いつか君に巡り逢える

原口源太郎

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第1章

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 という訳で、日曜日の朝、僕は先週と同じ時間に家を出た。
 空をどんよりとした霧のような雲が覆い、今にも雨が降り出しそうだ。
 僕は適当な店を見つけると、早速窓際の席に陣取った。駅の出入り口は見えず、彼女を見かけた場所がどうにか見えるくらいだったけれど、大抵の人の流れはここから把握できる。
 コーヒーを頼むと、ぼんやりと道を歩く人たちを眺めた。
 親子連れ、家族、友達同士、恋人同士。一人で歩いている人が一番多いけれど、二人以上もかなりいる。楽しげに騒いでいる人たち。颯爽と歩いていく人。誰かを待っている人。
 二時間コーヒー一杯で粘ったけれど、だんだん落ち着かなくなってきた。一人きりでずっとテーブルを占領していていいものだろうか。もう一杯コーヒーでも頼もうか。
 そう考えている時だった。
 外で、にやけた顔が僕を見た。大樹と勇介だった。
 二人は店に入ってきて、僕のテーブルに座る。こんなに二人が有り難く思えたことはなかった。
「まだこんなところにいるってことは、今日も空振りか」
 椅子に座るなり大樹が言った。
「頑張ってんじゃん」
 早速、勇介が慰めてくれる。
「あ、コーヒー三つとハムサンド、たまごサンド、それにツナサンド」
 水を持ってきたウエイトレスに、早速大樹が告げた。
 ウエイトレスが去ると、大樹は悪戯っぽい目で僕を見る。
「お前のおごりな」
 えっ。動揺して素早く財布の中身を思い出してみる。
「冗談だよ。それより、今の子、可愛いんじゃない?」
「誰、誰?」
 勇介が素早く話に乗ってくる。
「ここの店の子。そっちが目当てだったりして」
「まさか」
 僕は言った。
「そうだよ、おばさんじゃん」
 そんな会話を交わしながらも、僕の意識の大部分はガラスの向こう側にあった。
「内山が好きになった女って、どんな人?」
 僕の視線を追うようにして勇介が尋ねた。
「どんな人って?」
「例えば女優の誰々に似ているとか」
 そう言われて、僕は考え込んでしまった。そんなこと考えてもみなかった。彼女の顔を思い浮かべてみようとしたけれど、浮かんでこない。
「二週間前に、ちらっと見ただけだから」
「どんな顔か覚えてないの!?」
 勇介は驚いたように声を出した。
「全く覚えてないわけでもないんだけれど」
「それでどうやって見つけるつもり? 手掛かり全くなしじゃん」
 僕は返す言葉がなかった。でも自信はあった。彼女を見過ごしてしまうなんてことはない。彼女のことをきれいさっぱり忘れてしまったとしても、いや、この前の出会いがなかったとしても、もう一度彼女を見れば雷に打たれたような衝撃があるはずだ。
 僕は危うく優花に似ていると言いそうになった。顔立ちが似ているんじゃなく、持っている雰囲気が優花をイメージさせた。それは彼女を見た時に思ったのか、後で優花と彼女をだぶらせているうちに形作られたものかはわからない。
 生まれてから今まで、一目惚れなんて経験は二度しかない。優花と彼女だ。僕が思っている以上に二人は似ているのかもしれない。
 悲しいことに、優花の顔はすぐに思い浮かべることができるのに、彼女の顔は思い浮かべることができない。彼女が現れない限り、彼女と優花を比べることはできない。
「いいよな。僕も燃えるような恋がしてみたいぜ」
 沈黙が支配した空気を追い払うかのように、勇介がわざとらしく言った。
「お前じゃ無理だ」
 大樹がすかさず続ける。
「そりゃ二人はモテるからいいけど。石井、彼女の事を話せよ。付き合ってるんだろ」
 勇介が大樹に言った。大樹は決して自分からそんなことを言わないヤツだし、僕たちも何だか訊いちゃあいけない気がして何も言わなかった。ただ、ちょっと前まで不特定多数の女の子と話をしているのは見たことがあっても、付き合っているという雰囲気はなかった。
 それが最近、下級生の女の子と楽しそうに話をしているのを何度か見た。女の子と話をする時もいつもぶすっとしているのに、その子とは楽しそうに話をしているのを見て驚いた。
「隠すこともないだろ」
 勇介はしつこく言う。
「別に隠してるわけじゃねーし」
 照れるのを隠すように大樹はぶっきらぼうに言った。
 大樹の性格上、こそこそ女と付き合っていると思われたくなくて、洗いざらい話すだろうと思った。一見、女嫌いに見える大樹が、どういう経緯で女の子と付き合うようになったのだろうか。
 僕の興味は窓の外から大樹の話に移っていった。
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