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第一章
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とりあえずババロンという少年に会ってみようということになり、セイナとブルゼノは元武道家から聞いたレストランに行ってみた。
開店前の店内で若い女がテーブルの上を掃除していた。
「まだ開店前なんです」
そう言ってセイナとブルゼノを見た女が、怪訝そうな顔をした。子供二人でここに来たと思ったのだろう。
「いえ、食事に来たのではありません。ここにババロンという人がいると聞いて来たのですが」
「ババロン? ちょっと待ってて」
女はそう言うと、厨房の中に入っていった。
すぐに一人の小柄な少年が現れた。
「あら、あなたは」
セイナがババロンを見て言った。
ババロンも不思議そうにセイナとブルゼノを見た。
ババロンは以前、ブルゼノたちがセイナをからかっている時に止めに入った少年だった。
ああ、この子は正義感が強いから王様に認められたのだなとブルゼノは思った。自分にはあの時、仲間を止める勇気がなかった。
「あなたは剣術ができるの?」
疑わしそうな目で、セイナがババロンを見て言った。セイナは以前のババロンを知っている。
「僕は下手だよ。でも目をつぶらずに魔物と戦えるようにはなったよ」
「王様に認められるくらいだから、それなりには剣術もできるのでしょ?」
「僕よりもパフラットのほうが断然強いよ。剣術はパフラットに任せて、僕は魔法使いになるつもり」
「あら、そうなの? じゃあ、武道家と魔法使い候補はいるけれど、勇者の候補はいないってわけね」
「僕は魔法を使う勇者になる」
ババロンがきっぱりと言った。
「魔法を使う勇者?」
セイナは少し考えた。
「だって、・・・・あのね、勇者っていうのは、剣術の達人でないとダメなの。魔法使いの勇者なんて、聞いたことがないわ」
「王様に言われたんだ。魔法を極めて、勇者になるのもいいって」
「ええ? 王様は勇者が何たるかを知らないのだわ」
「それに王様にそういう話をしたのは、有名な勇者だった人だって聞いたよ」
「勇者?」
「確かグルドフさんとか言ってた」
「グルドフ? グルドフって、あの、超有名な?」
「僕はよく知らないけど」
「勇者グルドフっていったら、勇者の中の勇者、世界一強いと言われたこともある人よ。そんな人があなたのことを知っているわけがないじゃない」
「僕たちが冒険に出かけた時、陰から僕たちを守ってくれて、パフラットが歯が立たなかった強い魔物も簡単に倒したのがグルドフさんだって、後から王様が教えてくれたよ」
「嘘でしょ。そんな人がこの町に来るわけがないわ」
「君だってグルドフさんに会ってるよ」
「私が?」
「そう。いつか君がいじめられている時に助けてくれたおじさん。あの人がグルドフさんだよ」
「ええ!」
セイナが悲鳴に近い声を出した。
ブルゼノも、その時の鼻の下にちょび髭を生やしていた旅人のことを思い出した。
「だって、勇者っていうのは二枚目で、背が高くて、格好がいいって相場が決まっているのよ」
「そうなの?」
「そうよ」
セイナは怒ったように相槌を打った。本気で怒っているようだ。
「でも、あの人はすごく強かったよ。パフラットも物凄く強いけれど、グルドフさんには足元にも及ばないって言っているもん」
「パフラットが弱いだけよ」
「パフラットは強いよ」
ババロンが仲間をけなされ、強い口調で反論した。
「まあいいわ。夕方に道場に行けばわかるから」
「道場に行くの? 僕も夕方には道場に行くから」
「そう、で、あなたは今、ここで何をしているの?」
「修業」
「何の修行よ」
「魔法のだよ」
「お店の厨房で魔法の修行をしているの?」
セイナの声がまた大きくなった。
「ここでは料理を作る手伝いをしているけれど、料理を作ることは手先を使うから、魔法の修行にもなるんだよ」
「誰がそんなことを言ったのよ」
「ここのマスター。マスターは元魔法使いで、料理をしていない時は本当の魔法を教えてくれる」
「ふーん。じゃ、あなたも夕方、道場に来るのね? その時に腕を見させてもらうわ」
「僕の剣術はまだ全然駄目だけどね」
「あなた、それでよく冒険者になるなんて言えるわね」
