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第2章
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「田中君のこと、どう思う?」
少し間を置いてから、優花がつぶやくように言った。
「は? 田中って、竜彦のこと?」
「そう」
「どうって」
僕ははっきり言って頭の中がこんがらがった。優花は会話の途中で、それまでの事と関係のない突拍子もないことを言う。そういうときは、何か悩んでいたりする時だ。
「彼って、意外と二枚目だよね」
『彼』なんて、やけに他人行儀な言い方をした。
「二枚目?」
優花の言葉に、何を言いたいのかを探しながら、僕は田中のことを想像した。
寝癖で一部突っ立った髪の毛。ボタンの取れたシャツ。ネジくれた襟。ツルツルの学生ズボン。履きつぶしたような汚れた靴。今はだいぶマシになったけれど、少し前まではそんな調子だった。服装や自分の姿には無頓着、というより、わざとそうしているようにも見えた。性格的には裏表がなく、さっぱりとしたいいヤツだ。ちょっとばかり頑固で、視野というか、ものの考え方が狭いところがあるかもしれない。
田中が二枚目かどうかなんて考えたこともなかった。だけど、顔の作り自体は整っている。あれできちんとした格好、いや、人並みくらいになれば、いい男といえるだろう。切れ長の目、鼻筋の通ったたまご型の顔。
「二枚目かもしれない。女にもてるようなタイプじゃないけれど。でも、それがどうした?」
相談って、もしかしたら田中に付き合ってくれとでも言われたのか?
僕はそう優花に尋ねた。
「いえ、そうじゃないけど」
優花の小さくなった声を、僕はどうにか聞き取ることができた。
「じゃ、田中に惚れたか?」
僕は冗談っぽくおどけた。
「まさか」
即座に否定した。
「それじゃ、何だってんだよ」
僕はふて腐れて尋ねた。田中が一体どうしたんだろう。さっき優花の声を聞いた時の田中の様子と何か関係があるのだろうか。
「私、田中君と同じ中学で、同じクラスだったの知ってるでしょ」
そうだったっけ? 確か以前に優花から聞いたような覚えはある。
「中学の時の田中君て、あんな風じゃなかった。女の子の一番人気だった」
「うっそ」
今の田中からじゃ、とても想像できない。
「本当だよ。明るくて、気さくで、優しくて。格好よくて、お洒落で、勉強ができて」
優花の言ったことの半分はわかる。明るくて、優しくて、勉強ができて。でも、男には気さくでも、女から気さくだなんて思われるヤツじゃないし、格好よくてお洒落なんて、今の田中からじゃ、どう考えてもそれらしい姿が浮かんでこない。
田中の中学時代の事なんて聞いたことがなかった。
「その田中がどうしたの?」
「実はさ、私も中学の時に憧れていたんだ」
「田中って、もちろん田中竜彦のことだよな」
昔、優花が憧れていたなんて、想像できない。でも一体どうして優花はそんなことを話すんだろう。
「もちろん、同じクラスの田中君だよ。私はほとんど三年間、田中君一筋だった」
優花と付き合っていた頃、中学時代のことも話したけれど、そんなことを聞くのは初めてだった。
「高校受験が近くに迫ってて、みんな受験勉強してる頃、学校の帰り道で女の子何人かと立ち話をしていたの。そこに同じクラスの男の子たちが来て、一緒になって何か話し始めたの。そこには田中君もいて、結構盛り上がって、誰は誰に片想いだなんて言っていたと思う。そうしたら、突然男の子の一人が『発表します、田中の好きな人がこの中にいます』って言った」
優花は男の子が喋っている様を忠実に再現して言った。
少し間を置いてから、優花がつぶやくように言った。
「は? 田中って、竜彦のこと?」
「そう」
「どうって」
僕ははっきり言って頭の中がこんがらがった。優花は会話の途中で、それまでの事と関係のない突拍子もないことを言う。そういうときは、何か悩んでいたりする時だ。
「彼って、意外と二枚目だよね」
『彼』なんて、やけに他人行儀な言い方をした。
「二枚目?」
優花の言葉に、何を言いたいのかを探しながら、僕は田中のことを想像した。
寝癖で一部突っ立った髪の毛。ボタンの取れたシャツ。ネジくれた襟。ツルツルの学生ズボン。履きつぶしたような汚れた靴。今はだいぶマシになったけれど、少し前まではそんな調子だった。服装や自分の姿には無頓着、というより、わざとそうしているようにも見えた。性格的には裏表がなく、さっぱりとしたいいヤツだ。ちょっとばかり頑固で、視野というか、ものの考え方が狭いところがあるかもしれない。
田中が二枚目かどうかなんて考えたこともなかった。だけど、顔の作り自体は整っている。あれできちんとした格好、いや、人並みくらいになれば、いい男といえるだろう。切れ長の目、鼻筋の通ったたまご型の顔。
「二枚目かもしれない。女にもてるようなタイプじゃないけれど。でも、それがどうした?」
相談って、もしかしたら田中に付き合ってくれとでも言われたのか?
僕はそう優花に尋ねた。
「いえ、そうじゃないけど」
優花の小さくなった声を、僕はどうにか聞き取ることができた。
「じゃ、田中に惚れたか?」
僕は冗談っぽくおどけた。
「まさか」
即座に否定した。
「それじゃ、何だってんだよ」
僕はふて腐れて尋ねた。田中が一体どうしたんだろう。さっき優花の声を聞いた時の田中の様子と何か関係があるのだろうか。
「私、田中君と同じ中学で、同じクラスだったの知ってるでしょ」
そうだったっけ? 確か以前に優花から聞いたような覚えはある。
「中学の時の田中君て、あんな風じゃなかった。女の子の一番人気だった」
「うっそ」
今の田中からじゃ、とても想像できない。
「本当だよ。明るくて、気さくで、優しくて。格好よくて、お洒落で、勉強ができて」
優花の言ったことの半分はわかる。明るくて、優しくて、勉強ができて。でも、男には気さくでも、女から気さくだなんて思われるヤツじゃないし、格好よくてお洒落なんて、今の田中からじゃ、どう考えてもそれらしい姿が浮かんでこない。
田中の中学時代の事なんて聞いたことがなかった。
「その田中がどうしたの?」
「実はさ、私も中学の時に憧れていたんだ」
「田中って、もちろん田中竜彦のことだよな」
昔、優花が憧れていたなんて、想像できない。でも一体どうして優花はそんなことを話すんだろう。
「もちろん、同じクラスの田中君だよ。私はほとんど三年間、田中君一筋だった」
優花と付き合っていた頃、中学時代のことも話したけれど、そんなことを聞くのは初めてだった。
「高校受験が近くに迫ってて、みんな受験勉強してる頃、学校の帰り道で女の子何人かと立ち話をしていたの。そこに同じクラスの男の子たちが来て、一緒になって何か話し始めたの。そこには田中君もいて、結構盛り上がって、誰は誰に片想いだなんて言っていたと思う。そうしたら、突然男の子の一人が『発表します、田中の好きな人がこの中にいます』って言った」
優花は男の子が喋っている様を忠実に再現して言った。
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