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雨の日の殺人
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島田正樹の大学の友人の谷口が、冬美を殺したのは正樹だと証言した。
「島田が姉を殺したと言ったのを確かに聞いたのだな?」
刑事が念を押した。
「はい。あの日の朝の講義に遅れてきた正樹は、私の隣に座ると『姉にぶたれたので今朝、刺して焦っていたら殺してしまい、ひどい目にあった』と言っていました。正確な文言は多少違うかもしれませんが」
刑事はもう一度島田正樹に話を聞くために立ち上がった。
島田美冬の死体を発見したのは、大学から帰宅した弟の正樹だった。
東北から上京した二人はマンションの同じ部屋に暮らしていた。姉の美冬は大学を卒業してそのまま東京に就職した。弟の正樹は姉がまだ大学生の頃に、やはり東京の大学に入学して姉と同居を始めたのだった。
その日は朝から雨が降り続き、時折激しくなった。
朝一の講義のある日は、大学までの通学に時間がかかる正樹の方が先に家を出る。その日も正樹が先にマンションの部屋を出た。姉はいつもと何ら変わったところはなかった。
そして雨の中、正樹は傘をさして歩き、大学へと急いだ。
「僕が姉を殺した?」
「そうだ」
警察の取調室で刑事が言った。
「まさか」
「君の友人が証言した。その日、大学に行った君は友人に姉を殺してしまったと打ち明けたそうじゃないか」
「は? 嘘だ。僕はそんなこと言っていません」
「でも友人はそう証言している」
「誰が? 何と言っているのです?」
正樹は信じられない思いで刑事に尋ねた。
「朝、講義で一緒になった谷口君だ。『姉にぶたれたので今朝、刺して焦っていたら殺してしまい、ひどい目にあった』と君は言ったそうだ」
「え?」
正樹は目を閉じて前日のことを思い出してみた。
傘をさして通りを歩いていた時に急に雨が強くなって走り出したら何かに躓き、水溜りの中に転んだ。ズボンと服が濡れ、おまけに講義に遅刻してしまった。
「あの時は確か谷口には、『雨に降られたので傘さして走っていたら転んでしまい、ひどい目にあった』と言ったと思います」
「は? もう一度言ってくれ」
刑事が聞きなおした。
数日後に、殺人のあった日の朝、島田のマンション近くから大学まで谷口に似た人物を乗せたというタクシー運転手が見つかった。
正樹は知らなかったが、美冬と谷口は付き合っていた。別れ話を切り出したのは美冬だった。
谷口はあの日の朝の正樹の言葉を覚えていて、正樹に罪を被せようとしたらしい。もし正樹にアリバイなどがあった場合は、聞き間違いだったととぼけるつもりだった。
終わり
「島田が姉を殺したと言ったのを確かに聞いたのだな?」
刑事が念を押した。
「はい。あの日の朝の講義に遅れてきた正樹は、私の隣に座ると『姉にぶたれたので今朝、刺して焦っていたら殺してしまい、ひどい目にあった』と言っていました。正確な文言は多少違うかもしれませんが」
刑事はもう一度島田正樹に話を聞くために立ち上がった。
島田美冬の死体を発見したのは、大学から帰宅した弟の正樹だった。
東北から上京した二人はマンションの同じ部屋に暮らしていた。姉の美冬は大学を卒業してそのまま東京に就職した。弟の正樹は姉がまだ大学生の頃に、やはり東京の大学に入学して姉と同居を始めたのだった。
その日は朝から雨が降り続き、時折激しくなった。
朝一の講義のある日は、大学までの通学に時間がかかる正樹の方が先に家を出る。その日も正樹が先にマンションの部屋を出た。姉はいつもと何ら変わったところはなかった。
そして雨の中、正樹は傘をさして歩き、大学へと急いだ。
「僕が姉を殺した?」
「そうだ」
警察の取調室で刑事が言った。
「まさか」
「君の友人が証言した。その日、大学に行った君は友人に姉を殺してしまったと打ち明けたそうじゃないか」
「は? 嘘だ。僕はそんなこと言っていません」
「でも友人はそう証言している」
「誰が? 何と言っているのです?」
正樹は信じられない思いで刑事に尋ねた。
「朝、講義で一緒になった谷口君だ。『姉にぶたれたので今朝、刺して焦っていたら殺してしまい、ひどい目にあった』と君は言ったそうだ」
「え?」
正樹は目を閉じて前日のことを思い出してみた。
傘をさして通りを歩いていた時に急に雨が強くなって走り出したら何かに躓き、水溜りの中に転んだ。ズボンと服が濡れ、おまけに講義に遅刻してしまった。
「あの時は確か谷口には、『雨に降られたので傘さして走っていたら転んでしまい、ひどい目にあった』と言ったと思います」
「は? もう一度言ってくれ」
刑事が聞きなおした。
数日後に、殺人のあった日の朝、島田のマンション近くから大学まで谷口に似た人物を乗せたというタクシー運転手が見つかった。
正樹は知らなかったが、美冬と谷口は付き合っていた。別れ話を切り出したのは美冬だった。
谷口はあの日の朝の正樹の言葉を覚えていて、正樹に罪を被せようとしたらしい。もし正樹にアリバイなどがあった場合は、聞き間違いだったととぼけるつもりだった。
終わり
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