セイナはプリプリしながら店を出ていった。
「失礼します」
ブルゼノも挨拶をして、セイナの後を追った。
開店前の店内で若い女がテーブルの上を掃除していた。
「まだ開店前なんです」
そう言ってセイナとブルゼノを見た女が、怪訝そうな顔をした。子供二人でここに来たと思ったのだろう。
「いえ、食事に来たのではありません。ここにババロンという人がいると聞いて来たのですが」
「ババロン? ちょっと待ってて」
女はそう言うと、厨房の中に入っていった。
すぐに一人の小柄な少年が現れた。
「あら、あなたは」
セイナがババロンを見て言った。
ババロンも不思議そうにセイナとブルゼノを見た。
ババロンは以前、ブルゼノたちがセイナをからかっている時に止めに入った少年だった。
ああ、この子は正義感が強いから王様に認められたのだなとブルゼノは思った。自分にはあの時、仲間を止める勇気がなかった。
「あなたは剣術ができるの?」
疑わしそうな目で、セイナがババロンを見て言った。セイナは以前のババロンを知っている。
「僕は下手だよ。でも目をつぶらずに魔物と戦えるようにはなったよ」
「王様に認められるくらいだから、それなりには剣術もできるのでしょ?」
「僕よりもパフラットのほうが断然強いよ。剣術はパフラットに任せて、僕は魔法使いになるつもり」
「あら、そうなの? じゃあ、武道家と魔法使い候補はいるけれど、勇者の候補はいないってわけね」
「僕は魔法を使う勇者になる」
ババロンがきっぱりと言った。
「魔法を使う勇者?」
セイナは少し考えた。
「だって、・・・・あのね、勇者っていうのは、剣術の達人でないとダメなの。魔法使いの勇者なんて、聞いたことがないわ」
「王様に言われたんだ。魔法を極めて、勇者になるのもいいって」
「ええ? 王様は勇者が何たるかを知らないのだわ」
「それに王様にそういう話をしたのは、有名な勇者だった人だって聞いたよ」
「勇者?」
「確かグルドフさんとか言ってた」
「グルドフ? グルドフって、あの、超有名な?」
「僕はよく知らないけど」
「勇者グルドフっていったら、勇者の中の勇者、世界一強いと言われたこともある人よ。そんな人があなたのことを知っているわけがないじゃない」
「僕たちが冒険に出かけた時、陰から僕たちを守ってくれて、パフラットが歯が立たなかった強い魔物も簡単に倒したのがグルドフさんだって、後から王様が教えてくれたよ」
「嘘でしょ。そんな人がこの町に来るわけがないわ」
「君だってグルドフさんに会ってるよ」
「私が?」
「そう。いつか君がいじめられている時に助けてくれたおじさん。あの人がグルドフさんだよ」
「ええ!」
セイナが悲鳴に近い声を出した。
ブルゼノも、その時の鼻の下にちょび髭を生やしていた旅人のことを思い出した。
「だって、勇者っていうのは二枚目で、背が高くて、格好がいいって相場が決まっているのよ」
「そうなの?」
「そうよ」
セイナは怒ったように相槌を打った。本気で怒っているようだ。
「でも、あの人はすごく強かったよ。パフラットも物凄く強いけれど、グルドフさんには足元にも及ばないって言っているもん」
「パフラットが弱いだけよ」
「パフラットは強いよ」
ババロンが仲間をけなされ、強い口調で反論した。
「まあいいわ。夕方に道場に行けばわかるから」
「道場に行くの? 僕も夕方には道場に行くから」
「そう、で、あなたは今、ここで何をしているの?」
「修業」
「何の修行よ」
「魔法のだよ」
「お店の厨房で魔法の修行をしているの?」
セイナの声がまた大きくなった。
「ここでは料理を作る手伝いをしているけれど、料理を作ることは手先を使うから、魔法の修行にもなるんだよ」
「誰がそんなことを言ったのよ」
「ここのマスター。マスターは元魔法使いで、料理をしていない時は本当の魔法を教えてくれる」
「ふーん。じゃ、あなたも夕方、道場に来るのね? その時に腕を見させてもらうわ」
「僕の剣術はまだ全然駄目だけどね」
「あなた、それでよく冒険者になるなんて言えるわね」
セイナはプリプリしながら店を出ていった。
「失礼します」
ブルゼノも挨拶をして、セイナの後を追った。
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