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第三章
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「大きい。写真で見るとおもちゃみたいなのに」
車から降りたトレーシーはピラミッドを見上げて言った。
「おもちゃはないだろう」
そう言った真人も、想像していたよりも大きなピラミッドに驚いていた。
「昔の人は根性があったんだなあ」
謙太郎は謙太郎でまた変わった感心の仕方をしている。
「さ、行こう。ピラミッドの中だ」
真人たちはピラミッドの大きな階段を登り、地面から少し上がったところにある入り口から中を覗きこんだ。通路は真直ぐに伸び、壁の両側にはローソクに火が灯っている。
よく見ると通路はあちこちに枝分かれしていて、迷路のようになっている。見かけはエジプトのピラミッドのようでも、中は全く違うようだ。
「こんな所に入ったら、また迷って出られなくなるよ」
謙太郎が不安そうに言った。
「何か持ってないか?」
真人が二人に尋ねる。
「何かって?」
「目印になるようなもの。帰りの道順がわかるように」
「ないなあ」
謙太郎がポケットをまさぐりながら言った。
「ないわ」
「トレーシー、口紅とか、そういった物は持ってない?」
「私が持っているわけないでしょ」
「しょうがない」
真人は石を拾い上げて、石の壁にギギギと矢印を描いた。
「うん、これでいいか」
「こらこら、わしの家に傷を付けちゃいかん」
どこからか声が響いてきた。
「誰?」
三人はきょろきょろと辺りを見まわした。
「お前たち、わしに用事があって来たのであろう。案内してあげるから来なさい。まずは真直ぐに歩くのだ」
真人たちは言われた通りに進んだ。声がどこから聞こえてくるのかは相変わらずわからない。
「そこを右。もう一つ右。そうそう。少し進み、そこ、そこを左。階段を降りたらすぐに左だ。次は曲がらずに真直ぐ」
そんな調子で真人たちはあちこち散々歩いてやっと小さな部屋にたどり着いた。
「やあ、よく来たな」
その声はピラミッドの入り口から真人たちを案内してきた声だった。
「あなたは?」
「お前たちはわしに用事があって来たのであろう?」
その老人はカラフルな原色のまじりあった服を着ていた。サングラスをかけ、金色に輝く大きな腕時計をはめている。短い白髪はオールバックだ。とても予言者には見えなかった。
「何を驚いておる。人を見かけで判断してはいかん。さ、知りたいことを言ってみなさい」
すかさずトレーシーが反応する。
「予言者ならそれくらいわかるはずだわ」
「わしが? わしがわかるわけがない。わしは超能力者じゃないのだから、人の心までは読めぬ」
「人を捜しているんです。夢美という十八歳の女の子。長い髪に黒い目」
「うーん、人捜しか。ちょっと待てよ」
老人は脇にあった分厚い本を取り上げた。
「人捜し・・・・十八歳の女の子は・・・・」
老人はぱらぱらとページをめくっていく。
「おお、あった。二百四十だ」
「二百四十?」
「金だよ、金。わしだって商売でこれをやっとる。タダというわけにはいくまい。その代わり知りたいことは百パーセントピタリと当ててみせる」
「お金は持っていません」
「ならば帰りな」
「そんな・・・・」
「まあ、金を手に入れる方法を教えてやってもよいが」
「どうすればいいのですか」
「隣のピラミッドに行けば金は沢山ある」
「ピラミッドの中にお金があるのですか?」
「ある。そこから持ってくればよい。ただし、金のある部屋にたどり着くには、迷路といくつもの危険な仕掛けを乗り越えていかなければならぬ。気を付けて行くのだぞ」
「まだ行くとは言っていません。危険でないところにお金はないのですか?」
「ない。危険すぎて誰も取りに行こうとは思わないから、今でもそこに金があるのであろう。違うか?」
「わかりました。隣のピラミッドに言ってお金を持ってきます」
そう言って真人は謙太郎とトレーシーを見た。
「お前たちはここにいろ」
「いやいや、三人で行くがいい。三人なら色々と上手くやれるであろう」
「そうだよ」
「そうよ」
謙太郎とトレーシーも老人の意見に賛成した。
「道は教えてもらえるのですか?」
「いや。隣のピラミッドにはわしも行ったことがないから教えてやれぬ」
「行く道を予言してもらうとか・・・・」
「わしは超能力者ではないのだから、隣の建物を透視することなどできぬ」
「そうですか」
真人たちは部屋を出ていこうとした。
「ちょっと待て。出口はこっち」
老人の指さす方向にもう一つの出入り口があった。
真人たちはそこから通路に出て、角を二つ曲がると、外に出た。
「何よ、ここから入れば、あんなにあっちに行ったりこっちに来たりしなくてすんだんじゃない。あのおじいさんはとっても意地悪ね」
トレーシーがぶつぶつと文句を言った。
「何を言う。お前たちが向こうの入り口から入ってきたからわざわざ案内してやったのじゃないか」
