5 / 47
第1章
5
しおりを挟む
授業が始まっても、僕はさっきのことが気になって仕方がなかった。
机三つ隔てた横の一つ前の席に座る優花は、真剣に先生の話を聞いている。斜め後ろから見ても十分に綺麗だ。
不意に優花が僕を見た。目が合ってふっと微笑む。
ドキッとして、僕は慌てて視線を黒板へと移した。
僕は女の子と話をするのが苦手だけれど、その中では優花が一番話しやすい。
もちろん理由がある。
僕は高校入学早々に恋をした。一目惚れだった。
入学式の時、ちらっと見た横顔が格好良かった。友達と話す笑顔がとびきり可愛かった。
それが優花だった。
たちまちのぼせ上がり、いつもポーッと優花を見ていた。たまに視線が合うたびに僕は慌てて視線をそらした。それまで女の子と付き合ったことのない僕は、美しい女の子の姿を見ているだけで十分幸せだった。
優花に恋をして一カ月ほど経った時の放課後、僕はクラスメイトの女の子に呼び出された。
人影のまばらな図書館の隅に三人の女の子がいた。
僕は嫌な予感がした。
「内山君、優花のこと、どう思う?」
僕が三人の前に行くと、いきなり僕を呼び出した佐々木が言った。優花は二人の間で俯いている。
僕はすぐに言葉が出てこなかった。
それでも、いつまでも黙っているわけにはいかない。
「いきなりなんだよ」
僕は正直ビビッていた。
優花は性格も明るくて素直だったから、たちまちみんなの注目の的になっている。いつもじろじろ見ている僕をうっとおしく思ったに違いない。
「真面目に答えてよ」
真顔で佐々木が言った。
僕はカーッとなり、顔が赤くなるのを感じた。
「どーしてそんなこと」
僕が言いよどんでいると、優花が顔を上げた。今にも泣き出しそうな真剣な表情だった。
「好きだ!」
そう言うと、情けない話、僕は三人に背を向けて走り出した。
翌日、僕は学校に行くのに気が重たかった。優花や佐々木と顔を合わせるのが嫌だった。もしかしたら、前の日のことが、クラス中の噂になっているのかもしれない。
教室に入ると、皆の視線が僕に集まったりはしなかった。その日もいつもと同じように過ぎていく。
僕は優花のことが気になって仕方がなかった。何かボーっとしていて、気が付くと優花を見ていた。でも優花は一度も僕を見なかった。
学校からの帰りに、僕は一つのことを決めた。もう決して優花をぼんやり見たりしない。それは悪い癖だ。
優花に対して何の感情も持っていないように振る舞う。もちろん優花を好きな気持ちに変わりはない。
その気持ちを胸のずっと奥にしまい込んでおこう。
机三つ隔てた横の一つ前の席に座る優花は、真剣に先生の話を聞いている。斜め後ろから見ても十分に綺麗だ。
不意に優花が僕を見た。目が合ってふっと微笑む。
ドキッとして、僕は慌てて視線を黒板へと移した。
僕は女の子と話をするのが苦手だけれど、その中では優花が一番話しやすい。
もちろん理由がある。
僕は高校入学早々に恋をした。一目惚れだった。
入学式の時、ちらっと見た横顔が格好良かった。友達と話す笑顔がとびきり可愛かった。
それが優花だった。
たちまちのぼせ上がり、いつもポーッと優花を見ていた。たまに視線が合うたびに僕は慌てて視線をそらした。それまで女の子と付き合ったことのない僕は、美しい女の子の姿を見ているだけで十分幸せだった。
優花に恋をして一カ月ほど経った時の放課後、僕はクラスメイトの女の子に呼び出された。
人影のまばらな図書館の隅に三人の女の子がいた。
僕は嫌な予感がした。
「内山君、優花のこと、どう思う?」
僕が三人の前に行くと、いきなり僕を呼び出した佐々木が言った。優花は二人の間で俯いている。
僕はすぐに言葉が出てこなかった。
それでも、いつまでも黙っているわけにはいかない。
「いきなりなんだよ」
僕は正直ビビッていた。
優花は性格も明るくて素直だったから、たちまちみんなの注目の的になっている。いつもじろじろ見ている僕をうっとおしく思ったに違いない。
「真面目に答えてよ」
真顔で佐々木が言った。
僕はカーッとなり、顔が赤くなるのを感じた。
「どーしてそんなこと」
僕が言いよどんでいると、優花が顔を上げた。今にも泣き出しそうな真剣な表情だった。
「好きだ!」
そう言うと、情けない話、僕は三人に背を向けて走り出した。
翌日、僕は学校に行くのに気が重たかった。優花や佐々木と顔を合わせるのが嫌だった。もしかしたら、前の日のことが、クラス中の噂になっているのかもしれない。
教室に入ると、皆の視線が僕に集まったりはしなかった。その日もいつもと同じように過ぎていく。
僕は優花のことが気になって仕方がなかった。何かボーっとしていて、気が付くと優花を見ていた。でも優花は一度も僕を見なかった。
学校からの帰りに、僕は一つのことを決めた。もう決して優花をぼんやり見たりしない。それは悪い癖だ。
優花に対して何の感情も持っていないように振る舞う。もちろん優花を好きな気持ちに変わりはない。
その気持ちを胸のずっと奥にしまい込んでおこう。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる