君がいる今

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君がいる今 27話

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―南―
「ねぇ、さっきのどういうこと?」
部活が終わって帰り道を歩いているアキラくんに問いかけた。
部活前のアキラくんの突然の発言。
いつも私が翼くんの話をしているときにする難しそうなアキラくんの顔。
その二つが引っかかってしょうがなかった。
「別に~余ってるなら、桜子ちゃんと二人で見たいなーって」
「舞台分からないのに?」
「ちょっとは興味あるよ」
「舞台に?」
「そうだよ?他に何があるっていうの?俺に質問ばかりして…あ、ちょっと待って」
会話の途中でアキラくんの携帯の電話が鳴った。
「あ、もしもしマユちゃん?ごめん、今日行けなくなった~ほんとごめんね~」
その電話の相手は女の子だった。
チャラいアキラくんは、今日も女の子と予定があったみたい。
「女の子との予定も断ったし、南ちゃんが気になっていることについて話そうか」
「やっぱり何か翼くんについて…って、女の子との予定があるならそっちに行けば?マユちゃん?もアキラくんと遊んだり話したりしたいんじゃない?」
私は、大事な話よりも、アキラくんがこんないつもいつも女の子と遊んでいることに呆れてしまった。
遊んでいるといことよりも、約束より私と話すことを優先したことに腹が立った。
「こっちの話のほうが大事だし!あ、もしかして他の女の子と電話してるの見て焼きもち妬いちゃった?」
いきなり、アキラくんの顔が近づいてきた。
好きでもないのにドキドキしている。
いきなりすぎてどうしたらいいのか分からない。
「否定しないって事は、焼きもち妬いてくれたの?」
違う、そうじゃない。
そんなわけない。
「そんなわけねぇーだろ!!」
「え…」
横から新太くんの声が聞こえてきた。
今の一瞬、何が起きたのか分からなかった。
目の前には新太くんがいて、アキラくんは少し離れた場所で肩を痛そうに抑えている。
「あらたきゅん、いきなり痛いよ~」
「柏木さん、大丈夫?」
「あ、うん」
「って無視かよ!!」
何をしたのかは分からないけど、どうやら新太くんがアキラくんに暴力を振るったみたい。
私は、さっきドキドキしていた時よりも心拍数が上がっているのを感じた。
「お前、また柏木さんにちょっかいかけて!!」
新太くんは、私を守るように私の前に立って、アキラくんに向かって言った。
こんな状況、中学生の頃の私に想像できなかった。
ほんとに夢みたいで、ただ夢じゃないことを祈る。
「今日はちょっと南ちゃんから話があって、その流れで…」
「話の流れであんなことなるわけないだろ!」
今まで見たことのない新太くんの姿が少し怖くもあり、かっこいいとも思う自分がいた。
「ほんとだってーねぇ、南ちゃん!」
「え?あー私から話しかけたのはあってるけど、さっきの事は知らないかな…」
「ほらみろ!」
「そんなぁ~南ちゃん庇ってくれないの~」
「庇うって…」
庇うも何も私は、ほんとのことを言っただけだった。
他に何も言うことはない。
「柏木さんが困ってるだろ!さっさ帰れ!」
「はいはい、帰りますよ!あとは二人で仲良くねー」
アキラくんは、諦めて角を曲がって行った。
「アキラくん!!」
「え!?柏木さんっ!」
私はなぜかアキラくんを追いかけるように角を曲がった。
その曲がった先の道には、もういなかった。
「柏木さんどうした?」
「えーっと」
いつものように言葉に詰まってしまった。
「そういや、あいつどこに行ったんだ?」
道にいないのは多分、飛んで帰ったから。
さっき言葉に詰まったのは、これが原因だった。
新太くんは、アキラくんがデルミンだと知らない。
だから、飛んで行ったなんて言えない。
「いつも逃げ足だけは早いんだよな」
「いつも?」
「あぁ、部活終わったらいつもどっか…」
新太くんは途中で何かに気づき最後まで言うのをやめた。
「あの…さ…」
「な、何?」
「アキラが帰ったから、俺ら二人だよな?」
「…!?そう…だね…」
私も今更になって気づいた。
二人きりなんて初めてじゃないけど、帰り道が二人きりなんていうのは初めてだった。
まさか、アキラくんはまた新太くんがいることに気づいてあんなことを…
そのことに気づくと少しさっきの対応が申し訳なかったと感じた。
「よ、夜も遅いし家まで送っていくよ」
「そ、そんなのいいよ…!新太くんと私降りる駅同じだけど、家は逆方向でしょ?」
「俺の体力よりも柏木さんが襲われないか心配だ」
「いつも大丈夫だよ?だから駅までで…」
「大丈夫じゃない!!」
いきなり大声を出されてびっくりした。
「なん…で…」
「いきなり大きな声出してごめん、でも俺が心配する理由は、柏木さんがか…」
「か?」
「なんでもない!とにかく心配なんだ!」
そんなに心配されてるのかと嬉しいようで少し悲しいような気がした。
見た目は幼いって家族に言われるけど、もう私だって高校生なんだよって言いたかった。
けど今はそれよりも…
「ありがとう!じゃあ、今日はお言葉に甘えて送ってもらおうかな」
「おう」
実は…
「新太くんとも話したいし」
「何か言った?」
「なんもない!」
「そっか」
小さな声でつぶやいた本音は、彼には届かなかった。
まぁ、いっか。

いつもよりたくさん話せた。
新太くんの好きな曲や好きな食べ物、好きな漫画。
時々、共通して好きなものがあったりして話が盛り上がった。
ぎこちないいつもの雰囲気とアキラくん達みたいな普通に話せる男子と話しているときの間のような感覚。
少しはステップアップできたかな。
「ここだったよね?」
「う、うん」
いつの間にか家に着いていた。
楽しい時間はもう終わり。
「送ってくれてあり…」
「南!今帰ってきたの?タイミングぴったし!!そのかっこいい男の子はどっかで…」
ちょうど帰ってきたばかりのお母さんが車から降りてきた。
「お、お母さん!中学から一緒の柊新太くんだよ!遅いから送ってくれたの」
「あーあの誕生日にプレゼントくれた子ね!」
「ちょ、そんなこと言わなくていいって!」
「ほら、見ての通り毎日どんな髪型でも新太くんがくれたヘアゴムつけてるでしょ?南にプレゼントしてくれてありがとね!」
「は、はい…」
そう。私が毎日つけているゴムは、中学校の頃に新太くんにもらったものだ。
好きな人にもらったものだから毎日身につけたい。
もらった日からずっとそう思い続けている。
「それでは俺はこれで…」
「待って!送って行くわ」
お辞儀をして帰ろうとする新太くんをお母さんは引き止めた。
「いえ、大丈夫ですよ」
「少し話したいことがあるの、だからお願い」
「それなら私も!!」
「だめ!!南は夕食の準備してて!さぁ、新太くん行くわよ!」
「は、はい!お願いします」
結局、新太くんはお母さんに送ってもらうことになった。
新太くんは、車に乗った。
お母さんが気を利かせ、新太くんが座っているところの窓を下げた。
「じゃ、じゃあね」
「おう、また明日!」
いつもの別れと違い、新太くんは笑顔だった。
さっきお母さんが言っていた、話したい事が少し気になるけど、新太くんが安全に帰れるから、安心。
またいつか一緒に帰りたいな。
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