ミステリーの物語 短編集

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
10 / 10

雨の日の殺人

しおりを挟む
 島田正樹の大学の友人の谷口が、冬美を殺したのは正樹だと証言した。
「島田が姉を殺したと言ったのを確かに聞いたのだな?」
 刑事が念を押した。
「はい。あの日の朝の講義に遅れてきた正樹は、私の隣に座ると『姉にぶたれたので今朝、刺して焦っていたら殺してしまい、ひどい目にあった』と言っていました。正確な文言は多少違うかもしれませんが」
 刑事はもう一度島田正樹に話を聞くために立ち上がった。

 島田美冬の死体を発見したのは、大学から帰宅した弟の正樹だった。
 東北から上京した二人はマンションの同じ部屋に暮らしていた。姉の美冬は大学を卒業してそのまま東京に就職した。弟の正樹は姉がまだ大学生の頃に、やはり東京の大学に入学して姉と同居を始めたのだった。

 その日は朝から雨が降り続き、時折激しくなった。
 朝一の講義のある日は、大学までの通学に時間がかかる正樹の方が先に家を出る。その日も正樹が先にマンションの部屋を出た。姉はいつもと何ら変わったところはなかった。
 そして雨の中、正樹は傘をさして歩き、大学へと急いだ。

「僕が姉を殺した?」
「そうだ」
 警察の取調室で刑事が言った。
「まさか」
「君の友人が証言した。その日、大学に行った君は友人に姉を殺してしまったと打ち明けたそうじゃないか」
「は? 嘘だ。僕はそんなこと言っていません」
「でも友人はそう証言している」
「誰が? 何と言っているのです?」
 正樹は信じられない思いで刑事に尋ねた。
「朝、講義で一緒になった谷口君だ。『姉にぶたれたので今朝、刺して焦っていたら殺してしまい、ひどい目にあった』と君は言ったそうだ」
「え?」
 正樹は目を閉じて前日のことを思い出してみた。
 傘をさして通りを歩いていた時に急に雨が強くなって走り出したら何かに躓き、水溜りの中に転んだ。ズボンと服が濡れ、おまけに講義に遅刻してしまった。
「あの時は確か谷口には、『雨に降られたので傘さして走っていたら転んでしまい、ひどい目にあった』と言ったと思います」
「は? もう一度言ってくれ」
 刑事が聞きなおした。

 数日後に、殺人のあった日の朝、島田のマンション近くから大学まで谷口に似た人物を乗せたというタクシー運転手が見つかった。
 正樹は知らなかったが、美冬と谷口は付き合っていた。別れ話を切り出したのは美冬だった。
 谷口はあの日の朝の正樹の言葉を覚えていて、正樹に罪を被せようとしたらしい。もし正樹にアリバイなどがあった場合は、聞き間違いだったととぼけるつもりだった。



                                 終わり
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

真実の追及と正義の葛藤

etoshiyamakan
ミステリー
警視庁より出向の刑事とたびたび起こる事件の謎を同僚たちと・・・・・。

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

10u

朽縄咲良
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞受賞作品】  ある日、とある探偵事務所をひとりの男性が訪れる。  最近、妻を亡くしたというその男性は、彼女が死の直前に遺したというメッセージアプリの意味を解読してほしいと依頼する。  彼が開いたメッセージアプリのトーク欄には、『10u』という、たった三文字の奇妙なメッセージが送られていた。  果たして、そのメッセージには何か意味があるのか……? *同内容を、『小説家になろう』『ノベルアッププラス』『ノベルデイズ』にも掲載しております。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...