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第1章
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彼女の住んでいる場所を突き止めたことは、大樹と勇介には黙っておくことにした。これ以上つまらない心配をさせるのも気の毒だ。
グリーンハイツというマンションには覚えがある。何かで耳にしたか、読んだかして気に留めた。
それが何だったのか、思い出せない。ネットで調べてみて、大体の場所がわかった。何か心に引っかかる。
やっと思い出したのは、少女からグリーンハイツという名前を聞いて、五日も経ってからのことだった。自分の記憶力のなさに、ただただあきれるばかりだ。
金曜日の古典の授業中、僕はぼんやり優花の後ろ姿を見ていて、ぱっと頭に浮かんだ。
グリーンハイツといえば、優花の住んでいるところじゃないか。
授業が終わると、僕は優花に一緒に帰ろうと誘った。
校門を出たところに優花が立っていた。僕は無言で優花の前を通り過ぎる。優花も僕と並ぶようにして歩き出す。
それは僕たちが付き合っていた頃、二人で帰るときのやり方だった。
二人とも電車通学だから、駅までは一緒に行ける。駅に着けば、お互いの乗る電車は反対方向へ走り出す。
僕たちはみんなが歩く通りから一本それた通りを歩いた。
「何、話って?」
優花が惚れ惚れする目で僕を見る。
「この前、女の子に一目惚れしたって話したろ。その子の居場所がわかったんだ」
「凄いじゃない」
「グリーンハイツっていうマンション」
「私のうちじゃない。まさか私のこと?」
「冗談言うな。そのマンションで、それらしき人を知らない?」
「私より可愛い子なんていないわよ。名前は?」
「名前はわかない。マンションの名前だけしか知らない。俺たちと同じくらいの年だと思うんだけど」
「そんな人いたかな? ちょっと詳しく話してみてよ」
優花は彼女にかなり興味を持ったらしい。
僕は優花の様子を見て不安になった。日曜日に少女が教えてくれたことはデタラメだったんじゃないだろうか。
「一カ月ばかり前の日曜日に、大樹たちと海に遊びに行こうってことになって、駅前で待ち合わせした。大樹たちを待っている時、たまたま目が合った女の子がすごくかわいい人で、その時、話でもすればよかったんだけど、できなかった。後でその子のことを考えれば考えるほど会いたくなって、日曜日のたびに駅前に出かけて、その子を待ち続けた。どこの誰かも知らないから、そうするしかなかった」
「凄い」
優花がつぶやくように言った。
「この前の日曜日に、やっと見つけた。慌てて追いかけたけど、張り込んでいたところが遠くて、見失った。でも、その時に一緒にいた中学生くらいの女の子に夕方、会えたんで、色々訊いてみた。何だか怪しい奴に思われたみたいで、住んでいるところしか教えてくれなかった」
ぷっと優花が噴き出した。
「怪しい奴」
そう言って僕を見る。
「そう。怪しい奴だから、グリーンハイツっていうのも嘘かもしれない」
すると優花は考え込むように無表情になった。
グリーンハイツというマンションには覚えがある。何かで耳にしたか、読んだかして気に留めた。
それが何だったのか、思い出せない。ネットで調べてみて、大体の場所がわかった。何か心に引っかかる。
やっと思い出したのは、少女からグリーンハイツという名前を聞いて、五日も経ってからのことだった。自分の記憶力のなさに、ただただあきれるばかりだ。
金曜日の古典の授業中、僕はぼんやり優花の後ろ姿を見ていて、ぱっと頭に浮かんだ。
グリーンハイツといえば、優花の住んでいるところじゃないか。
授業が終わると、僕は優花に一緒に帰ろうと誘った。
校門を出たところに優花が立っていた。僕は無言で優花の前を通り過ぎる。優花も僕と並ぶようにして歩き出す。
それは僕たちが付き合っていた頃、二人で帰るときのやり方だった。
二人とも電車通学だから、駅までは一緒に行ける。駅に着けば、お互いの乗る電車は反対方向へ走り出す。
僕たちはみんなが歩く通りから一本それた通りを歩いた。
「何、話って?」
優花が惚れ惚れする目で僕を見る。
「この前、女の子に一目惚れしたって話したろ。その子の居場所がわかったんだ」
「凄いじゃない」
「グリーンハイツっていうマンション」
「私のうちじゃない。まさか私のこと?」
「冗談言うな。そのマンションで、それらしき人を知らない?」
「私より可愛い子なんていないわよ。名前は?」
「名前はわかない。マンションの名前だけしか知らない。俺たちと同じくらいの年だと思うんだけど」
「そんな人いたかな? ちょっと詳しく話してみてよ」
優花は彼女にかなり興味を持ったらしい。
僕は優花の様子を見て不安になった。日曜日に少女が教えてくれたことはデタラメだったんじゃないだろうか。
「一カ月ばかり前の日曜日に、大樹たちと海に遊びに行こうってことになって、駅前で待ち合わせした。大樹たちを待っている時、たまたま目が合った女の子がすごくかわいい人で、その時、話でもすればよかったんだけど、できなかった。後でその子のことを考えれば考えるほど会いたくなって、日曜日のたびに駅前に出かけて、その子を待ち続けた。どこの誰かも知らないから、そうするしかなかった」
「凄い」
優花がつぶやくように言った。
「この前の日曜日に、やっと見つけた。慌てて追いかけたけど、張り込んでいたところが遠くて、見失った。でも、その時に一緒にいた中学生くらいの女の子に夕方、会えたんで、色々訊いてみた。何だか怪しい奴に思われたみたいで、住んでいるところしか教えてくれなかった」
ぷっと優花が噴き出した。
「怪しい奴」
そう言って僕を見る。
「そう。怪しい奴だから、グリーンハイツっていうのも嘘かもしれない」
すると優花は考え込むように無表情になった。
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