天気管理士

冲田

文字の大きさ
上 下
1 / 1

天気管理士

しおりを挟む
「……このように、季節によって高気圧と低気圧の配置はおおよそ決まっています。……あら、チャイムが鳴ってしまったわ。今日の授業は終わりです。みなさん、国家試験まであと少しですから、家に帰ってからもちゃんと勉強してくださいね」
 
 とっても退屈な、天気図の授業の先生が教室から出て行くと、ウェザはふぁと大きなあくびをした。 

「あ、おい、スノ。今日の天気図のノート貸して」
 
さっさと荷物をまとめて教室を出て行こうとするスノを、ウェザは呼び止めた。スノは決してがり勉タイプではないが、ノートだけはきちんと取っている。 

「また寝てたのかよ、ウェザ。そんなんじゃ国家試験受かんないぞ?  せっかく難関勝ち抜いてこの学校入れたっていうのにさ」
 
「大丈夫だって。卒業できれば資格は取れる仕組みになってるから」
 
「……その情報大間違いだよ。今までの先輩方が優秀だっただけ」
 
 スノはため息をつきながらも、ウェザにノートを貸してやった。ウェザはノートを頭上に掲げて頭をさげ、サンキュ!  助かる!  の意を示した。


「そういえばウェザはさ、なんで天気管理士になろうと思ったわけ?」 

学校からの帰り道、スノはウェザにたずねた。 

「なんでって、だって雲上世界じゃこんなに高給で安定した職業ないじゃないか。絶対失業しないし、倒産しないし。スノだって似たようなもんだろ?」 

「まあ、そこは否定はしないけど。おれは地上世界の人たちが今より天災に悩まずにすむようにって、一応志はあるよ。でも思っていたより退屈そうな職業だなーっていうのは、学校に入ってみて正直思った。天気を管理するっていったって自分でできること少なそうだもんな」

 
 天気管理士とは読んで字のごとく、天気を管理する職業だ。地上世界の天気は世界各地に散らばった天気管理士たちが決める。自分の仕事の結果が非常に明快でやりがいがあり、しかも高給で安定しているので雲上世界では人気の職業だ。人数の枠が少ないにも関わらず希望者は非常に多いので、まずは難関の専門学校に合格し、卒業して国家資格をとらなければならない。最高のエリート職とも言える。そのかわり国家資格さえ取ってしまえば、ほぼ100%天気管理士としての仕事ができるようになる。 

「まあね。あれはやっちゃだめ、これはやっちゃだめ、世界中の動きを見て、均衡を乱さないで……。禁止事項ばっかだからな。でも、その方が楽でいいよ。あんまり自由気ままに管理できちゃったら大変だ」 

ウェザの言葉にスノはうん、と頷いた。天気管理士はその気になればどのようにだって天気を操れる。しかし、実際の仕事は世界中を見渡して、いかに矛盾なく天気を移り変わらせるかに注力する。少しでも狂えばここかしこで「異常気象」になるからだ。
  おしゃべりをしながら歩いていると、ふと足元が光った。雷だ。そして直後にゴロゴロという音。かなり大きかった。 

「あれ?今日このあたりって雷とか夕立の予定あったっけ?」 

スノが不安げな顔でウェザに言った。ウェザはさぁ、と肩をすくめた。なんとなく胸につっかかるような、嫌な予感がする。雷が発生していたのはこのすぐ近くだ。二人は顔を見合わせると、そちらの方向に走り出した。 

 さほど幅の広くない川に掛かる橋に、人影を見つけた。クラスメイトのレインだ。どう考えても今の雷を発生させたのは彼だった。川底には予定外の激しい嵐が起こっている地上世界が見えていた。 
 ウェザは口よりも早く、レインを殴り飛ばした。
 
「おい、レイン!  お前何やってるんだよ‼︎」 

ウェザのかわりにスノが怒鳴った。 

 ウェザに勢いよく殴られてしりもちをついたレインは、頬をさすりながらムッとして立ち上がった。 

「何って、嵐・雷の法の練習だよ」 

「練習だって?学校外での練習は法律で禁じられてるじゃないか。ましてや、嵐・雷の法は上級職でさえ扱いが難しいっていうのに!  俺たちはたかだか候補生だろ?」 

 悪びれる様子のないレインに、スノはまくしたてた。ウェザは川底を見た。地上世界は大変なことになっている。レインにとってはほんのちょっとの練習のつもりだったのかもしれないが、今や大型台風でも上陸したのかという状態に発展していた。ウェザは、スノのお説教を話し半分に聞き流すような態度をとっていたレインの胸倉をひっつかむと、強引に川をのぞかせた。川底から見える地上の様子を見て、レインはようやく事態を飲み込んだらしい。顔が真っ青になると、その場にへたりこんだ。 

「確実にお縄だな、これは。ほら、早速警察官が来た」 

レインと一緒に交番に行き、いろいろと事情聴取のようなことをされた後、ウェザとスノはひとまず部屋から出された。
 
「ああいうの見ちゃうと、天気管理士の責任の重さを実感するよね」 

スノはどことなく沈んだ声でウェザに言った。 

「実感してるのかな?なんだかんだいったって俺たちは雲の上から高見の見物だから…地上が本当にどんなに大変かなんてわからない」
 
「確かに……。大丈夫かな、地上は。きっと今頃天気管理士たちが辻褄あわせに奮闘しているんだろうけど。こんなことがあったら退屈とかいってらんないかもね」
 
「いや、実は異常気象ってのは、天気管理士が退屈しのぎに起こしてるものなのかもよ」 





 end

 2008/11
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

白石マリアのまったり巫女さんの日々

凪崎凪
ライト文芸
若白石八幡宮の娘白石マリアが学校いったり巫女をしたりなんでもない日常を書いた物語。 妖怪、悪霊? 出てきません! 友情、恋愛? それなりにあったりなかったり? 巫女さんは特別な職業ではありません。 これを見て皆も巫女さんになろう!(そういう話ではない) とりあえずこれをご覧になって神社や神職、巫女さんの事を知ってもらえたらうれしいです。 偶にフィンランド語講座がありますw 完結しました。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

半纏姉ちゃん

吉沢 月見
ライト文芸
母が死んで、姉の存在を知った。

【随時更新】140字創作百合/CPなしツイノベログ

りつ
ライト文芸
ツイッターなどで書いた140字(前後)の創作百合/CPのないツイノベのログです。1本ずつに繋がりはないのでどこからでもお読み頂けます。ハッピーなものからビターなもの、SFチックなものまでいろいろ。じわじわ増えます。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

出来損ないのなり損ない

月影八雲
ライト文芸
鉱一は、生まれながらの『呪い』により、過度に他人を恐れていた。 そして『独り』を選んだ。 それは自分を守るため。 本心を隠し、常にその人にとっての『いい子』であり続けようとする鉱一。 しかし、ニセ者は段々と彼の心を蝕んでいくのだった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...