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第二章
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二人とも口には出さなかったが、大変なことになってしまったということはわかっていた。
町の東にある祠に行こうと言い出したのはセイナだった。そこは昔、セイナのおじいさんが勇者になるために勇者の証を取りに行った場所だった。
ジング王国では、勇者になるための冒険を一人で行かせるのが通例となっている。そのため、一日で帰ってこられる場所にある祠に勇者の証があった。
祠のすぐ近くに魔物が棲みついている洞窟があり、祠に近づく者を襲うので、ジング王国では用のない限り東の祠に近づいてはいけないという御触れを出していた。
「だから祠に近づくのはやめた方がいいの。まだ私たちの力では強い魔物と戦えないから」
セイナはそう言っていた。
セイナはおじいさんから、勇者だった頃の話を色々と聞いていて、東の祠に行った話も何度も聞いている。
ブルゼノと打ち合わせをした次の日、セイナはおじいさんが使っていた剣を二本、そっと持ち出してきた。それを目立たないようにカバンに入れて牧場に持ってきて、ムロタの様子を見ながら、二人は姿を隠した。
荒野の道なき道を、二人は用心しながら進んだ。
それは興奮の連続だった。
初めて現れた魔物は逃げ出した。二人はびっくりしながらも落ち着こうと努力して剣を構えたが、構える間もなく魔物は逃げたのだった。
次に現れた魔物は襲いかかってきた。二人は戦い、魔物を打ち倒すことができた。
その後二人は用心しながら歩みを進めていった。どんな魔物がいつ、どんなところから襲いかかってくるかわからない。一瞬でも気を緩めることができなかった。
何度か魔物が現れ、戦い、打ち倒すうちに、魔物との戦い方のコツみたいなものがわかり、少し余裕が出てきた。
「帰り道はわかる?」
ブルゼノが何度目かの戦いの後、セイナに尋ねた。
セイナは今来た方向を振り返り、そして太陽を見、周りの山々の景色を見た。
周りは所々小さな灌木が茂るごつごつした岩だらけの岩山だ。
「帰りのことをすっかり忘れていたわ」
「もう戻ったほうがいい」
ブルゼノが言った。
「そうね」
セイナも同意し、二人は今、来た方向へと戻り始めた。
しかし、少し歩くと、自分たちが通ってきたらしい方向を見失った。
ゲルグ王国は高い山脈に囲まれた広大な盆地にある。国の外に出るには高く険しい山々を越えていかなければならない。
しかし、町と、町の周囲しか知らないセイナとブルゼノにそのようなことはわからなかった。
もし、目の前にある山の裏側に入り込んでしまい、ジング王国の外に出てしまえば、大変なことになる。二人の頭にはそんな恐怖があった。
「山に登ってみましょう。きっとべレストが見えるはずよ」
山間の比較的平坦な谷を歩いてきたセイナとブルゼノはごつごつした岩山を登り始めた。
しばらく登っていくと、上空からギャーギャーと言う鳴き声が聞こえてきた。
見上げると、鳥のような魔物が上空を旋回していた。
「行きましょう」
二人は用心しながら巨大な岩を避け、登っていった。
不意に空から魔物が舞い降りてきた。
ブルゼノがとっさに剣を抜いて打ち払った。
魔物の巨大なくちばしの中に、何十本もの尖った歯が見えた。
ブルゼノの攻撃をかわして空に舞い上がった魔物が再び降下してきた。
セイナも剣を構えている。
ブルゼノの攻撃を巧みにかわし、魔物はセイナに襲いかかった。
セイナは魔物の鋭い爪をかわし、さらにくちばしの攻撃を剣で受けた。
ブルゼノが上方から飛び上がって魔物の背に剣を振り下ろした。
ブルゼノの剣は翼をかすめ、黒い羽根を周囲にまき散らした。
魔物は飛び退き、低空を滑走してその場を離れていった。
「大丈夫?」
ブルゼノが訊いた。
「私は大丈夫。あなたは?」
「大丈夫だと思う」
ブルゼノは魔物に剣を振り下ろしたあと、岩ばかりの斜面に着地するときに足首をひねっていた。
少し登ると、低い山の向こうにべレストの街並みが見えた。
「あら、意外と近いわ。これなら楽勝で帰れるわ」
セイナは頭上高くにある太陽を見て言った。
二人が岩山を下りかけた時、また魔物が現れ、襲いかかってきた。
二体の魔物がセイナとブルゼノそれぞれに襲いかかり、二人は斜面で、しかも岩ばかりの足場に苦心しながら魔物と戦った。
ブルゼノは魔物を切り裂いた時、バランスを崩して岩山を転がり落ちた。
セイナは魔物を倒すと、急いでブルゼノを追った。
すぐ下の岩の上にブルゼノはいた。
手や足をすりむき、血が滲んでいる。
「怪我は?」
セイナは簡単な応急手当の道具を持っていたので、それで傷の消毒をした。
「擦り傷は大したことないけど、足をまたくじいたようで、歩けるかどうか・・・・」
ブルゼノはそっと立ち上がり、くじいた方の足に体重をかけ、また座り込んだ。
