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第三章 流転する運命
第100話 老人と若者
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三人はメグに導かれて館の最上階にあるイゴールの部屋に入った。彼は椅子に深々と座って、杖を握り締めていた。彼の右手には小さな机が一つ置いてあった。
「さて、ヨハネ。今後の身の振り方を決めましたか。あなたが望むなら、この館で働いてもいいのですよ」
「ありがとうございます。でも私はマリアを助けに行きます」
「決心したのですか」
「はい、私の心はもう変わりません」
「あなたは東ミゲル商会がどこにあるのか知っているのですか」
「エル・カピタルと呼ばれる東の街にあると聞きました」
イゴールはため息をつくと語り始めた。
「エル・デルタを出て、エル・マール・インテリオールの海を東へ東へ進むと、突き当りに『ラ・クエスタ』と呼ばれる大きな街があります。その街からさらに北東に進むとこの国の副王が暮らす『ヌエヴォ・ヴァリャドリッド』があります。ジェン紙幣はここで刷られています。その街を越えてさらに東に進むと、『ラス・ティエラス・ネグラス』と呼ばれる大穀倉地帯があります。この国の食料の半分近くはそこで作られているはずです。そこからさらに東に行くと、大きな山が立ちはだかっています。それを越えると、たくさんのガレオン船が停泊する港湾があります。そのほとりにあるのがエル・カピタルです。長い長い旅になりますよ。それでも行きますか」
「はい、もちろんです」
「仮にエル・カピタルまで行き、マリアという娘を取り返したとして、どうするつもりですか?」
「彼女を連れ帰り、彼女の生まれ故郷まで返します」
「なぜですか」
「それが私のやるべき事だからです。私が人生に負い目を作らず生きて行くためにやらなければならないのです」
イゴールは深いため息をついて、両手で顔を覆った。しばらく黙っていた。
「若い人よ。私の目は潰れそうです。私にはその心もちは分かりかねます。……きっと若い時に、誰もがひととき持つ心の輝きなのかもしれません」
そう言うとイゴールは涙ぐんだ目で、ヨハネの顔を見つめた。
イゴールの後ろにはこのあいだと同じ絵が掛かっていた。その絵の中の男は、このあいだのように青白い顔でまずそうにパンを食べていたが、光の加減か、その頬に少しだけ赤みがさしたように見えた。
「さて、ヨハネ。今後の身の振り方を決めましたか。あなたが望むなら、この館で働いてもいいのですよ」
「ありがとうございます。でも私はマリアを助けに行きます」
「決心したのですか」
「はい、私の心はもう変わりません」
「あなたは東ミゲル商会がどこにあるのか知っているのですか」
「エル・カピタルと呼ばれる東の街にあると聞きました」
イゴールはため息をつくと語り始めた。
「エル・デルタを出て、エル・マール・インテリオールの海を東へ東へ進むと、突き当りに『ラ・クエスタ』と呼ばれる大きな街があります。その街からさらに北東に進むとこの国の副王が暮らす『ヌエヴォ・ヴァリャドリッド』があります。ジェン紙幣はここで刷られています。その街を越えてさらに東に進むと、『ラス・ティエラス・ネグラス』と呼ばれる大穀倉地帯があります。この国の食料の半分近くはそこで作られているはずです。そこからさらに東に行くと、大きな山が立ちはだかっています。それを越えると、たくさんのガレオン船が停泊する港湾があります。そのほとりにあるのがエル・カピタルです。長い長い旅になりますよ。それでも行きますか」
「はい、もちろんです」
「仮にエル・カピタルまで行き、マリアという娘を取り返したとして、どうするつもりですか?」
「彼女を連れ帰り、彼女の生まれ故郷まで返します」
「なぜですか」
「それが私のやるべき事だからです。私が人生に負い目を作らず生きて行くためにやらなければならないのです」
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「若い人よ。私の目は潰れそうです。私にはその心もちは分かりかねます。……きっと若い時に、誰もがひととき持つ心の輝きなのかもしれません」
そう言うとイゴールは涙ぐんだ目で、ヨハネの顔を見つめた。
イゴールの後ろにはこのあいだと同じ絵が掛かっていた。その絵の中の男は、このあいだのように青白い顔でまずそうにパンを食べていたが、光の加減か、その頬に少しだけ赤みがさしたように見えた。
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