いつか君に巡り逢える

原口源太郎

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第2章

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 優菜は話したいことが山ほどあるみたいだった。さっそく今日の出来事を報告してくれる。
「二時間目は生物だったんだけど、その先生がすごく怖いの。映画に出てくる悪役みたいな顔で、授業が終わるまでブスッとしているんだもん」
「知ってる。山岸だろ?」
「そうそう。山岸先生。何だか危ない人なんじゃないかと思っちゃう」
「ハハハ」
 僕はおざなりに笑う真似をした。優菜はとことん無邪気だ。僕や優花も二年前はそうだったのだろう。
「でも、俺はあの先生、大好きだった」
「えー、嘘」
「本当だよ。そのうちわかると思うけれど、ユーモアがあって、面倒見のいい人だよ」
「そうなの?」
「授業中、ずっと仏頂面していながら、よく下らないギャグを言うんだ。親父ギャグ。そのギャグがあまりにも下らなさ過ぎて、かえって面白い。俺たちの反応なんてお構えなしにギャグを飛ばして、一人で悦に入ってる。次の授業くらいから親父ギャグが出てくると思うよ。でも、最初のうちは誰もギャグに気が付かないもしれない。ギャグを言っても、あの仏頂面は変わらないから」
「へー、そうなんだ」
 優菜は可愛い顔で、素直に感心している。髪がだいぶ伸びた。後ろ髪が肩から下に垂れている。
 その時、僕たちの目の前に三人の女の子が小さな店から出てきた。
 僕は足を止め、優菜からすっと離れる。
 三人のうち、一人は大樹の彼女の沢口だ。沢口の親友の野牧という女の子は口が軽くて、何でもすぐぺらぺらと喋るから、その子にはとても気を使っていると大樹が言っていた。二人のうちの一人は野牧に違いない。
 沢口は僕を見ると、笑顔でかすかに頭を下げた。昨年の秋に大樹が彼女がいると打ち明けてから、僕たちの前では二人の中を隠そうともしない。だから僕は何度か顔を合わせたことがある。
 沢口以外の二人の女の子の関心は僕にはなく、優菜にあるようだった。僕が慌てて優菜との距離を取ったのを見られたかもしれない。明日、学校中で二人の仲が噂になっている場面が頭に浮かんだ。その場を繕ういい考えが浮かばなかった。
 三人の女の子は優菜と僕をチラチラと見ている。
 優菜も同じ高校の生徒と察したのか、その場で俯いている。
 こうなったら開き直るしかないと決めた。堂々としていればいい。
 優菜に声をかけようとした時、急に腕を引っ張られ、僕はびっくりした。
 どこかで見た女の子が、僕を見て親しげに笑っている。
「お待たせ。行きましょう」
 そう言って僕の手を引っ張り、どかどかと歩いていく。
「優菜も早くおいで」
 女の子は優菜に手招きし、なおも僕の腕を取って歩いていく。
 僕は沢口に軽く笑いかけて、三人をやり過ごした。
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