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第二章
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普通なら、岩山を下りることなどなんでもないことで、平らな場所を歩くより早く進めるはずだった。だが、足を痛めたブルゼノには、平らな場所を歩くより時間をかけなければ、足場の悪い岩場を下りていくことはできなかった。
セイナはブルゼノの手を取り、ブルゼノがバランスを取るのを助けて山を下りていった。
これは大変なことになってしまったということは二人ともわかっていた。そのまま歩みを進めても、町に着くころには町を囲む城壁の門は閉ざされてしまっている。見張りの者はいるはずだが、果たしてそこまで無事にたどり着けるだろうか。
日はじりじりと傾き、二人は重大な決断を下さなければならない時が迫っているのを感じていた。
「帰りは明日にするしかなさそうだわ」
セイナが言った。
「ごめん」
「あなたが謝ることじゃない。このことを計画したのは私だから、私に責任がある」
「そんなことないよ」
「もうそんなことはいいの。それより、どこか身を隠せる場所を探しましょう」
二人は大小さまざまな岩の転がる斜面を、用心しながら歩いた。
ほどなく、巨大な岩が積み重なり、小さな部屋のようになった場所を見つけた。
「ここにしましょう」
辺りに魔物が潜んでいないか確認した後、セイナが言った。
「私は焚き物を集めてくる」
木がポツンポツンと茂る広い谷底はもうすぐそこだった。
「一人で大丈夫?」
「大丈夫よ。もし何かあったら大きな声で叫ぶから」
セイナはそう言うと、軽やかな身のこなしで谷へ降りていった。
もし叫び声が聞こえてきても、この足じゃ助けに行けないよと思いながら、ブルゼノは岩と岩で作られたこの居場所の隙間を小さな岩で塞ぐ作業に取り掛かるために立ち上がった。
ブルゼノがやりたいと思っていた作業を終える頃、枯れた小枝を抱えたセイナが戻ってきた。
「火を点ける準備をしてて。大きな火にしちゃダメよ。私はもう少し薪を集めてくる」
セイナはそう言うと、再び谷へ降りていった。
青かった空が赤く染まり始めている。
辺りが薄暗くなるころ、ブルゼノは岩で囲った中で薪に火を点けた。
セイナの言葉の意味は理解していた。
魔物に見つからないように小さな炎を燃やし続けなければならない。もし闇の中で魔物が現れた時は炎を一気に大きくして、魔物の姿を見えるようにしないと戦えない。
やがて両手いっぱいに薪を抱いたセイナが帰ってきた。腕に巻いた包帯から血が滲んでいる。
「腕をどうしたの?」
小さな炎に照らされたセイナを見て、ブルゼノが言った。
「薪拾いに夢中になっているところを魔物に襲われたの。油断したわ。でもやっつけてやったから」
ブルゼノが炎の番を続け、セイナは巨大な岩と岩に囲まれた隠れ家の入り口で、暗くなった外の闇を警戒していた。
魔物が近づいてくる物音に聞き耳を立てなければならないので、二人はほとんど話をすることもなかった。
空には星が瞬き、月が昇っていた。
「眠くなったら言ってね。二人とも眠ってしまうわけにはいかないから」
セイナがブルゼノを見て小声で言った。
「交代で眠ろう。セイナが先に眠る?」
「私は眠れそうにないから、あなたがお先にどうぞ」
「そうする」
ブルゼノは岩にもたれて目を閉じた。
しばらくすると、すやすやと寝息を立て始めた。
セイナはよくこんな時に眠れるものだと感心した。
セイナはブルゼノの手を取り、ブルゼノがバランスを取るのを助けて山を下りていった。
これは大変なことになってしまったということは二人ともわかっていた。そのまま歩みを進めても、町に着くころには町を囲む城壁の門は閉ざされてしまっている。見張りの者はいるはずだが、果たしてそこまで無事にたどり着けるだろうか。
日はじりじりと傾き、二人は重大な決断を下さなければならない時が迫っているのを感じていた。
「帰りは明日にするしかなさそうだわ」
セイナが言った。
「ごめん」
「あなたが謝ることじゃない。このことを計画したのは私だから、私に責任がある」
「そんなことないよ」
「もうそんなことはいいの。それより、どこか身を隠せる場所を探しましょう」
二人は大小さまざまな岩の転がる斜面を、用心しながら歩いた。
ほどなく、巨大な岩が積み重なり、小さな部屋のようになった場所を見つけた。
「ここにしましょう」
辺りに魔物が潜んでいないか確認した後、セイナが言った。
「私は焚き物を集めてくる」
木がポツンポツンと茂る広い谷底はもうすぐそこだった。
「一人で大丈夫?」
「大丈夫よ。もし何かあったら大きな声で叫ぶから」
セイナはそう言うと、軽やかな身のこなしで谷へ降りていった。
もし叫び声が聞こえてきても、この足じゃ助けに行けないよと思いながら、ブルゼノは岩と岩で作られたこの居場所の隙間を小さな岩で塞ぐ作業に取り掛かるために立ち上がった。
ブルゼノがやりたいと思っていた作業を終える頃、枯れた小枝を抱えたセイナが戻ってきた。
「火を点ける準備をしてて。大きな火にしちゃダメよ。私はもう少し薪を集めてくる」
セイナはそう言うと、再び谷へ降りていった。
青かった空が赤く染まり始めている。
辺りが薄暗くなるころ、ブルゼノは岩で囲った中で薪に火を点けた。
セイナの言葉の意味は理解していた。
魔物に見つからないように小さな炎を燃やし続けなければならない。もし闇の中で魔物が現れた時は炎を一気に大きくして、魔物の姿を見えるようにしないと戦えない。
やがて両手いっぱいに薪を抱いたセイナが帰ってきた。腕に巻いた包帯から血が滲んでいる。
「腕をどうしたの?」
小さな炎に照らされたセイナを見て、ブルゼノが言った。
「薪拾いに夢中になっているところを魔物に襲われたの。油断したわ。でもやっつけてやったから」
ブルゼノが炎の番を続け、セイナは巨大な岩と岩に囲まれた隠れ家の入り口で、暗くなった外の闇を警戒していた。
魔物が近づいてくる物音に聞き耳を立てなければならないので、二人はほとんど話をすることもなかった。
空には星が瞬き、月が昇っていた。
「眠くなったら言ってね。二人とも眠ってしまうわけにはいかないから」
セイナがブルゼノを見て小声で言った。
「交代で眠ろう。セイナが先に眠る?」
「私は眠れそうにないから、あなたがお先にどうぞ」
「そうする」
ブルゼノは岩にもたれて目を閉じた。
しばらくすると、すやすやと寝息を立て始めた。
セイナはよくこんな時に眠れるものだと感心した。
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