ガレオン船と茶色い奴隷

芝原岳彦

文字の大きさ
上 下
102 / 106
第三章 流転する運命

第99話 再会

しおりを挟む
「おい、ヨハネ! 起きろよ」



 ヨハネは飛び起きた。目の前には見覚えのある顔が2つ並んでいた。

 ペテロとパウロだった。



「無事だったか。ずいぶんひどい目に遭ったそうじゃないか」

「2人ともどうしたんだ」

「お前に会いに来たのさ」

「今まで通り仕事を続けろと言っただろ! 私の共犯だと思われたらどうするんだ」

「簡単さ。『先輩奉公人が後輩を連れて悪所《あくしょ》に遊びに行く』と言っておいた。誰も疑わない。みんなやっているからな。それより背中に彫り物と焼き印を入れられたって聞いたぞ。見せてみろよ」



 そう言うとペテロはヨハネのシャツをまくり上げて背中を見た。

 ペテロは喜色で顔を赤くし、パウロは衝撃で真っ青になった。



「これはすごいな。男ぶりが一段と上ったじゃないか。ははっ」

「ペテロさん、何を言ってるんですか。……これはひどい」

「気にするなよ。沖仲士おきなかせ川人足かわにんそくの中には、惚れた女の名前を入れ墨にしたり、度胸試しで腕に焼きごてを当てるやつはたくさんいるぞ。パウロ、お前もセシリアの名前を腕に彫れよ。あの娘、きっと喜ぶぞ」

「嫌ですよ。そんなのしなくても十分です」

「それで、ヨハネはこれからどうするんだ」



 ヨハネは寝台の上に腰かけると少し考えて、言った。

「今度はマリアを助ける。東ミゲル会社まで行く」



 ペテロとトマスは顔を見合わせた。そして口々に言った。

「ヨハネは東ミゲル商会がどこにあるのか知っているのか? 『エル・カピタル』と呼ばれる遥か東の街だ。そんな遠い所まで金を持っていないお前がどうやって行くつもりだ」

「そうですよ。どうやって行くんですか。金も時間もいくらかかるか想像もつきません」

「それでも、私は行く。費用は、何か働いて稼ぐ。私は馬車や馬を扱えるし、たくさんの人足仕事をしてきた。読み書きも金勘定もできる。何かしら方法はあるはずだ」

 ペテロとトマスはまた顔を見合わせた。



 部屋に沈黙が訪れた。



 二人ともヨハネが言い出したら聞かない性格だとよく知っていた。だが、この無謀すぎる旅をヨハネ一人で完遂できるとは思えなかった。路傍に死すのがオチではないか、二人はそう考えた。

 扉が開いてメグが入って来た。

「あら、三人で楽しそうね」

「メグ。無事でよかった」



 ペテロはそう言うと、その高い背でメグの上から覆いかぶさるように近づいた。メグは半歩下がってペテロを見上げると、腕組みをして言った。

「なんとかね。大変だったけど。みんな、イゴールが呼んでるわ。彼の部屋まで来てちょうだい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...