いつか君に巡り逢える

原口源太郎

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第1章

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 ドアまで走っていこうとして、店のおばちゃんと目が合った。
 慌ててテーブルに戻り、伝票を取り上げると、急いでレジへと向かう。
 ポケットから財布を取り出すのももどかしかった。
 何慌ててるんだ、バカ野郎。こんな時には冷静になって落ち着いて行動したほうが早いんだぞ。そんなことを頭では考えていたけれど、体と心はとても落ち着いてはいられない。
 小銭をばらばらと床にこぼし、千円札を放り出し、おつりはいいと言ったつもりで何も言えずに、僕は喫茶店を飛び出した。
 エスカレーターを、人をかき分けて二段跳びに駆け下り、ビルを出る。近くの横断歩道の青信号がペカペカと点滅している。
 僕は狂ったように走った。
 動き出そうとする車を押さえつけるようにして、僕は通りを駆け抜けた。
 彼女の姿はどこにもなかった。
 彼女が歩いていた方向へがむしゃらに走った。交差点や狭い横道では、直角方向一キロ先まで彼女がいないか確認した。(つもり)
 何人もの人を突き飛ばすようにして走りまわり、へとへとになって立っていられないほど疲れた挙句、手に入れたものは何もなかった。
 僕は参考書を放り出してきた、さっきの店に戻った。なんだかとても悲しくなって、体が重く感じる。
 さっき僕が座っていた席はきれいに片付けられていて、そのテーブルには客がいなかった。
「もう一杯コーヒー、いいですか?」
 テーブルにつく前に、僕はおばちゃんに注文した。
「はい」
 おばちゃんは訳知りの顔で僕を見て返事をした。
 椅子に座ると、おばちゃんは水と一緒に僕の参考書を持ってきてくれた。
「しばらくここにいてもいいですか?」
 僕はおばちゃんに尋ねた。
「どうぞ、ゆっくりしていって下さい」
 そう言って、おばちゃんは微笑んだ。
「それから、先にコーヒー代を払っておきたいんですが」
「さっき頂いたからいいですよ。お代わりがいるようでしたら仰って下さい」
 そう言って歩いていくおばちゃんの後ろ姿に、僕は感謝した。これでさっきみたいな失敗はしなくて済む。
 僕はがっかりしていたけれど、新しい希望も持っていた。ついに彼女が現れた。どこかに行ったのなら、帰りにもう一度現れるはずだ。その時こそ彼女を捉まえなければならない。
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