君がいる今

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君がいる今 29話

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―つとむー
南さんのいきなりのビンタが衝撃だったが、ファンからしたらありえない事実だと思う。
使命のために自分を利用しようとしていたなんて。
僕だったら、すごくショックだ。
それにきっと立ち直れない。
「ありえない?何が?僕だって好きで悪魔に生まれたわけじゃない!もう帰ろう、セレネ。」
やっと口を開き、自分の意見を言ったユーラさん。
月川さんに話しかけるも返事がない。
「どうしたの?セレネ」
「ユーラとは帰らない」
「え?」
「今までこうしたほうがいいって、色々ユーラに作戦立ててもらったけど、電話で話してたみたいに今は演技のほうが大事なんでしょ?それなら私、自分で自分のやり方で使命を果たす」
月川さんは羽を広げ、一人でどこかへ飛んで行った。
ユーラさんはその行動をよく思わなかったのか、月川さんを追いかけずに、来海翼の姿に変わって、舞台があった建物のほうへ飛んで行った。
「あのさ、南ちゃん…」
「私たちも帰ろう…」
「そうだね」
そこには、不穏な空気が流れた。


電車の中、クロスシートに向き合って座る僕と南さん。
アキラくんは一人になりたいと言い、南さんが座っている席の後ろの席に座っている。
自分を市の運命へと導こうとしている人たちが自分のことを好きで、もう一人は、南さんの推しだなんて事実急には整理できないだろう。
月川さんが近くにいる以上、南さんの恋を実らせるのまでが今までよりも簡単ではなくなる。
月川さんの能力が能力だ。めんどくさそう。
「ねぇ、もしかしてつとむくんは知ってたの?アキラくんの事」
「アキラくんの事」というのはアキラくんの正体だろう。
「はい、実は入学したばかりのころに公園で話しているのを聞いてしまって…」
「そんな前からだったんだ…」
「黙っててすみません」
「謝ることじゃないよ。気にしないで」
優しい言葉をかけてくれた南さんは、作り笑顔であろう笑顔を僕に見せた。
「それにしてもびっくりだね、翼くんが女の子だったなんて」
「そうですね…あ、そういえば、なぜか女の子の僕っ子は少し良いなと思ってしまった自分が…」
「私も思った!!僕っ子女子があんなこと言ってたなんて今になったら笑えるよね」
「そうですね」
マイナスな話をしないようにと気を使ってくれている。
うまい返事ができたのかできなかったのか微妙だけど、一応笑顔になってくれたからよかった。
アキラくんなら、もっとうまい励まし方をすると思うのにな。

「今日はありがとう!」
「いえ、こちらこそです!帰りはどうするんですか?」
「お母さんが、今日は早いからって向かいに来てくれるから大丈夫!」
「なら安心ですね!」
「うん!じゃあまた学校で!」
南さんはお母さんと待ち合わせしている駅の駐車場へと向かった。
「行ったよ?何も言わなくてよかったの?」
「あぁ、何を言えばいいか分からないしな」
僕が思ったよりもアキラくんも精神にきている…
いや、にやついている?
「ククク…俺の予想は全部当たっていた!!さすが俺!!」
「また自画自賛!?ほんとにまったく…心配して損したよ!!もしかして、一人になりたいって…」
「そう!また新たな天才的な作戦を考えてたんだ!」
「で、その作戦は考えられましたか?」
「えっとね、二人の能力からして無理!」
僕はその適当な発言にズッコケた。
僕は、アキラくんも南さんと同じく、僕に気を使ってくれていることは分かった。
けど、僕はこの会話を楽しむことにした。
ほんとにアキラくんといると、新太といるときの楽しさとまた違う楽しさがある。
だから、そんな優しさとユーモアのある悪魔らしくない悪魔を大事にしたいと思う。
「さぁ、帰るよ」
僕は、家の方向に向かって行こうとした。
「待って!飛ぶよ!」
「ふぇ!?」
驚きすぎて、変な声が出た。
人けのないところまでアキラくんに引っ張られた。
そこで、アキラくんは、羽を出した。
「準備はいい?」
「準備も何も、飛ぶって言って、羽を出したってことは…」
「そう!そういうこと!!」
一瞬で、僕の足は、地面から遠ざかった。
今、僕は、飛んでいる。
アキラくんと一緒に飛んでいる。
「どう?空を飛ぶ気分は?」
「すっごく気持ちがいいよ!」
「よかった!」
僕も空を飛べる能力が欲しいななんてこと、初めて思った。
こんな気持ちのいいこと、他にない。

駅から僕の家までそう遠くはないから、空の旅は、すぐに終わった。
「楽しそうだったな、飛んでる時のお前」
「うん!送ってくれてありがとう!」
「あぁ、またいつでも空の旅に連れてってやるよ!」
「ほんとに!?」
「あ、うん…」
「やったー!楽しみにしてる!」
「あぁ、またな!」
「じゃあね!」
アキラくんは、自分の家の方向へと飛んで行った。
楽しかったけど、少し反応が子供だったかな。
そう思いながらも、まだワクワク感が残っていて、たまらない。
そんなルンルン気分のまま、家に入った。
「ただいまー」
「おかえり!つと…む?」
「いおさん!?!?」
玄関には、いるはずのない人がいた。
夢かと思って、腕をつねったが、夢ではないみたいだ。
いおさんも僕の普段と違う姿に驚いている。
「なんか、普段と雰囲気違うね…」
「えーっとアキラくんにコーディネートしてもらって…」
「そうなんだ…」
お互いにこの状況に驚いていると、母に「二人とも話すならリビングで話しなさい」と言われた。
リビングで、なぜ来たのかを聞くと、新太たち柊家といおさんたち桜井家の家族ぐるみでの旅行のお土産を新太ではなく、いおさんが持ってきてくれたみたいだ。
「それにしてもさっきは驚いたよ!他の人かと思って焦った~つとむって眼鏡ないほうが、いいと思うよ!」
「ないほうが…」
僕は、いおさんの言葉を聞いて、椅子から立ち上がった。
「ん?どうした?」
「えっと、今日してない分の勉強をしなきゃいけないから、あの、勉強します!それでは!」
「ちょっ!え?」
僕は、自分の部屋がある二階へと上がっていった。
母が色々言っているのが聞こえたが、それどころではなくて、答えられなかった。
だって、いおさんに褒められた今の僕の顔のままじゃ、恥ずかしくて、あの場にいられない。いや、いたくない。
少し褒められただけで、にやけて、耳が赤くなって…
いおさんが家に来たのは、全部新太の仕業だと思った。
多分、今日みんなで撮った写真を新太に送ったからだ。
お洒落をした南さんをあらたに見せようと送ったのに、逆効果だった。
僕は、新太に電話をした。
電話をするとまさかの恋愛話が…
南さんのことを好きだと気付いた新太の恋愛話は、夜遅くまで続いたのだった。
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