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第四章
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昼間の稽古にセイナが来なかった。
今まで断りもなく稽古を休むことなどなかったので、ブルゼノは稽古の後でセイナの家に行った。
「おお、うるせーの君。久しぶりじゃの」
セイナのおじいさんの元勇者がブルゼノを見て言った。
ブルゼノは少し違う名前の呼び方を訂正する気にもなれなかった。
「今日、セイナさんは道場に来ませんでしたが、どうかしたのですか?」
「何だって? 最近耳が遠くなっての」
「セイナさんは今、家にいますか?」
ブルゼノは大きな声で言った。
「セイナは旅に出てしまったよ」
「ええ?」
「今朝早くに、遠い地へ行ってしまったよ」
「どこへ? 一人で? 何で?」
ブルゼノ問いかけに老人は混乱したようだ。
「すみません、どこに行ったのですか?」
「さあ、わしには詳しいことを話さずに行ってしまったからの」
「ありがとうございました」
ブルゼノは礼を言い、セイナの家を出ると駆け出した。
セイナの母は町の郊外にある畑にいた。
「ごめんなさい、ブルゼノさん。セイナが一人で決めてしまったことなので、私も詳しいことは知らないのです」
セイナの母はすまなそうに言った。
「でもセイナ一人で旅には出られないでしょう? 本当に町を出ていったのですか?」
「セイナは王様のところに行き、何かを決めてきました。王様に会えば何かわかるでしょう。ただ、」
セイナの母は言葉を止めてブルゼノを見た。
「あなたが来たら伝えてほしいと言われたことがあります。自分のことを捜さないで。そして自分の代わりに立派な勇者になるようにと」
「僕が勇者?」
「あなたが立派な勇者になった時に、セイナはここに帰ってくると言いました」
今度はブルゼノが混乱した。
勇者?
でも今はそれどころではない。セイナを捜さなければ。
「王様に会ってみます」
「ブルゼノさん」
立ち去ろうとするブルゼノをセイナの母が呼び止めた。
「セイナのことは心配いりません。娘の望みはただひとつ。あなたが立派な勇者になってくれることです」
「ごめんなさい」
ブルゼノは頭を下げて別れを告げ、その場を離れた。
ブルゼノは大急ぎで羊を町に連れていってから服装を整え、城に行った。
王様はすぐに面会をしてくれた。
「セイナを連れ戻しに行くつもりか?」
大きな椅子に座る王様が尋ねた。
「いえ。セイナはこの国の勇者になるつもりでした。勇者になるための修行で旅に出たのならわかりますが、セイナは私に勇者になれと言って町を出ました。なぜ町を出たのか理由を知りたいのです」
「セイナは自分より、そなたのほうが勇者にふさわしいと思ったからこの国を出ていったのだ。そなたは勇者になる気はないのか?」
「私は勇者になろうと考えたことは一度もありません。なぜ私が勇者になるのか、そのためになぜセイナは旅に出たのか、わかりません」
「ブルゼノ。それは自分でよく考えてみるがよい。ただ、セイナを捜してこの町を出ることは許さぬ」
王様はきっぱりと言った。
ブルゼノは目に熱いものが込み上げてきた。
自分はこれから何をしなければならないのか。考えることもできなかった。
今まで断りもなく稽古を休むことなどなかったので、ブルゼノは稽古の後でセイナの家に行った。
「おお、うるせーの君。久しぶりじゃの」
セイナのおじいさんの元勇者がブルゼノを見て言った。
ブルゼノは少し違う名前の呼び方を訂正する気にもなれなかった。
「今日、セイナさんは道場に来ませんでしたが、どうかしたのですか?」
「何だって? 最近耳が遠くなっての」
「セイナさんは今、家にいますか?」
ブルゼノは大きな声で言った。
「セイナは旅に出てしまったよ」
「ええ?」
「今朝早くに、遠い地へ行ってしまったよ」
「どこへ? 一人で? 何で?」
ブルゼノ問いかけに老人は混乱したようだ。
「すみません、どこに行ったのですか?」
「さあ、わしには詳しいことを話さずに行ってしまったからの」
「ありがとうございました」
ブルゼノは礼を言い、セイナの家を出ると駆け出した。
セイナの母は町の郊外にある畑にいた。
「ごめんなさい、ブルゼノさん。セイナが一人で決めてしまったことなので、私も詳しいことは知らないのです」
セイナの母はすまなそうに言った。
「でもセイナ一人で旅には出られないでしょう? 本当に町を出ていったのですか?」
「セイナは王様のところに行き、何かを決めてきました。王様に会えば何かわかるでしょう。ただ、」
セイナの母は言葉を止めてブルゼノを見た。
「あなたが来たら伝えてほしいと言われたことがあります。自分のことを捜さないで。そして自分の代わりに立派な勇者になるようにと」
「僕が勇者?」
「あなたが立派な勇者になった時に、セイナはここに帰ってくると言いました」
今度はブルゼノが混乱した。
勇者?
でも今はそれどころではない。セイナを捜さなければ。
「王様に会ってみます」
「ブルゼノさん」
立ち去ろうとするブルゼノをセイナの母が呼び止めた。
「セイナのことは心配いりません。娘の望みはただひとつ。あなたが立派な勇者になってくれることです」
「ごめんなさい」
ブルゼノは頭を下げて別れを告げ、その場を離れた。
ブルゼノは大急ぎで羊を町に連れていってから服装を整え、城に行った。
王様はすぐに面会をしてくれた。
「セイナを連れ戻しに行くつもりか?」
大きな椅子に座る王様が尋ねた。
「いえ。セイナはこの国の勇者になるつもりでした。勇者になるための修行で旅に出たのならわかりますが、セイナは私に勇者になれと言って町を出ました。なぜ町を出たのか理由を知りたいのです」
「セイナは自分より、そなたのほうが勇者にふさわしいと思ったからこの国を出ていったのだ。そなたは勇者になる気はないのか?」
「私は勇者になろうと考えたことは一度もありません。なぜ私が勇者になるのか、そのためになぜセイナは旅に出たのか、わかりません」
「ブルゼノ。それは自分でよく考えてみるがよい。ただ、セイナを捜してこの町を出ることは許さぬ」
王様はきっぱりと言った。
ブルゼノは目に熱いものが込み上げてきた。
自分はこれから何をしなければならないのか。考えることもできなかった。
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