「かなり痛むの?」
セイナが心配そうにブルゼノの顔を見た。
「うん」
ブルゼノは弱々しく返事をした。
町の東にある祠に行こうと言い出したのはセイナだった。そこは昔、セイナのおじいさんが勇者になるために勇者の証を取りに行った場所だった。
ジング王国では、勇者になるための冒険を一人で行かせるのが通例となっている。そのため、一日で帰ってこられる場所にある祠に勇者の証があった。
祠のすぐ近くに魔物が棲みついている洞窟があり、祠に近づく者を襲うので、ジング王国では用のない限り東の祠に近づいてはいけないという御触れを出していた。
「だから祠に近づくのはやめた方がいいの。まだ私たちの力では強い魔物と戦えないから」
セイナはそう言っていた。
セイナはおじいさんから、勇者だった頃の話を色々と聞いていて、東の祠に行った話も何度も聞いている。
ブルゼノと打ち合わせをした次の日、セイナはおじいさんが使っていた剣を二本、そっと持ち出してきた。それを目立たないようにカバンに入れて牧場に持ってきて、ムロタの様子を見ながら、二人は姿を隠した。
荒野の道なき道を、二人は用心しながら進んだ。
それは興奮の連続だった。
初めて現れた魔物は逃げ出した。二人はびっくりしながらも落ち着こうと努力して剣を構えたが、構える間もなく魔物は逃げたのだった。
次に現れた魔物は襲いかかってきた。二人は戦い、魔物を打ち倒すことができた。
その後二人は用心しながら歩みを進めていった。どんな魔物がいつ、どんなところから襲いかかってくるかわからない。一瞬でも気を緩めることができなかった。
何度か魔物が現れ、戦い、打ち倒すうちに、魔物との戦い方のコツみたいなものがわかり、少し余裕が出てきた。
「帰り道はわかる?」
ブルゼノが何度目かの戦いの後、セイナに尋ねた。
セイナは今来た方向を振り返り、そして太陽を見、周りの山々の景色を見た。
周りは所々小さな灌木が茂るごつごつした岩だらけの岩山だ。
「帰りのことをすっかり忘れていたわ」
「もう戻ったほうがいい」
ブルゼノが言った。
「そうね」
セイナも同意し、二人は今、来た方向へと戻り始めた。
しかし、少し歩くと、自分たちが通ってきたらしい方向を見失った。
ゲルグ王国は高い山脈に囲まれた広大な盆地にある。国の外に出るには高く険しい山々を越えていかなければならない。
しかし、町と、町の周囲しか知らないセイナとブルゼノにそのようなことはわからなかった。
もし、目の前にある山の裏側に入り込んでしまい、ジング王国の外に出てしまえば、大変なことになる。二人の頭にはそんな恐怖があった。
「山に登ってみましょう。きっとべレストが見えるはずよ」
山間の比較的平坦な谷を歩いてきたセイナとブルゼノはごつごつした岩山を登り始めた。
しばらく登っていくと、上空からギャーギャーと言う鳴き声が聞こえてきた。
見上げると、鳥のような魔物が上空を旋回していた。
「行きましょう」
二人は用心しながら巨大な岩を避け、登っていった。
不意に空から魔物が舞い降りてきた。
ブルゼノがとっさに剣を抜いて打ち払った。
魔物の巨大なくちばしの中に、何十本もの尖った歯が見えた。
ブルゼノの攻撃をかわして空に舞い上がった魔物が再び降下してきた。
セイナも剣を構えている。
ブルゼノの攻撃を巧みにかわし、魔物はセイナに襲いかかった。
セイナは魔物の鋭い爪をかわし、さらにくちばしの攻撃を剣で受けた。
ブルゼノが上方から飛び上がって魔物の背に剣を振り下ろした。
ブルゼノの剣は翼をかすめ、黒い羽根を周囲にまき散らした。
魔物は飛び退き、低空を滑走してその場を離れていった。
「大丈夫?」
ブルゼノが訊いた。
「私は大丈夫。あなたは?」
「大丈夫だと思う」
ブルゼノは魔物に剣を振り下ろしたあと、岩ばかりの斜面に着地するときに足首をひねっていた。
少し登ると、低い山の向こうにべレストの街並みが見えた。
「あら、意外と近いわ。これなら楽勝で帰れるわ」
セイナは頭上高くにある太陽を見て言った。
二人が岩山を下りかけた時、また魔物が現れ、襲いかかってきた。
二体の魔物がセイナとブルゼノそれぞれに襲いかかり、二人は斜面で、しかも岩ばかりの足場に苦心しながら魔物と戦った。
ブルゼノは魔物を切り裂いた時、バランスを崩して岩山を転がり落ちた。
セイナは魔物を倒すと、急いでブルゼノを追った。
すぐ下の岩の上にブルゼノはいた。
手や足をすりむき、血が滲んでいる。
「怪我は?」
セイナは簡単な応急手当の道具を持っていたので、それで傷の消毒をした。
「擦り傷は大したことないけど、足をまたくじいたようで、歩けるかどうか・・・・」
ブルゼノはそっと立ち上がり、くじいた方の足に体重をかけ、また座り込んだ。
「かなり痛むの?」
セイナが心配そうにブルゼノの顔を見た。
「うん」
ブルゼノは弱々しく返事をした。
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