また老人の声がどこからか聞こえてきた。
「はいはい」
真人は軽く返事をして砂漠に下りた。
車から降りたトレーシーはピラミッドを見上げて言った。
「おもちゃはないだろう」
そう言った真人も、想像していたよりも大きなピラミッドに驚いていた。
「昔の人は根性があったんだなあ」
謙太郎は謙太郎でまた変わった感心の仕方をしている。
「さ、行こう。ピラミッドの中だ」
真人たちはピラミッドの大きな階段を登り、地面から少し上がったところにある入り口から中を覗きこんだ。通路は真直ぐに伸び、壁の両側にはローソクに火が灯っている。
よく見ると通路はあちこちに枝分かれしていて、迷路のようになっている。見かけはエジプトのピラミッドのようでも、中は全く違うようだ。
「こんな所に入ったら、また迷って出られなくなるよ」
謙太郎が不安そうに言った。
「何か持ってないか?」
真人が二人に尋ねる。
「何かって?」
「目印になるようなもの。帰りの道順がわかるように」
「ないなあ」
謙太郎がポケットをまさぐりながら言った。
「ないわ」
「トレーシー、口紅とか、そういった物は持ってない?」
「私が持っているわけないでしょ」
「しょうがない」
真人は石を拾い上げて、石の壁にギギギと矢印を描いた。
「うん、これでいいか」
「こらこら、わしの家に傷を付けちゃいかん」
どこからか声が響いてきた。
「誰?」
三人はきょろきょろと辺りを見まわした。
「お前たち、わしに用事があって来たのであろう。案内してあげるから来なさい。まずは真直ぐに歩くのだ」
真人たちは言われた通りに進んだ。声がどこから聞こえてくるのかは相変わらずわからない。
「そこを右。もう一つ右。そうそう。少し進み、そこ、そこを左。階段を降りたらすぐに左だ。次は曲がらずに真直ぐ」
そんな調子で真人たちはあちこち散々歩いてやっと小さな部屋にたどり着いた。
「やあ、よく来たな」
その声はピラミッドの入り口から真人たちを案内してきた声だった。
「あなたは?」
「お前たちはわしに用事があって来たのであろう?」
その老人はカラフルな原色のまじりあった服を着ていた。サングラスをかけ、金色に輝く大きな腕時計をはめている。短い白髪はオールバックだ。とても予言者には見えなかった。
「何を驚いておる。人を見かけで判断してはいかん。さ、知りたいことを言ってみなさい」
すかさずトレーシーが反応する。
「予言者ならそれくらいわかるはずだわ」
「わしが? わしがわかるわけがない。わしは超能力者じゃないのだから、人の心までは読めぬ」
「人を捜しているんです。夢美という十八歳の女の子。長い髪に黒い目」
「うーん、人捜しか。ちょっと待てよ」
老人は脇にあった分厚い本を取り上げた。
「人捜し・・・・十八歳の女の子は・・・・」
老人はぱらぱらとページをめくっていく。
「おお、あった。二百四十だ」
「二百四十?」
「金だよ、金。わしだって商売でこれをやっとる。タダというわけにはいくまい。その代わり知りたいことは百パーセントピタリと当ててみせる」
「お金は持っていません」
「ならば帰りな」
「そんな・・・・」
「まあ、金を手に入れる方法を教えてやってもよいが」
「どうすればいいのですか」
「隣のピラミッドに行けば金は沢山ある」
「ピラミッドの中にお金があるのですか?」
「ある。そこから持ってくればよい。ただし、金のある部屋にたどり着くには、迷路といくつもの危険な仕掛けを乗り越えていかなければならぬ。気を付けて行くのだぞ」
「まだ行くとは言っていません。危険でないところにお金はないのですか?」
「ない。危険すぎて誰も取りに行こうとは思わないから、今でもそこに金があるのであろう。違うか?」
「わかりました。隣のピラミッドに言ってお金を持ってきます」
そう言って真人は謙太郎とトレーシーを見た。
「お前たちはここにいろ」
「いやいや、三人で行くがいい。三人なら色々と上手くやれるであろう」
「そうだよ」
「そうよ」
謙太郎とトレーシーも老人の意見に賛成した。
「道は教えてもらえるのですか?」
「いや。隣のピラミッドにはわしも行ったことがないから教えてやれぬ」
「行く道を予言してもらうとか・・・・」
「わしは超能力者ではないのだから、隣の建物を透視することなどできぬ」
「そうですか」
真人たちは部屋を出ていこうとした。
「ちょっと待て。出口はこっち」
老人の指さす方向にもう一つの出入り口があった。
真人たちはそこから通路に出て、角を二つ曲がると、外に出た。
「何よ、ここから入れば、あんなにあっちに行ったりこっちに来たりしなくてすんだんじゃない。あのおじいさんはとっても意地悪ね」
トレーシーがぶつぶつと文句を言った。
「何を言う。お前たちが向こうの入り口から入ってきたからわざわざ案内してやったのじゃないか」
また老人の声がどこからか聞こえてきた。
「はいはい」
真人は軽く返事をして砂漠に下りた。
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