いつか君に巡り逢える

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
31 / 47
第2章

しおりを挟む
「田中君のこと、どう思う?」
 少し間を置いてから、優花がつぶやくように言った。
「は? 田中って、竜彦のこと?」
「そう」
「どうって」
 僕ははっきり言って頭の中がこんがらがった。優花は会話の途中で、それまでの事と関係のない突拍子もないことを言う。そういうときは、何か悩んでいたりする時だ。
「彼って、意外と二枚目だよね」
 『彼』なんて、やけに他人行儀な言い方をした。
「二枚目?」
 優花の言葉に、何を言いたいのかを探しながら、僕は田中のことを想像した。
 寝癖で一部突っ立った髪の毛。ボタンの取れたシャツ。ネジくれた襟。ツルツルの学生ズボン。履きつぶしたような汚れた靴。今はだいぶマシになったけれど、少し前まではそんな調子だった。服装や自分の姿には無頓着、というより、わざとそうしているようにも見えた。性格的には裏表がなく、さっぱりとしたいいヤツだ。ちょっとばかり頑固で、視野というか、ものの考え方が狭いところがあるかもしれない。
 田中が二枚目かどうかなんて考えたこともなかった。だけど、顔の作り自体は整っている。あれできちんとした格好、いや、人並みくらいになれば、いい男といえるだろう。切れ長の目、鼻筋の通ったたまご型の顔。
「二枚目かもしれない。女にもてるようなタイプじゃないけれど。でも、それがどうした?」
 相談って、もしかしたら田中に付き合ってくれとでも言われたのか?
 僕はそう優花に尋ねた。
「いえ、そうじゃないけど」
 優花の小さくなった声を、僕はどうにか聞き取ることができた。
「じゃ、田中に惚れたか?」
 僕は冗談っぽくおどけた。
「まさか」
 即座に否定した。
「それじゃ、何だってんだよ」
 僕はふて腐れて尋ねた。田中が一体どうしたんだろう。さっき優花の声を聞いた時の田中の様子と何か関係があるのだろうか。
「私、田中君と同じ中学で、同じクラスだったの知ってるでしょ」
 そうだったっけ? 確か以前に優花から聞いたような覚えはある。
「中学の時の田中君て、あんな風じゃなかった。女の子の一番人気だった」
「うっそ」
 今の田中からじゃ、とても想像できない。
「本当だよ。明るくて、気さくで、優しくて。格好よくて、お洒落で、勉強ができて」
 優花の言ったことの半分はわかる。明るくて、優しくて、勉強ができて。でも、男には気さくでも、女から気さくだなんて思われるヤツじゃないし、格好よくてお洒落なんて、今の田中からじゃ、どう考えてもそれらしい姿が浮かんでこない。
 田中の中学時代の事なんて聞いたことがなかった。
「その田中がどうしたの?」
「実はさ、私も中学の時に憧れていたんだ」
「田中って、もちろん田中竜彦のことだよな」
 昔、優花が憧れていたなんて、想像できない。でも一体どうして優花はそんなことを話すんだろう。
「もちろん、同じクラスの田中君だよ。私はほとんど三年間、田中君一筋だった」
 優花と付き合っていた頃、中学時代のことも話したけれど、そんなことを聞くのは初めてだった。
「高校受験が近くに迫ってて、みんな受験勉強してる頃、学校の帰り道で女の子何人かと立ち話をしていたの。そこに同じクラスの男の子たちが来て、一緒になって何か話し始めたの。そこには田中君もいて、結構盛り上がって、誰は誰に片想いだなんて言っていたと思う。そうしたら、突然男の子の一人が『発表します、田中の好きな人がこの中にいます』って言った」
 優花は男の子が喋っている様を忠実に再現して言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

処理中です...