部席にいて山下たちに撥ね飛ばされた男子生徒だ。通りを歩いていく山下と美菜の後ろ姿に気が付く。
「どっちが勝った?」
「そんなこと、もうどうでもいい。早く下りてこいよ」
 男子生徒は電話を切り、小さくなっていく二人の後ろ姿を見送った。
 太陽は高い山の向こうに半分身を沈ませている。



                          終わり
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

さよなら。またね。

師走こなゆき
青春
恋愛系。片想い系。5000文字程度なのでサラッと読めます。 〈あらすじ〉 「行ってきます」そう言って、あたしは玄関を出る。でもマンションの階段を下りずに、手すりから四階下の地面を見下ろした。 マンションの一階の出入り口から、紺のブレザーを着た男子学生が出てくる。いつも同じ時間に出てくる彼。 彼は、あたしと同じ高校に通ってて、演劇部の一つ上の先輩で、あたしの好きな人。 ※他サイトからの転載です。

あまやどり

奈那美
青春
さだまさしさんの超名曲。 彼氏さんの視点からの物語にしてみました。 ただ…あの曲の世界観とは違う部分があると思います。 イメージを壊したくない方にはお勧めできないかもです。 曲そのものの時代(昭和!)に即しているので、今の時代とは合わない部分があるとは思いますが、ご了承ください。

萬倶楽部のお話(仮)

きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。 それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。 そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。 そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。

ラストスパート

ひゅん
青春
小学校の冬のマラソン大会を題材とした作品です。主人公藤浪と旧友の星崎の小学校三年生の多感な少年時代を描きます。

草ww破滅部活動日記!

koll.
青春
千葉県にある谷武高校の部活。草ww破滅部。そのメンバーによる、草wwを滅するためにつくった、部活。そして、そのメンバーのゆるい、そして、時には友情、恋愛。草ww破滅部が贈る日常友情部活活動日記である!

First Light ー ファーストライト

ふじさわ とみや
青春
鹿児島県の女子高生・山科愛は、曾祖父・重太郎の遺品の中から一枚の風景画を見つけた。 残雪を抱く高嶺を見晴るかす北国らしき山里の風景。その絵に魅かれた愛は、絵が描かれた場所を知りたいと思い、調べはじめる。 そして、かつて曾祖父が終戦直後に代用教員を務めていた街で、その絵は岩手県出身の特攻隊員・中屋敷哲が、出撃の前に曽祖父に渡したものであることを知った。 翌年、東京の大学に進学した愛は、入会した天文同好会で岩手県出身の男子学生・北条哲と出会い、絵に描かれた山が、遠野市から見上げた早池峰山であるらしいことを知る。 二人は種山ヶ原での夏合宿あと遠野を訪問。しかし、確たる場所は見つけられなかった。 やがて新学期。学園祭後に起きたある事件のあと、北条は同好会を退会。一時疎遠になる二人だったが、愛は、自身の中に北条に対する特別な感情があることに気付く。 また、女性カメラマン・川村小夜が撮った遠野の写真集を書店で偶然手にした愛は、遠野郷に対して「これから出合う過去のような、出合ったことがある未来のような」不思議な感覚を抱きはじめた。 「私は、この絵に、遠野に、どうしてこんなに魅かれるの?」 翌春、遠野へ向かおうとした愛は、東京駅で、岩手に帰省する北条と偶然再会する。 愛の遠野行きに同行を申し出る北条。愛と北条は、遠野駅で待ち合わせた小夜とともに「絵の場所探し」を再開する。 中屋敷哲と重太郎。七十年前に交錯した二人の思い。 そして、たどり着いた〝絵が描かれた場所〟で、愛は、曾祖父らの思いの先に、自分自身が立っていたことを知る――。 ※ この話は「カクヨム」様のサイトにも投稿しています。

私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

処理中です...