いつか君に巡り逢える

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
19 / 47
第1章

19

しおりを挟む
 彼女の住んでいる場所を突き止めたことは、大樹と勇介には黙っておくことにした。これ以上つまらない心配をさせるのも気の毒だ。
 グリーンハイツというマンションには覚えがある。何かで耳にしたか、読んだかして気に留めた。
 それが何だったのか、思い出せない。ネットで調べてみて、大体の場所がわかった。何か心に引っかかる。
 やっと思い出したのは、少女からグリーンハイツという名前を聞いて、五日も経ってからのことだった。自分の記憶力のなさに、ただただあきれるばかりだ。
 金曜日の古典の授業中、僕はぼんやり優花の後ろ姿を見ていて、ぱっと頭に浮かんだ。
 グリーンハイツといえば、優花の住んでいるところじゃないか。
 授業が終わると、僕は優花に一緒に帰ろうと誘った。

 校門を出たところに優花が立っていた。僕は無言で優花の前を通り過ぎる。優花も僕と並ぶようにして歩き出す。
 それは僕たちが付き合っていた頃、二人で帰るときのやり方だった。
 二人とも電車通学だから、駅までは一緒に行ける。駅に着けば、お互いの乗る電車は反対方向へ走り出す。
 僕たちはみんなが歩く通りから一本それた通りを歩いた。
「何、話って?」
 優花が惚れ惚れする目で僕を見る。
「この前、女の子に一目惚れしたって話したろ。その子の居場所がわかったんだ」
「凄いじゃない」
「グリーンハイツっていうマンション」
「私のうちじゃない。まさか私のこと?」
「冗談言うな。そのマンションで、それらしき人を知らない?」
「私より可愛い子なんていないわよ。名前は?」
「名前はわかない。マンションの名前だけしか知らない。俺たちと同じくらいの年だと思うんだけど」
「そんな人いたかな? ちょっと詳しく話してみてよ」
 優花は彼女にかなり興味を持ったらしい。
 僕は優花の様子を見て不安になった。日曜日に少女が教えてくれたことはデタラメだったんじゃないだろうか。
「一カ月ばかり前の日曜日に、大樹たちと海に遊びに行こうってことになって、駅前で待ち合わせした。大樹たちを待っている時、たまたま目が合った女の子がすごくかわいい人で、その時、話でもすればよかったんだけど、できなかった。後でその子のことを考えれば考えるほど会いたくなって、日曜日のたびに駅前に出かけて、その子を待ち続けた。どこの誰かも知らないから、そうするしかなかった」
「凄い」
 優花がつぶやくように言った。
「この前の日曜日に、やっと見つけた。慌てて追いかけたけど、張り込んでいたところが遠くて、見失った。でも、その時に一緒にいた中学生くらいの女の子に夕方、会えたんで、色々訊いてみた。何だか怪しい奴に思われたみたいで、住んでいるところしか教えてくれなかった」
 ぷっと優花が噴き出した。
「怪しい奴」
 そう言って僕を見る。
「そう。怪しい奴だから、グリーンハイツっていうのも嘘かもしれない」
 すると優花は考え込むように無表情になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

三度目の結婚

hana
恋愛
「お前とは離婚させてもらう」そう言ったのは夫のレイモンド。彼は使用人のサラのことが好きなようで、彼女を選ぶらしい。離婚に承諾をした私は彼の家を去り実家に帰るが……

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

処理中です...