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ビルの立ち並ぶ通りを、背広姿の翔平が一人でぶつぶつ言いながら歩いている。
「せっかく正義の味方になったのに、毎日研究室で博士の手伝いの雑用ばかり。俺はそんなことのために滅茶苦茶高価なコンピューターを頭の中に入れているのか? 違うよなあ」
その時、前から来た男とぶつかった。男は数メートルも吹っ飛ばされる。
「あ」
翔平は目にも止まらない速さで男に駆け寄り、地面に倒れようとする男をそっと支える。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたもので」
翔平に体当たりを食らわされて吹っ飛んだ男は、恐怖に見開かれた目で翔平を見る。
「大丈夫です」
そのまま慌てたように走り去っていった。
「はー。この俺がごめんなさいだとよ」
ため息をついて翔平はつぶやいた。
そこへ、サイレンを鳴らしたパトカーが通りを近づいてきて、前方へと走り去っていく。
さらにもう一台。
翔平はパトカーの去っていった方角へ向かって走り出す。
「おいおい、俺はいつから野次馬親父になったんだ?」
シュッと音がしているかのように、風圧で周りの物を吹き飛ばしながら翔平は走っていく。
一瞬にしてその姿は通りの彼方に消え去る。
通りをパトカーが封鎖している。
封鎖された先に銀行がある。パトカーを盾にして多くの警官が銀行を見つめ、その遥か遠くに数え切れないほどの野次馬が集まっている。
銀行の入り口近くの路上に人が転がっている。背広姿の中年男と制服姿の警察官。二人とも目を見開いて血だまりの中に横たわっている。
銀行の中では、顔をタオルで隠した二人の男が拳銃を手に立っている。銀行員はそれぞれ自分の席で凍り付いたように動かず、客たちは預金カウンター前のフロアに集められて怯えた顔で座っている。
「もっとあるだろ! 調べてあるんだ。早く出せ」
金の入った布袋を持つ男が、手前の銀行員に拳銃を向けながら言った。
奥の席にいた男が立ち上がり、金庫を開けて札束を出す。
「兄貴、えらいことになっちゃいましたね」
布袋を持っていない男が、もう一人に小声で言った。
「うるせえ」
「こうなったら人質取って外国に逃げるしかないっすよ。きっとボスは怒ってるだろうな」
「黙ってろ。こんど下らねえ事ほざいたら、てめえを三番目の死体にするぞ!」
兄貴分の布袋を持った男が、もう一人に拳銃を向けて言った。
「ままま」
弟分は口をギュッと閉じる。
銀行の外ではパトカーや盾でバリケードされた中で、警察のお偉方がごにょごにょと相談している。
「犯人に告ぐ。大人しく武器を捨てて出てきなさい」
一番のお偉方らしい年配の男が、犯人どころか銀行さえも見えない固く守られたバリケードの中でマイクを手に喋る。パトカーの横に置かれた巨大スピーカーが大音量でその声を響かせる。
「それを聞いて大人しく出てくる奴がいるのか?」
遠くで見ている野次馬が言った。
その野次馬の人垣をかき分けて一人の男が現れた。
黒と青と赤と白のストライプ模様で、体にぴっちりと張り付くような服を着ている。頭から被っているのは同じような模様の覆面。
警察の設定した立ち入り禁止のテープを踏み越え、制止の警官を跳ね飛ばすようにして目立つ姿の男はずんずん歩いていく。
マイクを持っていたお偉方が派手な男に気付く。
「こらこら、危ないからそっちに行っちゃいかん」
男は構わず歩いていき、パトカーを乗り越えたところで振り返る。
この男こそ、翔平の変身した姿、ヒーロマンである!
「私が正義の味方、ヒーロマンだ。心配しなくてよろしい」
ヒーロマンは再び銀行へとずんずん歩いていく。
「こらこら、戻ってこい! 危ないから戻ってこい!」
お偉いさんは必死にマイクで呼びかける。
「せっかく正義の味方になったのに、毎日研究室で博士の手伝いの雑用ばかり。俺はそんなことのために滅茶苦茶高価なコンピューターを頭の中に入れているのか? 違うよなあ」
その時、前から来た男とぶつかった。男は数メートルも吹っ飛ばされる。
「あ」
翔平は目にも止まらない速さで男に駆け寄り、地面に倒れようとする男をそっと支える。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたもので」
翔平に体当たりを食らわされて吹っ飛んだ男は、恐怖に見開かれた目で翔平を見る。
「大丈夫です」
そのまま慌てたように走り去っていった。
「はー。この俺がごめんなさいだとよ」
ため息をついて翔平はつぶやいた。
そこへ、サイレンを鳴らしたパトカーが通りを近づいてきて、前方へと走り去っていく。
さらにもう一台。
翔平はパトカーの去っていった方角へ向かって走り出す。
「おいおい、俺はいつから野次馬親父になったんだ?」
シュッと音がしているかのように、風圧で周りの物を吹き飛ばしながら翔平は走っていく。
一瞬にしてその姿は通りの彼方に消え去る。
通りをパトカーが封鎖している。
封鎖された先に銀行がある。パトカーを盾にして多くの警官が銀行を見つめ、その遥か遠くに数え切れないほどの野次馬が集まっている。
銀行の入り口近くの路上に人が転がっている。背広姿の中年男と制服姿の警察官。二人とも目を見開いて血だまりの中に横たわっている。
銀行の中では、顔をタオルで隠した二人の男が拳銃を手に立っている。銀行員はそれぞれ自分の席で凍り付いたように動かず、客たちは預金カウンター前のフロアに集められて怯えた顔で座っている。
「もっとあるだろ! 調べてあるんだ。早く出せ」
金の入った布袋を持つ男が、手前の銀行員に拳銃を向けながら言った。
奥の席にいた男が立ち上がり、金庫を開けて札束を出す。
「兄貴、えらいことになっちゃいましたね」
布袋を持っていない男が、もう一人に小声で言った。
「うるせえ」
「こうなったら人質取って外国に逃げるしかないっすよ。きっとボスは怒ってるだろうな」
「黙ってろ。こんど下らねえ事ほざいたら、てめえを三番目の死体にするぞ!」
兄貴分の布袋を持った男が、もう一人に拳銃を向けて言った。
「ままま」
弟分は口をギュッと閉じる。
銀行の外ではパトカーや盾でバリケードされた中で、警察のお偉方がごにょごにょと相談している。
「犯人に告ぐ。大人しく武器を捨てて出てきなさい」
一番のお偉方らしい年配の男が、犯人どころか銀行さえも見えない固く守られたバリケードの中でマイクを手に喋る。パトカーの横に置かれた巨大スピーカーが大音量でその声を響かせる。
「それを聞いて大人しく出てくる奴がいるのか?」
遠くで見ている野次馬が言った。
その野次馬の人垣をかき分けて一人の男が現れた。
黒と青と赤と白のストライプ模様で、体にぴっちりと張り付くような服を着ている。頭から被っているのは同じような模様の覆面。
警察の設定した立ち入り禁止のテープを踏み越え、制止の警官を跳ね飛ばすようにして目立つ姿の男はずんずん歩いていく。
マイクを持っていたお偉方が派手な男に気付く。
「こらこら、危ないからそっちに行っちゃいかん」
男は構わず歩いていき、パトカーを乗り越えたところで振り返る。
この男こそ、翔平の変身した姿、ヒーロマンである!
「私が正義の味方、ヒーロマンだ。心配しなくてよろしい」
ヒーロマンは再び銀行へとずんずん歩いていく。
「こらこら、戻ってこい! 危ないから戻ってこい!」
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